彼らは真剣勝負を行う
更新が遅れてしまいすみません。
彼らの珍道中もおそらく次話ぐらいで終わります。
プシューとバスの扉が開く。
バスからどこか疲れたような雰囲気の小島が降りてくる。
「やっとついた……まだ一緒に体を動かして遊んでいる方が会話するより楽なはず……楽だといいな」
小島に続いてオレたち3人バスから降りた。
「やっと着きましたね」
「ああ、そうだな」
「はい、たどり着きたるはここが」
「「「天竺」」」
「違います。バスでたどり着けるかよ天竺に。西遊記に謝れ。この建物どこにも天竺感ないでしょうが。というか何で声を揃えられるの?ネタ合わせとかしたんですか?」はぁはぁはぁ
「「「…………おぉ〜〜〜」」」
「あ、やめてやめて。ツッコミをした後に感心するのだけはやめてください。すごく恥ずかしくなりますから」
だってあんなにげっそりしていたのに、長文を淀みなく喋り始めたから。
「まあまあ、そう興奮するなよ猪八戒」
「俺が猪八戒か!?」
「だって緊箍児を所持している会長は孫悟空だろ」
「あー。言われてみると確かにそれっぽいな副会長。いや、人を物に例えるのは失礼な話だけど」
「日本では女性的に描かれる三蔵法師は竜崎先輩だろ」
「まあ、それもいいや」
「じゃあ、猪八戒じゃん」
「何でだ。誰が豚の化け物だ。沙悟浄をよこせよ。いや、河童の化物も微妙だけど、なんとなく猪八戒よりはましだ」
河童の化物って意味重複してね?
「おいおい、言葉には気をつけろよ。猪八戒は西◯敏行さんや伊藤◯氏さんも演じてるんだからな。猪八戒に対する悪口はひいては彼らの悪口になるぞ」
「ならない。勝手に彼らに猪八戒を背負わすな。……いや、ならないよ?ちょっとだけ本当に失礼にあたらないか考えちまったじゃねぇか」
「なんでもいいから早く中に入ろうぜ。先輩たち行っちゃったし。何でここまで来て空想の話なんてしてるんだよ」
「おまっ!おまえぇえ!」
オレたちは天竺とは似ても似つかない俗の塊ともいえるアミューズメント施設へと足を踏み入れた。
***
このアミューズメント施設では色々な遊びを行うことができる。屋内でするスポーツや遊びはもちろん、普通屋外で行うスポーツも規模は小さいが遊ぶことができる。
「とりあえず何からしますか?」
オレはみんなに尋ねる。
選択肢は沢山あるし、時間もそれなりにある。全ての遊びをすることも可能だろう。
「端から周るのはいかがでしょうか」
「そうだな。混んでたら別の所に行けばいい」
「そうすると、最初はダーツですかね」
「「「ダーツ……(そわぁ)」」」
「うわぁ……怖いわぁ。この人たちに武器渡すの怖いわぁ」
失礼な。ちょっとだけダーツのかっこよさにそわそわしているだけだ。
「この中でダーツをやったことがある人いますか?」
小島はそう聞くが、誰も答えない。
「そういう小島は?」
「俺は2回ほど親父に教わったことがある」
「ハワイで?」
「誰が小さくなった名探偵じゃい。普通に日本でだよ」
父さんに教わったものがダーツってお洒落すぎないか?オレが父さんに教わったことといえば、サービス残業が生まれる仕組みについてくらいだ。それをオレに教えてどうせよというのか。労基に言ってくれ。
「じゃあ、まあわかりやすくカウントアップで遊びましょうか。ルールは簡単。ダーツを3本ずつ投げるのを繰り返して、得点が高かった人が勝ちです」
小島はダーツを持ちながら説明を開始する。
オレたちもそれに倣いダーツを持った。
…………ふむ。
「投げ方は野球投げみたいな周りの人が危険になるような投げ方は禁止です。一般的にはこうやって構えてこう紙飛行機を飛ばすみたいな感じで投げます」
オレはおもむろにダーツを取ると持ち手の部分を指と指の間に挟んで拳を握った。見ると先輩方も同じことをしている。
「で、投げる時はこの線からはみ出さないように気をつけてください。ダーツのやり方はこんな感じですかね。まあ一番は安全に気をつけて……」
「「「しゃきぃん」」」
「ダーツで遊ぶな。アホども」
「「「ごめんなさいでした」」」
道化のバ◯ー船長の真似をしていたら怒られてしまった。ちなみにこの格好を見てウォー◯マンと言う人がいたら世代がわかるぞ。
オレたちはジャンケンをして順番を決めるとダーツを始めることにした。順番は小島→竜崎先輩→会長→オレの順番だ。ふっ、本命は最後に登場するのだよ。
最初に小島のターン。何だかそれっぽい感じで小島がリズムよく3本のダーツを投げると、大体ダーツは真ん中へと集まった。まあ、一本もブルに当たらなかったのは小島らしい。
「次は、竜崎先輩ですね……先輩?」
「あ、すみません。隣の方のほうが、小島さんよりダーツが上手そうだったもので」
「それでも俺のプレイは見て欲しかったです……」
「大丈夫です。次からはちゃんと見ますよ。隣の人の動きはもう覚えましたから」
「?」
そう言って竜崎先輩は、隣でダーツをしている人そっくりのフォームで構えるとダーツを放った。綺麗な放物線を描き真ん中に突き刺さる。
唖然とする小島。
「ふっ、これが私の完璧な模倣」
竜崎先輩は髪をふぁさぁと靡かせながらそう言った。
「じ、自分で言った……」
「何だと!完璧な模倣、だとぉ!」
「知っているのか!日下部!?」
「初耳だ!」
「よし、黙れ!」
オレはお口チャックした。ああいう説明キャラっぽい言葉を挟むならあそこかなと思って我慢できなかったよ。でも説明できない説明キャラは黙ってたほうが有益だよね。
次に不敵な笑みをたたえて、ダーツボードの前に立ったのは会長。
「そんな猪口才なやり方で俺に勝てると思っているなら残念だ」
そう言って会長はスッと構える。
ピキッピキッ
「なんか軋む音みたいなもの聞こえないか?」
「小島、見てみろ会長の腕を」
「なっ!?」
小島が驚きの声を上げるのも無理はない。会長の腕にはさっきまではなかった腕の筋が浮かび上がっていた。
そうこの音は筋肉を引き絞る音……!
「いいか。筋肉が全てを解決する」
会長は手首から先が消えたと思うほどに素早く動いた。その瞬間ボードに突き刺さるダーツ。
「筋肉の強靭な支えがあれば、ぶれなくダーツを放ることなど造作もない」
言葉の通り、2投目、3投目も同じように突き刺さった。
「ふっ、これが俺の……完全筋肉だ」
「何て?今ただ叫ばなかったか?」
「何ぃ!完全筋肉だと!」
「何も知らないんだよな」
「うむ」
さて3人がダーツを投げ終えて、オレの番となった。
後ろを見ると、竜崎先輩と会長がどこか期待に満ちた目で見てくる。小島を見れば、お前どうせ何かあるんだろ?とっととしろよという目で見てくる。
いや、何もないんだが。
頑張れオレ。そんな筈はないだろオレ。ここでみんなの期待に応えるのがオレだろう。探せ。もうその答えはオレが持っている(はず)。
はっ!
思い出した。
オレがいつかの夏の日に、こういった棒状の物を何度も何度も板に向かって投げつけていた記憶。そう、あれは忍者っぽいことに挑戦し続けていたあの日々の一幕。棒手裏剣の練習。
記憶が引き出されると同時に体は動く。
見様見真似で構えていたダーツっぽい構えから、体にしみこませた手裏剣の構えへと。そしてダーツは放たれた。ボードの真ん中に向かって。
カッカッカッ
「ふっ、これがオレのあの夏の日の思い出だ」
「どんな思い出だよ!……ってツッコミたいが、小学生の時にお風呂で水遁の術とか練習したことある手前、何も言えねぇ」
正直なやつだぜ、小島は。そう男の子なら誰しも忍者に憧れるものだ。それは誰にも否定することができない。まあ、オレが練習していたのは中学生の時だったけどな。
だが、まあ何はともあれ、こうして一巡目は3人とも同じ点数になったわけだ。
3人の間でばちりと火花が散った。
「お二人ともやはり中々やりますね」
「だが、最後にここに立っているのは俺だ」
「いいえ、修練の差でオレの勝ちです」
「あの、先輩さらっと俺だけ眼中にない発言はやめてくださいよ。会長も格闘技じゃないんでどんな結果だろうと最後は全員ここに立っています。日下部はダーツの修練はしてないだろうが。その意味でいったら俺の方がダーツには慣れていて……ええい!くそぉ!ただのツッコミ役で終わってたまるか!俺が勝利をかっさらってやる!やってやらぁぁ!俺が沙悟浄になるんだぁぁぁぁぁぁぁ!」
いや。その決意はよくわからんけども。
絶対に負けられない戦いがそこにはあった。
ダーツはルールとマナーを守って安全に楽しくプレイしましょう。




