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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第一章 クーデレ女子がこんなに可愛い
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彼はマラソン大会に本気で取り組む

  ポンポンと頭の中であの運動会の花火が鳴る。運動会の開催・中止を知らせるあの花火も、最近ではスマートフォンの普及や騒音問題とともに使われくなってきているらしい。オレが通っていた小学校でもいつのまにやらなくなっていた。まあ技術の発展、暮らしの変化とともに昔から使われてきたものがなくなるというのは仕方がないことである。オレだって今更黒電話で生活しろといわれても無理がある。いや、まあスマホを電話として使うことなんてほぼないけどね。正しく不便さを表すなら、黒電話かつインターネット環境なしで生活だな。それはともかくあの運動会の花火も黒電話ももはやアニメの中の産物になりつつあるということだろう。つまり何が言いたいかというと古き良き文化を後世に伝えるアニメすげーだ。アニメ鑑賞は中々高尚な趣味と言えるだろう。流石オレ、無意識にそれを趣味にするなんて根の良さが出てる。


 そんな戯言はさておき、今日は全校マラソン大会の日である。待ちに待ったというほどでは無い。平日なのに授業ないぜラッキー!ぐらいの待ち方だ。


 天気は晴れ。舞台となる運動公園トラック競技場には続々と選手たちが集まってきます。さぁこのなかで校内最速の座を手にするのは一体だれなのか!非常に気になるところです!


 競技場の入り口から次々と入ってくる生徒たちを見ながらそんなことを思った。生徒の服装を見ていると一年生は、初めての全校行事ということでまだ様子を見ているのか学校指定のジャージを着ている人が圧倒的に多い。アリアみたいに違うジャージを着ている方がむしろ少数派だ。もちろん空気を読める男オレも濁った黄色の学校指定ジャージを着ている。


 先輩になってくると学校指定ジャージの方が少数で思い思いの服を着ている。ユニホーム姿で本気モードは陸上部だろうか。ふっ、あいつらが今日のオレのライバルか。まあお手並み拝見といこうかね。着ぐるみのやつもいるな。あいつ死ぬ気か。


 「おはよう、日下部」


 「む……小島か。おはよう」


 「今、名前忘れてなかったか」


 「そんなわけないだろう。ただお前の顔をみると田中!と田中が自己主張してくるだけだ」


 「お前が最初適当に田中とかいうから」


 いやいや田中顔なんだよきっと。ほら目元とか角栄さんにそっくり!そっくりな場所といって真っ先に目元をあげるのは最早似てないのではないかと思うんだが、どうだろう。


 小島は先生に頼まれ今日のマラソンコースの地図をクラスメイトに配り歩いてたらしい。もちろんまがり角やさぼりポイントには先生が立っていて誘導してくれるが、一応目を通しておくように言われた。


 コースはこのトラック競技場を出発して運動公園をぐるりと囲むように通るランニングコースを進み、山を上り下り、また運動公園、トラック競技場へと戻ってくるというものだ。テーマはミニ箱根。やかましいわ。おそらく山がコースに入ってることがネーミングの由来だろう。安易。


 時間となりマラソン大会が始まる。まずは開会式。


 『選手宣誓、生徒会長お願いします』


 着ぐるみの人がしゅたっと立ち上がる。お前かよ。


 「モゴもー!もごもごもごもご!」


 そりゃそうだ。聞こえん。


 「何言ってるかわかんねぇよ!」


 「もごー!」


 ドン!ゴロゴロゴロゴロ!


 衝撃映像を見てしまった。横合いから飛び出してきた男子生徒が着ぐるみの人にドロップキックをかました。着ぐるみは綺麗なくの字で吹っ飛び転がる。


 「宣誓ー!」


 そのままその生徒は選手宣誓を始めた。台本通りのコントなのだろうが、吹っ飛び方がガチでみんなが引いてる。


 しかし一番怖いのは一番近くでそれを見ていた校長が微動だにしなっかたことだ。なんでこんな微妙な空気で始めなくてはならんのだ。


 さてその後準備体操をしてからいよいよスタートする。


 この前の持久走のタイム順で分けられたグループが遅いほうからスタートしていく。何を隠そうオレは一番遅く出発するつまり一番タイムが早いグループなのだよ。オレはタイムを聞いていなかったが、先生がタイムを記憶していてくれた。


 さてこのマラソン大会の目標だが、良いタイムを出して成績優秀者に入ること。それでも別にもちろん良いのだが、オレは気づいてしまった。


 このマラソン大会ではグループが違うからアリアと伊万里さんは交わらないとそう思っていた。だからただ淡々とゴールに向かって走ろうとそう思っていた。だがここでオレの脳内にはあるビジョンが浮かんだ。ゴールに向かって手をつなぎながら一緒に走るアリアと伊万里さんというビジョンを。彼女たちは二人仲良くゴールをし、万雷の拍手と祝福の花びらに迎えられるだろう。


 そうこれは未来予知。中学時代あれだけ望んだ特殊能力が開花した。自分の才能が恐ろしい。ゴール直前ぐらいに伊万里さんはアリアに追いついて一緒にゴールする(断言)。


 オレはそれを見なければならない。厳しい戦いになるだろう。アリアは最初の方のグループ。伊万里さんはそれよりちょっと後のグループ。オレは最後のグループ。


 だから、今日、オレは、ここで、限界を超える……!


 

 ***


 

 「おぇぇ気持ち悪い」


 全然無理でした。飛ばしすぎて気持ち悪い。どれぐらい気持ち悪いかというと水も摂取できないレベル。おそらく精神的ショックもある。


 トラック競技場に入ってきたオレが見たのは、すでにゴールをしタオルで汗をふくアリアだった。その瞬間に膝から力が抜けた。辛うじて踏ん張ったオレは慟哭しながらゴールをかけ抜けたのであった。


 気持ち悪さの原因は走りながら泣いたことかもしれない。いけない、いけないこんな簡単に涙を見せるなんて。たしか男が泣いていいのは、生まれたとき、親が亡くなったとき、それとアニメ見てエモいと思ったとき、この3つだったね。うむ、たくさん泣いて強くなれ。


 やっと水が飲めるまで落ち着き、汗も引いてきて座ってゆっくりと休憩する。


 するとアリアが近づいてきた。さっきまでのオレは近づくにはハードル高かったからね、


 「お疲れ、すごいスピードだったね」


 「ああ、未来予知のせいだな」


 「へぇ~そうなんだ。でね、」


 アリアも大分スルースキルが成長したようでお母さん嬉しいよ。そんな軽口も次のアリアの言葉で消えてしまう。


 「りんちゃんってどの辺にいた?もうすぐゴールまで来る感じかな」


 は?


 記憶を検索。検索結果ノーヒット。


 おっと?オレが伊万里さんを見逃した可能性?ゼロだ。


 「いや見てないぞ。もうゴールしてるんじゃないのか?」


 「え?嘘?私ずっと待ってたけど見てないよ」


 「「………………。」」


 二人の間になんともいえない空気が流れる。アリアは眉を寄せ心配そうにする。


 「いや見逃しただけかもしれない。アリアはゴール前で待っててあげなよ。伊万里さんのゴールはアリアだからな」


 「うん、わかった」


 スルースキルというよりは他のことに気が回らなくなってるだけか。


 「オレは適当に探してみる」


 「お願い」


 アリアは強ばった表情でゴールの方へと駆けていった。


 さて、オレは飲んでいたペットボトルのキャップを閉めると気合いを入れて立ち上がる。


 「まずは救護テントかな」


 運動会よろしくこのマラソン大会でもケガをした人のために救護テントが張られている。そこには養護教諭が待機しているはずだ。


 救護テントには養護教諭のおばちゃんのみ。伊万里さんは……見当たらないか。


 「すみません」


 「なあに?どこか怪我したの?頭かしら」


 なんでそこを真っ先に疑ったんですかね。


 「伊万里さんっていう長い黒髪でメガネをかけた女子がここにきてませんか?」


 「来てなかった気がするけど」


 「そうですか。ありがとうございます」


 オレはさっさと退散する。また頭の治療を勧められたらたまったもんじゃないので。


 競技場の中を見回りながら歩く。探してないところとなるとトイレぐらいか。でも美少女はトイレしないからな。


 ……冗談。トイレにこもってるならまだいい。むしろそれをオレに知られたくはないだろう。だからあと探すべきなのは、


 「観客席か」


 オレは目線を上げる。競技場であるからもちろんトラックを見下ろすように観客席が付いている。アリアがいるゴールの方の観客席はなだらかな芝生になっており目線もトラックとほぼ同じ。あそこにいたら目立つだろう。探すべきなのはスタート側。コンクリートの花弁にように見えるみんながイメージする観客席だ。オレはそこへと向かった。


 

 ***


 「おお」


 そこに登ると意外に高く。思わず声が漏れる。風が気持ちいい。


 だが人を探すとなると影になっている部分が多すぎて骨だ。一応スマホを持ってきたが、伊万里さんが持っているかどうか。あ。そもそも伊万里さんの連絡先知らねぇわ。無駄だ。


 

 「だからさっさとお前も探せって」


 「いや、お前バカだろうこんな所からだと人なんて識別できねぇよ」


 声が聞こえた。二人の男子生徒がトラックを見下ろしながら話している。サボりかな。マラソン大会中だというのにけしからん。ゴールのところで応援している生徒を見習いたまえよ。


 「さっきも言っただろ。黒髪ロングの眼鏡美人だって。この距離でもぜってー目を引くから!」


 「むーりー」


 お。


 「今日、一緒に走ってたんだけどさ、オレがスマホを落としている間に見失っちゃてよう。もうちょっとで連絡先交換できるところだったんだけどな」


 「それ撒かれてんじゃね。完全に嫌がられてるだろう」


 …………。


 「いーやー。あれは照れてるだけだね。もうちょい押せばなんとかなるね」


 「キメェー」


 オレは階段を降りる。先輩の背後へと。


 「先輩方。面白そうな話してますね。オレも混ぜてくださいよ」


 「おお、なんだ。お前も興味あるのか。でも残念だったな竜胆ちゃんはお…………あれ、お前何処かで」


 振り向いた先輩が怪訝な顔をする。オレはもちろん笑顔だ。どんな時でも笑顔を絶やさないのがオレの心情だからな。初めて聞いた?初めて言った。笑顔のままオレは先輩の胸ぐらを掴んだ。


 「どこで見失った。言え」


 そしてオレは駆け出した。

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