彼はデートの準備をする
さてデートをするにあたって決めなければいけないことは、行き先と服装。行き先はアリアが行きたいところがあるらしいのでそこで決定。どんな服装がいいのか聞いたら少し歩くかもと言われた。なるほど。自分に服装のセンスがないことはもう知っているので、考えずに人に聞くことにした。
「姉ちゃん。デートの服装なんだけど学ランとジャージどっちがいいと思う」
「どっちも最悪」
「そんな選択肢はない」
「有れ。もし彼氏がその格好でデートに着たら私だったら殺す……というかあんたデートに行くの?」
「ああ」
すると姉ちゃんはかわいそうなものを見る目をオレに向けてくる。なんだよ可愛い弟の初デートだぞ。お祝いしろ。
「そう。部屋のどのフィギュアを連れ歩くの?道端で話しかけちゃダメよ」
「オレがいつも部屋で話しかけてるみたいに言うのやめろ。生身の人とだよ」
「あんたねぇ。言ったでしょ。そういうサービスに手を出すぐらいなら私にお金を使いなさいって。彼女がいる匂わせ写真ぐらい撮らせてあげるわよ。それをネットの海に投稿して寂寥感をなぐさめればいいわ」
「よし。その喧嘩かった」
オレは姉ちゃんにつかみかかった。制圧された。
「いやね。お姉ちゃんに襲い掛かるほど飢えているなんて。身の危険を感じるわ」
「現在進行形でオレの身が危険なんですけど」
「大丈夫よ。人間の体はそう簡単には壊れないわ」
「壊したことがある人の言い方」
「そういえば最近あんたで遊んでなかったわね。あんたの受験期は我慢してた私えらいわー」
はははは、やだな姉ちゃん。文法が間違ってるぞ。この場合はあんたでじゃなくてあんたとが正しいんだぞ。あ、待って、そっちには可動域ないよ。あ。
…………………………。
「悲しい事件だったわね」
「おい犯人」
殺した後に涙を流すやばい殺人鬼かよ。
「で、何の話だっけ?あんたが私とのツーショット写真買ってくれんだっけ」
「言ってない。買わない」
「そうそう、あんたが次に買いたいフィギュアの話よね。あれでいいんじゃないプ〇キュア」
美少女キャラのチョイスが安直。
「そんな話してない。オレがデートに行く服装を選んで欲しいっていっただろ」
「嘘でしょ?本当にあなた彼女いたの?嘘だわ」
「言葉の途中で何を確信してんだよ。彼女じゃないよ、ただのクラスメイトの女子」
「そんなのでデートとか浮かれてたの?気持ち悪いわぁ」
もうなんでもいいんでさっさと服装決めてくれませんかね?
***
「ひどいわ」
姉ちゃんがオレのクローゼットを見て絶望してる。すごいや僕のクローゼット!オレより姉ちゃんにダメージを負わせている。
「こんなに服がないなんてどうかしてるわ。日々何を着てるの?全裸」
それは着てないと言うんだよ。
「学ランとジャージ」
人間それだけで事足りるもんですよ。社会人になるとここにスーツが加わり、学ランが抜ける。生きていうえで必要な服は3着なのかもしれない。
「小さくなって捨てる服はあるけどわざわざ買いに行かないから減る一方なんだよね」
姉ちゃんはポイポイと服を取り出し、オレのクローゼットをあさっていく。
「ジャージ以外の服があったと思ったら、痛いTシャツだし」
姉ちゃんは背中に美少女をあしらったTシャツを広げて嫌な顔をする。人を一人背中に背負うことができるという頼りになる人間の象徴みたいなTシャツなのに。
「全然、痛いTシャツじゃないよ。意外にいい生地使ってるから肌に優しいよ」
「ひっぺがすわよ」
肌をですか?
オレは姉ちゃんが投げ捨てる服を拾ってはたたんでおいていく。
「こういうのは自分で買うからな」
「こういうのしか買ってないじゃない。どうするのよこんなのでデートに行ったらそのクラスメイトの子泣くわよ?」
笑う気がするけど。
「でもこれなんて中々いいセンスだと思うんだよ。チャンピオンのTシャツなんだけど……」
「それもスポーツメーカーじゃない」
「違うよ。ほら」
ね。いい色合いでいいセンスでしょ。
「……ジャージじゃないわね。胸元にカタカナでチャンピオンって入ってるわ。ダサい。こんなのどこのブランドが作ってるのよ」
「さあ?T〇Sとかじゃない」
「なんでテレビ局よ」
おそらく版権がそこだから?
「あとは私のお下がりか。あんたこれまだ着れるの?」
「着れるのも着れないのもある。でも姉ちゃんから貰ったもんだから中々捨てれなくてさ」
オレは姉ちゃんがくれたパーカーを見ながら言う。これは姉ちゃんが小学校の時着ていたパーカーだ。大きなどくろが特徴的。姉ちゃんイカすセンスしてるな。
「あんた……」
「姉ちゃんがあげたものを捨てたとわかったらオレは一体どんな目に合わせられるのか、怖くて」
「こういう目じゃないかしら」
チャ、チャンピオーン!
「はぁ仕方ないわね。私が買ってあげるわ。ちゃんと男物の服をね」
オレが変わり果てた姿になったチャンピオンTシャツをみてこの世を儚んでいると姉ちゃんは言った。姉ちゃんは取り出した服たちを適当にオレのクローゼットへ突っ込んでいく
「あの姉ちゃん、たたんであるからできれば綺麗にしまっていただけると……今なんて」
傍若無人な姉の口から聞いたことのない言葉が出てきた。時が止まったようにオレは静止する。姉ちゃんがオレに服を買ってくれる。オレの女装が見たいがために服を買ってくれることはあったが、それは姉ちゃん自身のためだから何もおかしなことはない。しかし男物の服を買ってくれるという。何が狙いだ。オレの極彩色の脳細胞が活発に動き始める。
「はっ!チャンピオンTシャツが欲しい?」
「いらないわよ、そんなの。勘違いしないで、あんたのためじゃない。不憫な女の子のためよ」
それはオレと出かけるのが不憫なのか、これらの服装でデートに来られるのが不憫なのかどっちなのだろう。きっとどっちもですね。
「それでデートはいつ?」
「明日」
「あんた明日女装で行きなさい」
「不憫な女の子増えるだけだぞ」
そりゃ服装なんて前日の夜に選ぶに決まってんじゃん。




