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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第一章 クーデレ女子がこんなに可愛い
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やはり先輩は頼りなる

 おかしい。あきらかにおかしい。日下部くんが変だ。


 マラソン大会があった次の週、朝いつものように挨拶をしてきた日下部くん。それだけだった。こっちに喋りかけもしなければ、こちらを向きもしなかった。いつもだったらくだらない話題を話しかけてきたり、私とアリアが喋っているのを生暖かい目で見てきたのに。そのたびにこちらも睨みつけ、日下部くんがさらに笑みを深めるというところまでが、今までの普通だった。


 昼休みにも一緒にご飯を食べることはせず、一人さっさとどっかへ行ってしまった。そして放課後もさっさと私たちに帰りの挨拶をすると帰ってしまう。


 変なのはアリアも同じだ。このことに全く触れない。話しかける、話題を出すことは3人の中ではアリアが一番だっただろう。そのアリアが日下部くんに話しかけることも、話題をふることもしなくなっていた。


 私が話しかければいいのだろうが、今までそんなことしてきたことがないのでどうすればいいかわからない。こんなところでも私はアリアに甘えていたのねと自分の未熟なところを発見し気分が落ちたぐらいだ。


 事務的なことを話しかけることはできる。話しかければ日下部くんは答えてくれた。いつも通りに。余計に違和感がました。ならばなんでいつもみたいにバカをやらないのか。これではまるでただのクラスメイトみたいだ。


 ただのクラスメイト?


 私と日下部くんの関係はそれで正しい……はずだ。


 私とアリアの関係ははっきり言える。親友。小学校からの付き合いで、互いにどんなことでも知っている親友だ。アリアだってそう思ってくれていると自信をもって言うことができる。


 では私と日下部くんの関係は?


 ただのクラスメイト?アリアの気に入ってる人?友達?親友?


 日下部くんは私との関係をどう思っているんだろう。私は日下部くんとの関係をどう思っているのだろう。


 わからない。何もわからないまま。5日がたってしまった。日下部くんのジャージをまだ私の家にある。これを返してしまったら本当に何かが終わるような気がして。


 ***


 今日も今日とて私はアリアの家に来ていた。私の練習がない休日はいつもどちらかの部屋に遊びに行っている。相変わらず大きな家だ。


 「いらっしゃい、りんちゃん」


 「おじゃまします」


 いつも通りアリアは自分の部屋に通してくれる。十分な広さではあるが家の大きさを考えれば小さな部屋がアリアの部屋だ。おそらくアパートに住んでいる私に気をつかっているのだろう。こんなことで私がアリアに嫉妬するはずがないというのに。


 クッションに座り、アリアがお茶を持ってきてくれる間、私は一人そわそわと揺れていた。


 「お待たせ~」


 「いつもありがとう、アリア」


 「もうそれは言わない約束でしょ」


 守りたいわね。この笑顔。


 はっ!アリアの可愛さに魅了されている頭を振って煩悩を追い出す。


 「あの、アリア」


 「宗介くんのこと、だよね」


 「……うん。気づいているわよね、おかしいことに。日下部くんも、アリアも」


 「それにりんちゃんもね」


 「私も?」


 「気づいてなかったの?りんちゃんずっと日下部くんを意識してた。授業中もチラチラそっち見ているんだもん。まあそれに気づいた私も大概か」


 そんなはずはない。私は授業に真面目に受けていた……はずだ。最近は本当に曖昧なことばかりだ。


 「アリアは何で日下部くんが私たちと距離を置くようになったか知ってるの?」


 「う~ん。むしろそれは私が聞きたかっただけどな。私がマラソン大会の次の日に電話で言われたのは、「悪い、もう協力できなくなった。オレは伊万里さんとの約束を違えて信頼を裏切った。だからごめん涼白さん」これだけ。いや~参ったよ。何か言い返そうと思ったんだけどさ、最後に名前の呼び方が戻ってるのを聞いた時怖くなちゃって、何も言えなかった。人に明確に線を引かれるってあんなに怖いんだね」


 私との約束。思い出せ。私は何を日下部くんと約束した。私と日下部くんが真面目に約束するはずがない。じゃあいつものような言い合いの中で、


 「あっ」


 屋上で会話したときのことを思い出した。


 ----


 「そう。だったら指一本でも触れたら私たちに関わらないって約束できる?」


 「もちろん。約束する」


 ----

 

 なんてことはない会話の流れで出てきた言葉だ。私も端から信用していなかった約束だ。私は今の今まで約束だとも思っていなかった。


 「アリア、日下部くんに指一本でも触れたことある?」


 「……ないかも。いつか私がグータッチを求めたときもはぐらかされた気がするし、うん、ないよ」


 ならば決まりだ。私はアリアに約束について話した。


 「そうなんだ」


 「彼はあの日私の手を掴んだ時点でこうすることを決めていたのね」


 なのになぜ彼はあそこまで頑張ったのだろうか。終わってしまう関係のために。私に笑ってほしいからとアリアは言った。私が笑っているからなんだというのか。


 「宗介くんに対して言いたいことでいっぱいって顔だね」


 「アリアもでしょ」


 「うん。言いたいことはやっぱり本人に直接言うしかないよね」


 「でも彼、逃げるのがすごいうまそうよ。マラソンでも3位みたいだったし」


 「そうだね。教室で特攻してもいいんだけど、その場合りんちゃんが緊張しちゃうもんね」


 そんなことないわ。と言いたいところだけれど、現にこの5日間何もしなかった私が言えることではないわね。


 「だから頼もしい助っ人を呼んでいます」


 アリアはそう言って机の下からあるものを机の上に置いた。それは通話中のスマホ。


 「先輩。会話聞こえてました?」


 『ああ。大変興味深く聞かせてもらったよ』


 大人っぽい声がスマホから響く。うちの学校の先輩?


 『やあ、竜胆ちゃん。初めまして総合家庭科部部長の海神岬だ』


 「初めまして、伊万里竜胆です。総合家庭科部は確かアリアと日下部くんの部活でしたよね」


 『その通り。竜胆ちゃんのうわさは二人からかねがね聞いてるよ』


 アリアなにを言ったのかしら。ねぇ、なんで笑ってるの。ねぇ、なんで答えないの。


 「あはは、そうだ先輩は今の話を聞いてどう思いましたか?」


 『そうだね。後輩くん、おっとみんな後輩だったね。彼、日下部宗介は人間関係がど下手だ!』


 先輩はそう言い放った。


 『彼は一回失敗しただけでその人との関係が終わったと思ってる。今までどれぐらい信頼を得たかを無視してね。彼はあれかどM仕様のギャルゲーででも人間関係を学んだのか?』


 「ぎゃ、ぎゃるげー?」


 『おっと気にしないでくれ、竜胆ちゃん達には関係のない世界の話だ。話を続けるね。約束にしてもそうだ。彼は約束が双方のものであることをわかってない。例えば竜胆ちゃんがアリアちゃんに遊びの約束を破られたらどう思う』


 「どう思うって。何かあったのか心配します」


 『そうだそれが信頼だ。今までの時間をかけて築いてきたものは約束を一度破ったぐらいでは揺るがない。さて突然だが二人とも、彼のこと好きかい?』


 「「げほっごほっ」」


 本当に突然すぎる質問に思わず噴き出した。文句を言おうとしたが、続いて聞こえてきた真剣に答えてくれという声にのまれてしまった。


 「私は、好きな方かな」


 「最初より嫌いじゃないです」


 『うん。二人とも自分のキャラにあった良い答えだ。そうそんな約束とも言えない約束を破ったぐらいでは終わらないほどの信頼を君たちは感じている。のにもかかわらず彼は君たちのことをたいそう心が狭い人間だと思ってるようだ』


 「それは……」


 『私はそう感じた。そして偶然にも今日の午後、あんなに一生懸命入部をさせろといってきたくせに退部する日下部宗介という男を私は最後の雑用と称して部室に呼び出してある』


 「本当、部活までやめようとするなんて、傷つくなぁ」


 『さてどうしたい?』


 その問いに私は。


 「雑用は今度私が手伝います。だから私にその時間をください」


 そう言って、見えないことを承知でスマホに向かって頭を下げた。日本人の性というやつだ。


 『もちろんだとも』


 先輩の頼もしい返答が心強い。


 「アリア、ごめんなさい。今日の約束を破ってもいい?」


 「うん。私も言いたいことはあるけど、たぶんりんちゃんの方がうまく伝えられると思うから」


 「わかったわ。アリアの分までちゃんと殴ってくるから」


 「殴っちゃだめだと思うなぁ」


 「大丈夫よ。合意の上だから」


 「あーあ。宗介くんは大変だ」


 二人で笑ってそんな冗談を言った。今までこんな会話なんてしたことなかったのに、日下部くんの悪い影響かしら。


 「先輩もありがとうございます」


 『可愛い後輩のためだ私はいつだって力になるよ……とかっこつけたいところだが、いやなに日下部宗介には借りがあってね』


 「借りですか?」


 『私の友達が彼氏の浮気性に辟易していてね、その浮気男を成敗するのに協力してくれたのさ。おかげで私はその友達と、あー、より仲良くなれた』


 「その話もう少し詳しく聞かせてください」


 私は先輩の話を聞いた後、アリアの家を飛び出した。やはりまだ彼と私の関係は判然としない。でもこれで終わってほしくない。そう思ったから。

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