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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第一章 クーデレ女子がこんなに可愛い
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彼は過去の自分に胸を張る

 やっとみつかった。オレは山道の下で座り込む伊万里さんを見つけた。土で汚れてはいるがひどいけがをしているわけではなさそうだ。オレは伊万里さんの手を取って山道まで引っ張り上げる。


 「おっと」


 伊万里さんがよろける。足を怪我しているのだろうか。オレは咄嗟に支える。あーあ、綺麗な顔がこんなに土で汚れてるわ。


 「!」


 「ごふっ」


 伊万里さんがすぐさまオレの体を突き飛ばす。危ないよ。あんたここで落ちたんでしょうが。


 「……ごめんなさい」


 「え、素直。調子悪い?」


 「……あなたこそ素直に受け止められないの?」


 「さっき素直に受け止められたら、突き飛ばされたんでね」


 「だから悪かったわよ…………いじわるね」


 「…………。」


 「それと、ありがとう。私を助けてくれて、ありがとう」


 誰だ。この人は。泉に落ちていい伊万里さんと入れ替わったのか。いや別にいつもの伊万里さんが悪い伊万里さんだって言ってるわけじゃないよ。なんだかいつもより性格が良いというか。うん、どう言い繕っても無駄な気がしてきた


 「伊万里さん。のど渇いてない?」


 そういってオレはポケットから出したペットボトルを渡す。伊万里さんはおずおずとペットボトルを受け取る。受け取り少し困惑したような顔をする。


 「ぬるいわ」


 そりゃポケットに入れてたからね。


 「それに封があいてる」


 そりゃ飲んだからね。


 「これあなたのよね」


 そりゃそうだ。逆にオレのじゃない方が怖くない?


 「あなたは私にあなたと間接キスをしろと言ってるのかしら?」


 「そうならないように。こうして触れないようにすればいいんじゃない?」


 口を開けてペットボトルをその中へと傾けるジェスチャーをする。こうやって口の中に液体を流し込む。こうすれば飲み口に触れないように水を飲むことができるぞ。え、知らないの?


 「私は、これでもお・ん・な・の・こ!なんだけど。そんなことできるわけないでしょ」


 ああやめて!ペットボトルの底で頬をぐりぐりするのやめて!冗談だってさっき近くで自動販売機みたからそこで買おう。


 体感温度が3℃はさがるいつものジト目でこちらにペットボトルを押し付けてくる。うん。


 「伊万里さんはそれでいいよ」


 「………はぁ。あなたやっぱりMなんじゃないの。いつもの私が良いとかおかしいわ」


 「自分のやってることにSっ気がある自覚あったんだ」


 オレは再びペットボトルをポケットの中に無理矢理詰める。


 「こんなことで別に恩を感じて、オレなんかに気をつかう必要ない。伊万里さんがああなってたら誰でも助けてたはずだから」


 だからこんなことでオレへの態度を改める必要はない。

  

 「そうね。助けてくれたのもさっきのありがとうでチャラ、これからもあなたには冷たくあたるわ……」


 伊万里さんはむんずオレのジャージの左胸当たりを手で握りしめる。


 「そんなこと言うわけないでしょうが」


 伊万里さん、怒っている?哀しんでいる?どっちだろうか。


 「こんなことで別に、ですって。悪かったわね。くだらないことであなたの手を煩わせて」


 「そういう解釈にもなるか」


 「冷静で結構。こんなことなんて言わせない。私が受けた恩は私のものよ。私の恩を勝手に取らないでくれる?その大きさは自分で決めるわ。これでチャラになんて絶対させない。でも、」


 そこで伊万里さんは息を一つ吸った。


 「でもあなたへの態度は変えない。これで満足?」


 「…………。」


 「何よ。いつもの私が好きなんでしょう?」


 「いや別に好きとまでは……あ、はい好きです。好きです」


 話の流れを折るなと言わんばかりに、オレのジャージを握りしめた手に力が入る。


 「わかればいいのよ」


 恩人に冷たく当たる宣言とはこれいかに。


 ではこれを盾にオレは仲良くなって満足か?それは何か違う気がしてならない。友達ってのはもっとこう、なんだ、自然に?なるもんだろう。これは弱みにつけこんだようで嫌だった。だからこれでいい。これがいい。


 「行こうか」


 「ええ、そうね」


 伊万里さんはオレの少し後をついてくる。そうそうこれぐらいの距離感で……伊万里さんは若干足をかばいながら歩いている。オレは立ち止まった。


 「伊万里さん……運ばれるならおんぶとファイヤーマンズキャリーどっちがいい?」


 「は、何?」


 「はーい。じゅうーきゅうーはーち」


 「え、え、え、ちょっとファイヤー……何?」


 「答えない場合はお姫様だっこになりまーす。ななーろーくごーよーん」


 「は、オヒメサマ、お姫様抱っこ!?えっと、おんぶ!おんぶがいいわ!」


 「はい、おんぶ入りまーす」


 オレは伊万里さんの前にしゃがみ込む。人間って焦らせられるといつもの判断ができなくなるよね。伊万里さんは無言だ。きっとなんともいえない顔でオレの背中を見ていることだろう。いくらか逡巡してからやっと体に重みがかかる。


 「湿ってる」


 「仕方がないでしょうが。マラソン大会だったの今日は」


 「あなたに背負ってもらうなんて一生の不覚だわ」


 「お、やったね。つまりは一生オレが伊万里さんの記憶に残るわけだ」


 「今日の不覚だわ」


 「今日という二度とこないかけがえのない日の中でオンリーワンになってしまった」


 「無敵なの?」


 無敵なわけなくない?というと思ったがやめておいた。よく考えたら伊万里さんにバックを取られている状態で、オレの生殺与奪の権は伊万里さんが握っている。オレが何か失言しようものなら、すぐさま伊万里さんの細い指はオレの首にかかるだろう。こんなことでは富岡さんに怒られてしまう。


 オレは山道から舗装された道路へとでると軽快に歩き始める。歩きやすい。これが人類の技術の結晶、道路か。先人たちに感謝を。


 「アリア。心配してるわよね」


 ぼつりと伊万里さんが言った。


 「だろうね。オレが伊万里さんの行方を知らないっていったとき、見たこともないぐらい心配そうな顔してたよ」


 なかなかクラスメイトとのあんな顔を拝むことなんてできないだろう。


 「アリアには本当に昔から心配かけるわ。あなたスマホ持ってる?アリアに連絡しておきたいわ」


 「ああ、オレもやばいかも。ここまで連絡せずに来ちゃったよ」


 オレは伊万里さんを背負った状態で器用にポケットからスマホをだして、伊万里さんに渡す。


 「ほれ」


 「ありがとう…………アリアからすごい通知が来てるわ」


 「だったら、伊万里さんのスマホはもっとすごいだろうな」


 「そうね。本当に感謝してもしきれないぐらいアリアは私を…………」


 一回戻った声のトーンがまた下がっている。心なしか伊万里さんがオレに抱き着く手にも力が入っているように思える。不安を紛らわすように。スマホを握りしめる手が震えていた。


 「なあ、伊万里さん。スマホを使う前に言っておきたいことがあるんだ」


 「何?今言わなくちゃいけないこと?」


 もちろんむしろ今しかないと思ってるよ。


 「オレはさ、ハッピーエンド厨なんだよ」


 オレはいつものトーンで自分の性質を高らかに言う。それがまるで誇りでもあるかのように。そんな突然の告白に伊万里さんは戸惑ったような声を出す。


 「は、何を?」


 「ハッピーエンド厨っていうのさ、ハッピーエンドが好きで好きでたまらないやつらのことだ。主人公が最後に死ぬなんてもってのほか。途中で味方キャラが死ぬのもオレは耐えられない。ビターエンドも受け付けない。全員生きて全員幸せ。そんなの無理だって面白くないってわかってる。でも好きなんだからしょうがないだろう。物語の筋が通っているよりも、どんなにもご都合主義でもハッピーエンドならそれがいいという本当に困ったやつなんだよオレは」


 「だからそれが何?今とどういう関係があるの?」


 伊万里さんの質問を意図的に無視する。


 オレは歩みを止めない。これはオレにとって特別なことではないから。わざわざ立ち止まって会話をするまでもない。


 バットエンドの結末を見て、その作品のハッピーエンドの二次創作を探してしまう、自分で作ってしまう。そんなオレにとってはごく普通の行動なのだから。


 「そんな困ったオレからのお願いだ。言いなよ、伊万里さん。伊万里さんのマラソン大会の、今日のハッピーエンドを。どんなにありえなくてもいい、都合が良くてもいい、伊万里さんが望むハッピーエンドを。オレはそのハッピーエンドのためなら何だってできる」

  

 どんだけ叩かれようが好きなものを好きだと言い続けた今までの自分に胸を張れるように、オレはそう宣言した。

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