Ex 彼らは駄弁る
すみません。第六章までもう少しかかりそうなので何本か第五章没エピソードを順次置いていきます。あの、没エピソードなので過度な期待はしないでくださいね?
「ここか」
オレは住宅街の中にあるごく普通の一軒家の前に来ていた。表札が見当たらないため目的の家かはわからないが、迷っていても仕方がないのでチャイムを押す。
そういえば防犯上の理由で表札を出さない家が増えてきたと聞いたことがある。その反面ネットには自分の写真や自分の周りの環境の写真を載せる。果たして世間は防犯意識が高くなったのか低くなったのか。これぞとある防犯の二律背反。違うか?違うな。
「おう、いらっしゃい入ってくれ」
そんな愚にも付かない事を考えているうちに、一軒家のドアが開く。中から出てきたのは小島だ。そう、オレは小島に頼まれ宿題を教えに来ていた。
「おじゃまします」
家に入ると廊下のドアから首をひょこっと出すお姉さんがいた。茶色の髪を肩ぐらいで切り揃えてる。そのお姉さんは軽やかな動きでこちらに近づいてくる。
「いや~いらっしゃい、いらっしゃい。君が時正の友達の日下部くんか。随分とイケメン君じゃないか」
「ちょ、お母さん。やめっ」
「どうも、こんにちわ。校内一のイケメンです。小島よりイケメンでごめんなさい」
「お前も何言ってんの?」
ただ冗談に乗ってあげただけだが?こういう時に本気になって否定するのも可笑しいだろ。むしろ全力で乗っかるぐらいが丁度いい。
お姉さんは一瞬ぽかんとしたが、すぐに素敵な笑顔で笑う。
「あっはっは。そう返されたのは初めてだよ。いいんだよ。うちのもうちので味のある顔をしてるから」
「フォローするならしっかりしてくれい。ええい、さっさと2階に上がるぞ。この二人の組み合わせは、俺の負担がすごい」
小島はオレを押すようにして2階へとオレを進ませる。
しかし、小島にも姉ちゃんが居たとはな。他の家の人のお姉さんを見るたびに思うのは、すごい優しそうだなということ。隣りの花は赤いというやつなのだろうか。
…………。
「え?お母さんって言った?随分と若々しいなお母さん。お前の家、日常系かよ」
もしくはラブコメ。
「まあ、実の母親じゃないからな」
小島はそんな事をさらっと言った。
「そういえば少し前にお母さんヒロインのラブコメが流行った時期があったな」
「そんな目で見てないけども!」
「だけど流石に義母とのラブコメはなかったな。ドロドロになるのが目に見えているし」
「だろうなぁ!」
小島は家でも元気一杯だ。何かいいことでもあったのかい?
「はいはい、いいから俺の部屋に入れよ…………まったく、いつも通り過ぎて調子が狂うぜ」
「へい。よーし、お前の体に教え込むぞ」
「………なんかやめろその表現」
いや、マジな話よ。頭で覚えるだけでなく、手に覚えさせることはすごい大事だと思うぞ。たまに英単語捻り出してくれるからね。
小島の部屋は、イメージと異なり落ち着いた雰囲気の部屋だった。カーテンと布団は紺色で統一されており、黒色のテーブルに、本が整然と並ぶ黒色の本棚。背表紙の色的におそらくライトノベルはない。やれやれ、お前にはガッカリだよ。世界の理が書かれた書物を置いてないなんて。そりゃ宿題も終わらないさ。
おそらくオレ用に用意されたこの部屋には合ってないえんじ色の座布団に座る。
そして勉強を開始した。
小島はオレの応援も虚しく合宿で課題が終わらなかったので、こうして宿題が残っている。
小島は合宿では他の人の手を借りずに自分で終わらせようとし、先生の所に聞きに行くタイミングを逃したのだ。いつも思うんだが、最初から聞きに行けば良くないか?わからない問題はわからないんだからいくら考えてもわからないんだぞ。オレが何を言ってるかわからないな。
「ああこれ最初からそもそも間違っている」
「うぇ!」
「こっちの公式を使いな〜」
「なんこれ知らない」
「習ってる。知ってろ」
同じ授業を受けておりますゆえ。
***
「終わった〜」
「良かったな。オレを崇め奉れ」
「くっ、今日は何も言えねぇ」
小島は悔しそうに麦茶を注いでくれる。随分とシュールな絵だな。
「そういやさ」
「ん〜」
「お前ってさ、涼白さんと伊万里さんのどちらかと付き合ってんの?」
「そんなバカな」
突然何を言い出すかと思ったら、自明なことを一々聞くんじゃないよ。教えすぎてそんな当たり前のことまで聞くようになったのか?甘えるなよ小島。
「別にそんなバカな事は聞いてないだろう。クラスでの様子とか見ていたらそう聞きたくもなるぜ」
「オレじゃ釣り合わないだろ」
その言葉に小島は驚いたような顔をして、納得してから、微妙な顔をした。何その百面相。どういう感情?
「お前がそういうこと言うの意外だった。だけどまあ確かにお前と彼女らが付き合うのは想像できないけども、スペックだけみればお似合いとも言えないこともないだろ」
「この阿呆め」
「突然の暴言」
「あの二人の隣にはあの二人しか釣り合わないんだよ。他の人が天秤に乗っても傾くばかり」
「表現の仕方がうぜぇ」
あっ!今言っちゃいけないこと言った!中二病罹患者に言っちゃいけないこと言った!後遺症なんだから仕方がないだろう!温かく見守ってくれよ!
温かい対応を自分から要求する奴には碌な奴はいない。これ豆な。
「じゃあ好きな人とかは?」
「いないなぁ」
「付き合いたいとか思わねぇの?」
「は?好きな人がいないのにそんなこと思うわけなくね?」
「ぐふっ、いきなりそういう純真な事言うの止めてくれ。全男子を代表して心が痛い」
「お前が全男子を代表するなよ。おこがましい」
しかし急に何でこんな事を聞いてきたのだろうか。普段はしないのに。そういえば聞いたことがある。相手の人が聞くことは聞かれたいことだと。つまり小島は自分の恋バナの話がしたいと。
面倒だから絶対聞き返さないけども。
さて、そろそろお暇しようかな。
立ち上がろうとしたオレの腕をガシッと掴まれる。
「俺な、気になっている子がいるんだ」
自分から話すんかい。
「ええい、離せ。お前のラブコメになんて誰も興味はないわ」
「ひでぇ!そもそもコメディ要素なんてねぇよ!」
「それはどうかな」
「お前に俺の恋愛の何がわかる!」
「何もわからんから帰るわ」
「嘘嘘嘘だよ~。冗談じゃないか~。ほら麦茶やるから座りよ~」
キャラ変するほど聞いてほしいの?あと、オレの家でも麦茶飲めるからね?人様の家で言うのもなんだけど、それは対価としてはそれほど高くないからね。
ため息をついてからオレは座布団に座り直す。
「そもそもオレに恋愛相談をするのが間違ってると思うぞ。自慢だがオレにはラノベとアニメの知識しかない」
「だって俺の周りにはスポーツバカとバカしかいないから他に相談できるやつが……自慢なのか!?」
自慢だが?知識があることを誇って何が悪い。
「それにお前って伊万里さんや涼白さんと仲が良いし、他の女子とも割と普通に話している気がするし」
確かに文化祭以降、クラスで女子に話しかけられる頻度は増えたな。
「だから女子と仲良くするコツとか知ってるのかと」
「そんなもん知らん。そもそも女子と男子で話し方とか関わり方を変えた覚えがない」
「確かに!いつもそれでお前すごいなと思ってたわ!つまり女子と仲良くなるコツは男子と同じように接することか!」
「それじゃね?」
知らんけど。オレの知識では違うよと言っているけど、現実と虚構の区別がつくオレは口を閉ざすことした。沈黙は金って言うしね。小島から貰えるのは金じゃなくて麦茶だけど。もう麦茶は注がなくて良いから。何?そういう人形なの?
「そういえば、お前の好きな人って誰なんだ?」
「いや、好きって言うか気になっているというか」
「そういうのいいから」
「……お前って時たまドライになるよな。ああもう!夏目さんだよ夏目さん!」
夏目さん?…………ああ、委員長か。
「小島、ドMだったのか」
「何でそうなる」
「だって夏目さんって中々のジトメストだろ」
「ジトメストって何!?」
攻撃方法にジト目を持っていて、良いジト目をくりだす人の事だけど?統計的にSの人に多い(オレ調べ)。
オレがジトメストについての説明をしようとしたその時だった。
「お・兄・ちゃ~ん!!!」
「うごっ」
ドアがバンっと空きツインテールにした中学生ぐらいの女の子が入ってくる。小島の真っ黒な髪と違い、随分茶色の成分が多い髪だ。顔つきも幼いながら美人さんで何処となく先ほどのお母さんに似ている気がする。
ほう。
「こらっ!夜月!ノックしないで部屋に入ってくるなって言ったろ!それに抱き着くな!」
「ええ~いいじゃ~ん。私たち仲良し兄妹なんだから。それとも何?部屋で私に隠れていけないことしてたの?この浮気お兄ちゃん!」
「うごご。やめろ。頭を振り回すな。ただ日下部に宿題を教えてもらってただけだ!なぁ日下部!」
「あ、お邪魔しました。ごゆっくり~」
「日下部!?」
オレは妹さんの開けたドアからさらっと出ることにした。ゆっくりとドアを閉める。ドアが閉まる直前にオレは言った。
「あ、小島、大丈夫心配するな。夏目さんのことは誰にも言わないから」
「え、何でそれを今言…ガチャン
ドアが閉まった。きっとこのドアはもう当分開かないのだろう。
さてとお母さんに挨拶をして帰るかな。
ドアの向こうがやけに騒がしいのはきっと気のせい。
今日は存分に勉強をオレが小島に教えたわけだが、一つオレも教えられたことがある。
小島、オレの、敵。
義妹だとぉ……許せねぇ………。
小島と妹さんの名前の由来が分かった人とは仲良くなれそうです。あれは私をヤンデレ妹沼へと落とした作品。あっちは確か義妹ではないけれど。




