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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第六章 彼女たちはこんなに眩い
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彼はお月見をする。

 クラスマッチがあろうと当然部活の時間はおとずれるのです。さ~て本日の活動内容は?


 「今日は皆でお月見をやるよ」


 いえ~!ドンドン。パフパフ。


 「日下部くん、太鼓とラッパがうるさい」


 「失敬」


 盛り上がると思ったんだけどな。オレはしょんぼりしながら楽器をしまうとするが、楽器に唯織が興味を示す。


 「それなに?」


 「でんでん太鼓とラッパホーンだ」


 「へ~、よくアニメとかで流れるパフパフって効果音の正体はこんなだったんだ」


 アリアは感心した様に言う。唯織もラッパホーンを軽くパフパフと鳴らして手すさびしている。パフパフと鳴らしながら唯織は自分の体に目を落とす。


 「ふんす。私頑張るから楽しみに待っててね、そーくん」


 「ああ、頑張るのは良いことだ。頑張れ!」


 「宗介くん、無責任に返事するの止めようね」


 「じゃあ、そーくんも成長するのに協力してくれる?」


 「もちろ「宗介くん!無責任に返事するの止めようね!」


 「失礼な。ちゃんとオレは自分の発言に責任はもつ!」


 「今、『責任は取る』とか言うとややこしくなるから!」


 「落ち着けよアリア。一体何が気になると言うんだ」 ドンドン。ドンドン。


 「ほんと、ほんと」


 「宗介くん、でんでん太鼓であやそうとしないで。あと、黒崎さんは絶対わかってる。その顔はわかってる顔だもん。じゃあ、宗介くんに協力って何をしてもらうつもりだったの?」


 「もちろん、揉ん「言わせないよ!」


 「自分で聞いてきたのに」


 ぶーと口を尖らせる唯織。そんな唯織に向かってアリアは伝家の宝刀(ハリセン)を抜ハリセンしようとする。それはツッコミレベルが高いから、唯織にはまだ早いんじゃないかな。オレみたいな手練れじゃないと。ハリセンにはツッコまれる側にも技量が求められるからね。


 「そろそろお月見の説明をしてもいいかな?」


 「「「すみませんでした。お願いします」」」


 3人で仲良くごめんなさいができました。


 やれやれとした顔で先輩は、ホワイトボードに「お月見大作戦」と書いた。その横にはお月見団子と満月の絵を描いていく。キュキューと先輩の絵を描く音だけが部室で鳴っている。最後に角が2本生えたクリーチャーを横に添えると、うむと満足気に頷いた。まさかあの崩れかけのバイソンみたいなのはウサギなのか?


 「さて今日は中秋の名月だ。天気は晴れ。絶好のお月見日和になっている。なのでみんなで屋上でお月見をしようと思う。夜間学校に残る許可は、きちんと学校にとっているから安心してくれたまえ」


 先輩は説明しながらさらにホワイトボードにお月見の準備の分担を書いていく。お月見団子を作る班、豚汁を作る班、屋上で机やブルーシートを準備する班。それぞれの班に部員を振り分けていく。


 「今日は、お月見団子の他に、豚汁も作ろうと思う。お月見って言うのは秋の収穫を祝うという側面もあるからね。それに、以前サツマイモを貰ったおばあちゃんから、更に追加で野菜を貰ってしまってね。皆が作った料理を持っていたら本当に喜んでいたから、そのお礼にと」


 善の無限ループに突入しているな。


 「お年寄りに優しい海神先輩、班分けにオレの名前がないんですけど」


 「ああ君には特別任務がある」


 特別任務だと。トゥンク。オレの心がときめきを訴える。


 「君はススキ調達班だ」


 「ススキですか?」


 「ああ、河川敷に行ってそこからススキを調達してきてくれ。河川敷の植物の採取は問題ないとちゃんと確認している」


 「河川敷、普通に遠くないですか?」


 「はい、私の自転車のカギ」


 「チャリで行けと?多分往復一時間ぐらいかかりますけど」


 「クロスバイクで結構スピードでるから気を付けてね。はい、ヘルメット」


 「クロスバイク!くぅ、さっきからオレが興味をもちそうなポイントをきちんと抑えてやがる。一回乗ってみたかったんですよ。わかりました、行きましょう。風になってきます」


 「私の自転車は駐輪場の一番端にある黒い奴だから」


 「色もセンスが良い!」


 「ああそれとススキで手を切らないように気を付けてね」


 「やだ、先輩優しい……」


 よっしゃ、その特別任務果たしてみせる!



 ***


 往復40分弱で行けた。クロスバイク速い。かっけー。あと普通にスピード出過ぎて怖い。


 ススキを持って屋上に上がるともうすでに準備は完成していた。机の上には豚汁が鍋の中で湯気を立て、その横にはお月見団子がピラミッド状に積まれている。


 「おかえり、日下部くん。ススキありがとね」


 「いえいえ、先輩もクロスバイクありがとうございました。滅茶苦茶速いですね」


 オレはそう言って海神先輩に鍵とヘルメットを返す。先輩はそれを受け取ると屋上の荷物置き場になっている一角に歩いていった。その途中ポロリと先輩のズボンの尻ポケットから何かが落ちる。小さい本のようだ。オレはそれを拾う。ほう、先輩にこんな趣味が。いやこれは…………。先輩をみると周りにはたくさんの人が集まってきている。オレは少し考えてから、後で返す方が良いだろうと、自分のポケットに本を入れた。


 「おかえり宗介くん」

 

 「ただいまアリア。もう準備は終わったみたいだな」


 「うん、あとは宗介くんのススキを飾って終わりかな。それでどうしたのそのススキを入れてる壺。部室にあったっけ?」


 「良い壺だろ。昇降口にあったのを拝借したんだ」


 「何やってんの!?ダメだよ!勝手にそんなことしちゃ!」


 「校長先生には許可を取ってるよ。本当は校長室にあるでっかい壺を借りたかったんだけどな」


 「やめたげなよ。多分お高いものだよ」


 大きめの白色の壺があったんだが、それが夜空とススキに映えそうで良かったんだけどな~。仕方がないから昇降口の壺で手を打ってあげた。


 ススキの準備も完了し、皆に紙皿で豚汁が配られた。そして海神先輩が音頭を取る。


 「みんな豚汁は持ったね。準備お疲れ様。折角だからゆっくり楽しんでくれたまえ。では秋の収穫に感謝してかんぱーいただきまーす!」


 「「「「「かんぱーいただきまーす!」」」」」


 豚汁の器を皆でぶつけ合う。なにその挨拶。どこの地方の奇祭?


 「豚汁うまっ!」

 

 豚汁に口をつけると口内に旨味が広がった。しっかりとした食感のあるごぼうや人参もさることながら、ほくほくサツマイモが良い味を出している。日下部家では豚汁にサツマイモを入れないので、新鮮だ。こんにゃくも好きだし、当然豚肉も好き。この豚汁に肩まで浸かってしまいたい。そして白い米と混浴がしたい。


 すぐに食べ終わってしまったが、おかわりは皆の様子を見てからだな。いや~どこの地方の奇祭かは知らないけどすごい美味しい祭りだな。


 …………お月見だこれ!


 花より団子を地でいってしまった。

 

 オレは空を見上げる。


 そこには綺麗な丸いお月様が浮かんでいた。雲一つなく、誰にも邪魔されることなく夜空で輝いている。


 「確かにお月見日和だ」


 オレは靴をぬいでブルシートに上がると足を投げ出すように座る。いや、この体勢だと首が痛くなるのは目に見えている。寝転がってしまおう。


 満月の模様もはっきりと見える。しかし毎回思うが、ウサギには見えないな。オレたちがウサギと聞いて最初に思いつくのはペットショップや動物園などで可愛くて丸まっているフォルムだ。月のウサギは鳥獣戯画で描かれているような胴長気味だからピンとこないのだろう。


 「今日は本当に月が綺麗に見えるね」


 そう言ってアリアが寝ころぶオレの横に座る。


 「そうだな」


 「お月見なんてやったことなかったけど、楽しいイベントだね」


 「みんなまだ食事に夢中で月はみてないけどな」


 先輩はハーレムメンバーに至れり尽くせりされているし、唯織も他の先輩方に猫可愛がりされている。


 「というかなんで唯織は巫女服を着ているんだ?」


 「え?月の神様への収穫物を捧げる行事だから巫女役の人が必要って聞いたよ」


 「また知らない文化だな」


 多分それ森川先輩が巫女服を着せたかっただけだだな。森川先輩ないすぅ!何の意味もないコスプレしたっていいじゃない。


 「そうだ、お月見団子も取ってきたんだけど食べる?」


 「ありがとう、食べようかな」


 豚汁をおかわりしようと思ったが、折角アリアが持ってきてくれたんだからいただこう。オレはお月見団子を受け取ろうと起き上がろうとした。


 「はい、あ~ん」


 「はむ」


 寝ころぶ顔の前に団子が差し出されたので食いつく。もしゃもしゃもしゃもしゃ。これもうまい。


 「美味しい?」


 「甘くて美味しい」


 「じゃあもう一個。あ~ん」


 「はむ」


 ふむ、寝転んでいるのに自動で食べ物が口元まで来る。王の気分だな。苦しゅうないぞ。


 「あ~ん」


 「……はむ」


 「あ~ん」


 「…………はむ」


 「あ~ん」


 「……………………はむ」


 はぁ、はぁ、はぁ。


 「アリア」


 「なに~?」


 「段々団子を食べさせる位置を遠ざけていくの止めてね。腹筋運動みたいになってるから」


 「えへへ、ごめんごめん」


 苦しゅかったぞ。


 「でもこれなんかダイエットに使えそうだよね。びじねすちゃんす!」


 「人参めがけて走る馬じゃないんだから」


 あと団子一個と腹筋一回のカロリーが釣り合ってない。


 アリアはオレへのエサやりを止め、お月見団子をパクパクと食べ始める。お月見団子には味を変えるようにあんこ、きなこ、みたらしが用意されていてお好みでつけれる様になっていた。アリアはお皿にそれらをちょっとずつ持って色々な味を楽しんでいる。彼女はぺろりと指についたみたらしをなめる。


 「そういえば、海神先輩さっきはすごかったよ。この状況にぴったりの月の和歌をスラスラとそらんじてさ。解説までできて、流石博識だよね」


 「そうだな、あの人は本当にすごいと思うぞ」


 オレはそう言いながらポケットから取り出した本をアリアに渡す。


 「これはどうしたの?」


 「海神先輩の落とし物のポケット万葉集かな。多分今日のために月が題材になっている和歌を覚えてきたんだろうな」


 「………それはすごいね」


 「本当にな」


 付箋が貼ってあるページを開いたら全部月の和歌だったからな。多分一人一人に別の和歌を贈ったりするのだろう。本当にハーレムの主の鏡だ。


 しかし、あれだな、運動してご飯食べて寝転んで。


 どう考えても、寝ちゃいそうだ。瞼がもう閉じかかっている。


 このまま、ちょっとだけ目を瞑っちゃおうかな。目を瞑るだけね。寝ない寝ない。


 ……………………ぐー。



 ***


 私は宗介くんから渡された本をペラペラとめくる。月の和歌のページに付箋が貼ってある。折り目もついているし、何度も読み返したんだろう。ここまで恋に全力だと圧倒されてしまう。


 「宗介くんは和歌とかには詳しいの?」


 「…………。」


 「宗介くん?え?寝てる?」


 さっきまで会話してたのに、寝るかな普通?


 ほっぺたをつんつんして不満の意を表すが、起きない。この数分で良くこんなに深い眠りにつけるね。


 さらっと軽く手で宗介くんの前髪を梳く。頭を撫でるように髪の毛を梳いていく。


 ふと、さきほど見た万葉集のページを読み返す。


 「ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思へる君」


 私はごろりと宗介くんの横に寝転がった。


 

「ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思へる君」

意:今宵は月がとても澄んでおり、この月夜に咲く梅の花の様に心を開いて、あなたをお慕いしております。

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