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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第一章 クーデレ女子がこんなに可愛い
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彼と彼女は走り出す

 「私が望むハッピーエンド……」


 「そう」


 なんでもいい。


 「このまま競技場に行って、アリアに再会したいでもいい。伊万里さんに付き纏っていた先輩に文句を言いたいでもいい。このまま帰ってあったかいお風呂に入りたいでもいい。とにかく自分の心のままに、好きな結末を言ってくれ。オレはそのためなら頑張れる」


 「私は、」


 今、伊万里さんは何を考えているだろうか。あの先輩への憎しみ。自分への悲しみ。アリアへの慈しみ。彼女の中で大切なものは一体何か。ただもうそんなものはわかりきっている。


 「私は、もうこれ以上アリアに心配かけたくない。今日一緒にアリアと笑って帰りたい」


 「了解した」


 オレは歩くスピードをあげた。


 「どうするつもりなの?」


 「つまりは、あの先輩に追われて山にいたことをアリアに知られて心配かけたくないってことだろう」


 「そうよ」


 伊万里さんは男嫌いであることをオレは知っている。


 そして伊万里さんは今日のことがその男嫌いが原因であると考えている。どう考えてもあの先輩が変なのが原因だが。そしてアリアが伊万里さんの男嫌いを憂いていたことも多分伊万里さんは知っている。


 つまるところ伊万里さんはその男嫌いが原因で起きた今日のことをアリアに知られて、アリアがまた心を痛めることを恐れているのだろう。


 ならば今やるべきことは。


 「すでに心配をかけている分は仕方ない。だけど今日の行方不明の理由を笑い話にしよう」


 「そんなことできるの?」


 「やってみなくちゃ分からん。失敗したらごめんなさい」


 「あなたさっきカッコつけて、ハッピーエンドのためならなんだってできるとか言ってなかった?」


 「いやー流石になんでもは無理よ」


 グニぃと伊万里さんに頬を引っ張られる。


 「詐欺師みたいに軽い、いけない口はこれかしら」


 「いひゃいでふ。ひっぴゃらないでくだひゃい(痛いです。引っ張らないでください)」


 できるだけのことはするけども、できないことはできないよ。全くフィクションと現実の区別はつけてほしいですわ。


 「はぁ。それで笑い話って?」


 「そうだな。私より走るのが速い女子がいて負けそうになってムキになってスピードを上げてペース配分狂ってリタイアしちゃった。てへぺろ。とか?」


 「……本気?」


 「気に入らないと。じゃあ突然の腹痛。今までトイレにこもってたけどそんなの恥ずかしい。アリアに合わせる顔がないわ。てへぺろ。いひゃい、いひゃい、いひゃい」


 「よく覚えときなさい。女の子はトイレをしないの」


 なんでそんな嘘つくの?


 「あなたてへぺろをつければいいと思ってるでしょ?」


 「違うの?話をバカっぽくする魔法の呪文でしょ」


 人を殴った。といった不穏な例文もこうしててへぺろをつければ、あら不思議。人を殴った。てへぺろ。あっというまにバカっぽい文章に……なってないな。ただのサイコパスだこれ。


 「で、どうする」


 「……前者にするわ」


 「じゃあ、はいどうぞ」


 「え?」


 オレは公衆電話の前に伊万里さんをおろす。この辺にある唯一の公衆電話だ。時代の流れとともにこういったもの廃れて<中略>アニメすげー。


 「アリアに電話しないと不自然だろ」


 「もうすでにすごく不自然なのは、今更ね。これは学校からという体で電話すればいいのかしら」


 「そうだな。リタイアして先生に拾われて学校に運搬されたでいいんじゃないか」


 「人を物みたいに言わないで」


 オレは伊万里さんに小銭を渡す。伊万里さんは迷わずボタンを押し始めた。


 「番号覚えてるのか」


 「当然でしょ」


 当然なのか。というかこんな怪しい電話にアリアは出るだろうか。


 『もしもし』


 「もしもし、私。その、竜胆だけど」


 おっ、出たようだ。

 

 『りんちゃん?今どこにいるの?もうすぐ閉会式始まっちゃうよ?』


 「アリア。その、私、あのね」

 

 『うん』


 さあここから面白い話でもするようにさっき言ったことを話すんだ。伊万里さんの望みがかなうかどうかは伊万里さんの演技力にかかってるぞ。


 しかしなぜか伊万里さんは暴走した。


 「えっと、私ムキになってスピードを上げて狂ってリタイアしちゃったの」


 『え?』


 うん。どういう状況?心配されるぞ、頭を。演技力以前の問題だ。


 『りんちゃん?何を言って--』


 「あああ、ごめんアリア。その、学校の保健室でまってるから」


 ガシャン!


 意味不明な言葉と言いたいことだけ言って伊万里さんは電話を切ってしまった。ゆっくりとこちらを振り向く。


 「てへぺろ?」


 「ぶほぁ」


 いや笑うって。そんなキャラにもないこというんだから。悪かった。ごめんなさい。だからポカポカ叩かないで。もうやってしまったものはしょうがない。笑い話じゃなくて笑い者だけど。


 「じゃあ、さっさと学校に向かおう」


 オレは再び伊万里さんの前にしゃがむ。


 「私、これからアリアになんて説明すれば」


 さっきのことが尾を引いてるのか、伊万里さんは素直にオレの背に乗ってきた。


 「説明し直すしかないのでは。そもそもなんであんなことに」


 「久しぶりにアリアの声を聞いたら、なんかてんぱっちゃたのよ」


 なにそれ、かわいい。離れ離れになった土日明けとかいつもそうなの?いや土日もいつも一緒にいるのかも。実は同棲しているとか。あり得る。


 「ああ!」


 「今度は何?さっきのやつの思い出し悶え?よくある。よくある。人はそれを乗り越えて大人になるんだぞ」


 「違うわよ。さっきのを私の黒歴史認定しないで。そうじゃなくて私の荷物競技場に置きっぱなしだわ」


 荷物はトラックの中に確かまとめておいてある。オレはポケットにスマホと小銭だけ入れて手ぶらで来たけど。


 「ならもう一回電話してアリアに持ってきてもらえば?」


 「絶対無理」


 「じゃあほい」


 オレはまたスマホを渡す。


 「ロックの番号は123465」


 「最後に心ばかりの防犯意識を感じる番号ね。開いたわどうするの?」


 「小島に持ってきてもらおう」


 「小島くん……だれ?」


 かわいそうに小島。


 「うちのクラスの男子だよ。いいから電話かけてオレの耳に当ててくれ」


 「……小島なんて連絡先ないんだけど」


 「田中で登録してある」


 「バカなの」


 伊万里さんはそういいながらも電話を右手でオレの左耳に当ててくれる。


 『もしもし日下部か』


 「おん」


 『何やってるんだよ。もう閉会式始まってんぞ』


 「おいおい閉会式中に電話でるとか非常識だろ」


 『うるせぇ非常識。お前じゃなかったら電話にでてない』


 「なんだそんなにオレの声が聞きたかったのか?」


 『そんなわけあるか。お前今司会の人に呼ばれたんよ。ほら“男子第3位日下部宗介君いませんかー”』


 やだ、私マラソン早すぎ。これもすべて伊万里さんとアリアのおかげです。


 「よしアリアに代わりに表彰されてもらおう」


 『なんでだよ』


 「そんなことをどうでもよくて。小島、伊万里さんの荷物を持って今から学校に来てくれないか?」


 『お前、盗みは犯罪だぞ』


 「大丈夫。本人公認だから。伊万里さん、荷物どんなの」


 「青色のトートバックよ」


 「だってさ」


 『いや、お前何で一緒にいるんだ。というか今閉会式中だし』


 「頼むよ。小島頼む」


 『…………ああああもう!すいません!日下部くん今トイレで紙がなくて困ってるそうなので救助に行ってきます!』


 「おいこら」


 電話は切れた。


 「大丈夫そう?」


 「オレの明日からのあだ名がトイレ君になりそうな事以外は完璧」


 「そう……女の子にトイレの話題をふったから天罰が当たったのね」


 「完全に人災だろ」


 オレはスマホをポケットに入れ伊万里さんを背負いなおすと軽く走り始めた。


 「これであとはアリアが来る前に学校の保健室にたどり着けば完璧」


 「痛いし、すごく揺れるわ。タクシー使わない?」


 「そんな金ねぇよ」


 「そう、ならもっとスピードをあげなさい」


 「鬼畜か」


 その要求はおかしい。それ自分の首も絞めてるからね。


 そんなことを話しながらオレたちはどちらからともなく笑っていた。


 「ねぇ日下部くん」


 「なんだよ」


 「今少しだけ愉快な気持ちよ」


 伊万里さんはそのことだけまるで秘密のことを話すようにオレの耳元で囁いた。

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