彼はエスコートされる
フォースワールドに入ってすぐに、目の前には大きな噴水。その噴水の前ではフォースワールドのいかれた、失礼、もとい愉快な仲間たちがお出迎えしてくれた。フォースちゃんにレオくん、ホースちゃん、ボーズくん、ホースくんと全員勢揃いだ。わお、発音で区別するの難しぎる。呼びかけたらレオくん以外全員反応しそう。
ところでホースくんは実際にみるとあれなんだね。随分とデフォルメされた姿なんだね。……あのホースくんはもう着ぐるみとして扱えばよいのだろうか。リアルホースくんは動物園にいるんだよね?どういう設定になっているのか共有しといてほしいですわ。
「最初は何処へ向かう?やっぱり遊園地からか?」
遊園地はアトラクションに並ばなくてはいけないので、時間がかかるだろう。何か乗りたい物があるなら早めに乗っておくのが吉。
「今日の予定は任して!りんちゃんとしっかり計画を立ててきたから!」
そう言ってアリアは小さいノートを取り出した。ピンク色のノートには丸っこい字で「旅のしおり」と書いてある。アリアはパララとすごい勢いでノートのページをまくっていく。最初に行く所は前の方のページに書かないかい?
「いいね。旅のしおりなんて作ってたのか。作る時にオレも誘ってよ」
オレもあーだこーだ言いながら計画する2人を見たかったのに。最初の予定はどんなもんかとアリアの横に移動して、旅のしおりを覗き込む。
「あ!もう~えっち。覗きダメ絶対」
「ごめんなさい」
見られたくないものを旅のしおりに書かない方が良いと思うの。
「日下部くん、今日は私とアリアにエスコートさせてくれるかしら」
「そりゃ勿論いいよ。いつもオレがエスコートしているわけでもないし、むしろお願いしたいくらいだ」
比べるのもおこがましいが、オレより2人の方がセンスが良い。だから任せても何も問題ないだろう。この前も自分のセンスを信じなかったら姉ちゃんに褒めてもらえたしね。姉ちゃんに褒められるってことは、これすなわち相当な偉業ってこと。教科書に載るレベル。
それに例え予定通りにいかなくても心配しないで欲しい。何かを楽しむことにかけてオレの右で出る奴はいないと自負している。オレにかかれば、爪切りだって1時間は遊べる。母ちゃんによるとオレは小さいころ爪切りを家中で走らせ遊んでいたらしい。フォルムが近未来の乗り物みたいだもんね。オレは小さい頃からセンスが良い。
「まずは水族館にレッツゴー!」
アリアが右手を突き上げ、先頭に立って出発する。その後ろをオレと竜胆が並んでついていく。冒険の始まりを告げる特徴的なファンファーレのBGMが頭の中で流れていく。
そういえば、アリアの家のお手伝いさんもフォースランドに来ていたのを見かけたな。彼女もアリアのお父さんからチケットを貰ったのだろうか。先ほどはフォースちゃんに抱きついてグリーティングを楽しんでいた。既にホースくんの耳のカチューシャつけてたし、前からのファンだったりするのかな。
***
水族館は丸っこいフォルムでいくつかの建物がくっついた施設である。外の壁には貝殻やヒトデなどのオブジェがくっついている。
そして水族館の前には当然アレがある。観光地に絶対に存在する。みんな大好き顔はめパネルだ。これってなんでどこにでもあるんだろうね。SNSが活発でない時代からあるよね。それだけあの穴には不思議な魅力があるということか。この仕組みは、きっと猫が口の小さいダンボールに突っ込んでいくのと同じ理論。多分ね。知らんけど。
「顔はめパネルあるから皆で撮ってもらおうぜ」
「いいね!」
「…………これは計画に入ってないから止めておきましょう。予定通りに進めたいし」
「誰も並んでないからすぐだぞ?」
「だよ?」
「それなら私が撮ってあげるわね」
「それは悪いよ。りんちゃんが写れないのはかわいそうだから、キャストの人に撮ってもらおうよ」
「いいえ、キャストの人も忙しいだろうし、お手を煩わせるわけにはいかないわ」
「優しさの塊かよ。じゃあお願いできるか?」
「次の顔はめパネルはりんちゃんがはめていいからね」
「ありがとう。お構いなく」
こういう所の醍醐味なのに顔はめパネルを譲ってくれるし、この開園してすぐの忙しい時間帯のキャストの人をも慮れる。そんな竜胆には熾天使の称号を授けよう。これからは是非、熾天使竜胆と名乗ってほしい。
さて、どこから顔をだそうか。パネルはホースちゃんを真ん中に配置し、周りを海の生き物たちが囲んでいる。ホースちゃん、マグロ、チンアナゴの顔の部分に顔はめ用の穴が開いている。メイン部分のホースちゃんはアリアに譲るとして、オレはやっぱりマグロかな~。ちょっとチンアナゴは狙いすぎかなと思うんだよ。その見え見えの誘いにのるのもやぶさかではないんだけどね。
オレとアリアはしっかり記念撮影した。
「気を取り直して、水族館の中に入りましょうか」
何か気がそがれるようなことあったのだろうか。
水族館に入ると、まずは展示物が何もないロビー。サービスカウンターとパンフレットのラックが置かれている。オレはパンフレットを取るのも禁止されてしまった。
「日下部くんは何か見たい生き物があるかしら」
竜胆がこれ見よがしにパンフレットを開きながら尋ねる。
「メンダコ」
「不思議なチョイスね」
やたら可愛いぬいぐるみが売られているから、実物がどんなものか気になっているのだ。ちなみにこの水族館にいなくてもいいのなら1番見てみたいのはジンベイザメだ。流石に人生で一回は見てみたいでしょう。
深海生物の所いるかしらと竜胆が呟く。まあ行ったらわかるさ。そんな竜胆をアリアがぐいぐい押しながら、順路の矢印が示す先へと進んだ。はいはい、パンフレットを見ながら歩くのは危ないですよ。足元も暗いから気をつけてね。
近未来を感じさせる銀色の自動ドアがスッと開いた。
「「「おお………」」」
3人の口から思わず感嘆の声が漏れる。
ドーム型の廊下。その周りをぐるりと水槽が囲んでいた。丁度オレたちの上をエイがひらひらと泳いでいった。にっこりと笑った顔がこちらを見ている。
銀色の鱗を光らせた魚の大群がが横を通り過ぎる。岩の隙間からは小さな魚と目が合った。ぬぼーとした顔の魚がゆっくり泳いでいく。それはまさに海の中であった。
「すごいわね」
「そうだな」
感想もそんなわかりきったことが出てくる。
廊下を抜けるとこれまた大きな水槽の広間。どうやら先ほどの廊下の水槽とつながっているようで、先ほど見た生き物たちが更に自由に泳いでいた。水槽の中で自由というのもおかしな話だが。
3人並んで大きな水槽の前に立つ。
「サメもいるんだね~」
アリアが口を半開きにして水槽を見上げながら言う。竜胆がそっとアリアの顎を上げて口を閉じる。
「捕食者と一緒に住むってどういう気持ちなんだろうね。やっぱり怖いのかな」
「少なくともあの大群で動いている魚たちは警戒しているだろうな。群れで一糸乱れずに泳いでるわけだし」
「この警戒行動を見せたいと言う人間のエゴよね」
「その行動をじっくり観賞するオレたち。これこそが罪悪感という名のスパイス……!」
「2人共、もっと楽しく見ようよ」
それはそう。オレの学年50位というインテリジェンスな部分が飛び出してしまったぜ。
アリアは水槽に顔を近づけ、まるでにらめっこするみたいにエイを追って移動する。竜胆はそんなアリアにゆっくりとついていきながら魚たちを興味深そうに観察する。
オレはスマホを取り出すと、その光景を写真におさめた。
写真には丁度2人で顔を見合わせ、ぬぼーとした顔の魚を指さしているシーンが撮られていた。例え写真を意識してなかろうと絵になってしまうのは竜胆とアリアの美少女たる由縁であろう。
水槽の端っこまで行ってから、ひょこひょことこちらに戻ってくる2人。
「もう何をやってるの宗介くん。はぐれちゃうよ?」
「心配御無用。順路はオレの後ろの道だから」
「ちゃんとエスコートしない私が悪いって?もうわがままなんだから」
「言ってないよ」
「も〜仕方がないな〜宗介くんは~」
「え?ドラ○もん?」
アリアは芝居かかった仕草で、片方の手を背中へ、もう片方の手をオレへと差し出した。
「お手をどうぞ♪」
続いて竜胆も言う。
「ここの水族館は複雑な作りでよく迷子が出ると聞いたわ」
「それは早急に改善してもろて」
「だからこれは宗介くんが迷子にならないための措置なのよ」
竜胆も恭しく、アリアとは逆の手をオレへと差し出した。
「お手をどうぞ」
オレが何かを言う前に2人が言葉を繋ぐ。
「さっき言ったよね宗介くん、エスコートされるって」
「むしろお願いしたくらい、だったわよね」
アリアと竜胆はイタズラげな笑みを浮かべながら、また少し照れまじりに手を差し出している。言った言葉には責任を持たなければなるまい。お手をどうぞに対する気の利いたセリフを考えとけば良かった。
「よろしくお願いします」
オレはシンプルにそう言って2人の手に自分の手を重ねた。その手をアリアはぎゅと、竜胆はそっと握った。多分帰ったら贅沢税が課せられてると思う。




