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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第五章 夏休みがこんなに楽しい
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彼はご挨拶をする

 「粗茶ですが」


 「ありがとうございます」


 「粗茶ですが」って実際に初めて聞いたな。返しは「ありがとうございます」で良かったのだろうか。


 オレはダイニングで帰ってきた唯織母にもてなしを受けていた。テーブルの正面に唯織母が、横には唯織が座っている。


 テーブルの上にはお茶と羊羹。温かい緑茶が美味しい。


 そういえば、暑い日には熱いお茶を飲むことが良いと言うよね。オレは信じてないけど。暑い日には冷たいものが良いに決まってるじゃん。全くもうみんな逆張りが好きなんだから。


 つまり唯織母も逆張り勢か。


 「日下部宗介くんと言ったかしら」


 「はい」


 「正直に答えて欲しいのだけど」


 「はい」


 「唯織とは付き合っているのかしら」


 「いいえ」


 ドンッ!


 「何で嘘をつくの!」


 「いいえ」


 唯織母が机を叩いたせいで揺れる湯呑みを抑える。全部正直に答えたのにひどいや。


 「あんな感じで押し倒しておいて、彼氏じゃないわけないじゃない!そっちの方が問題よ!」


 「えっとですね黒崎さん」


 「そこはお義母さんと呼ぶところでしょ!」


 「本当に落ち着いてください」


 普通は他人のお母さんをお母さんとは呼ばないと思う。


 しかし唯織と似ず、随分とテンションが高い。横の唯織を見る。羊羹を美味しそうに食べている。見ているオレに気づくと首を傾げた。それから納得したように一回頷くと羊羹を差し出してきた。固辞。


 「あの体勢は故意ではなく事故ですね。ツイスターゲームをしていたら、あの体勢になりました」


 「ツイスターゲーム!そんなの付き合っている男女しかやらないゲームじゃない!」


 「ツイスターゲームに詳しいわけではないので何とも言えませんが、多分違います」


 誰かがやっているところ見たことないしね。だけど多分そんなゲームじゃないよツイスターゲーム。


 あ、メイ◯ラゴンでツイスターゲームやっていた気がする。でもあれはプレイしていたのは恋人同士じゃないな。はい、論破。彼女らは恋人?よろしい。それは後でゆっくり話し合おう。


 自分でも自分が興奮していることに気づいたのか、唯織母は一度深呼吸するとお茶を飲む。


 深呼吸の効果が早速出たのか、そこで何かに気づいた刑事のような顔になった。


 「待って待って、あなた日下部宗介って言ったわよね」


 「はい」


 「もしかして、唯織と同じ中学校だったりする?」


 「そうですね。中学2、3年で同じクラスでもありました」


 「そう……」


 唯織母は深く椅子に座り込んだ。急に随分と落ち着いたようだ。


 「……唯織が高校入る直前かしらね」


 え、ここで回想に入るの?まあ、良いですけど。ゆっくり聞きますよ。オレは湯呑みを手に取った。


 「急にね眼帯をつけたり、手に包帯をつけたり、その、何というか、前衛的な格好をし始めたの」

 

  オレはゆっくりと湯呑みを置いた。


 さてと、どうしようか。


 一人っ子の大切な娘さんが、高校生という花ざかりに中二病ファッションに傾倒し始めたと……


 これ土下座案件じゃね?


 「その顔は何か心当たりがあるようね」


 「ギクリ」


 「正直ね」


 ……土下座か。


 オレが腰を浮かしたその時だった。


 「ありがとう」


 唯織母はそう言って頭を下げた。腰を浮かせた中途半端な状態で静止する。


 「あなたが日下部くんなのよね?」


 「そうだと思います」


 「唯織はね、自分の気持ちを言葉にするのが苦手なのよ。それは中学の時に顕著になった。悩みを聞いても、無難な返事しかしてくれなくてね……そんな時、段々と口数が増えてきたの」


 「……。」


 「同時に唯織の話に出てくるようになった日下部くん。その日下部くんは眼帯に包帯と変な格好をしているけど、とても優しいと言っていたわ。あなたが唯織と一緒にいてくれたんでしょう?」


 「……そうですね。あの時、一緒にいたのは僕です。でも僕は本当に一緒にいただけで特別なことは何も」


 「良いのよ。それで。それが良かったの」


 あの時のオレらは一緒にいながらも互いが互いを見ていなかったように思う。今となってはその歪みも解消されているわけだが、中学の時のことを出されてこう言われると反応に困るものがある。


 まあ、わざわざ伝えるものでもないから言わないけど。


 「だからあなたには感謝してるの……女の子に対する服装のセンスはちょっとあれだけどね」


 唯織母はちょっと冗談まじりにそう言った。


 ……うーむ、唯織の格好はオレが着させているわけじゃないんだが、唯織の格好は中学生のオレの格好を真似したものであるというややこしい状況になってるな。

 

 もはや説明が面倒なのでこれまた何も言わないけども。


 それに女の子に対する服装のセンスがあれなのは否定できない。姉ちゃんと買い物へ行った時、試着して見せられた服で想起された感情は全部同じものだった。でも姉ちゃんにとっては違いがあるらしい。似合ってるとか似合ってないとかわからなくね?それは好みとは別なの?不思議な表現だよね。


 「だから大丈夫よ。隠さなくても」


 「?」


 「唯織と付き合ってるのよね?」


 「いいえ」


 「どうして!?」


 いや、どうしても何も……


 そういえば、オレの母親も華恋とか唯織が家に来た時に同じような絡み方をしてきた気がする。「ねぇ、本当は付き合っているんでしょ?」って。どこの親もそうなのか。


 「はい、唯織集合!」


 唯織母はそう言ったかと思うと、唯織を自分の方に呼び寄せて二人で背を向けると内緒話をし始めた。


 

 「ーーーーー。本当にーーーー?」


 「ーーー中学の最後の方ーーーー?」


 「ーーーー親だもの」


 「ーーー外堀ーーー?」


 「ーーーーー?」


 「攻めるーー」


 微かに少しの単語だけが聴こえてくる。聴こえてくる声は大体唯織母の声で会話をしていると思われる唯織の声は聞き取れない。まあ、元々声小さいしな。


 「そう、わかったわ」


 唯織母がそう言って振り返った。


 「ごめんなさいね。私の勘違いだったみたいで。唯織の友達が家に来たの初めてだったから興奮しちゃったのよ」


 「ありますよね。そういうこと」


 「お詫びと言っては何だけど夕飯食べて行きなさいね」


 「いえ、お構いなく。洗濯機やシャワーまで貸していただいたのに、これ以上ご厄介になるわけにも行きませんので、そろそろお暇させていただきます」


 「かー。子供がそんな遠慮するもんじゃない。食べていきー」


 「そんなキャラでしたっけ?」


 唯織はオレの横に来ると、オレの服の端を掴むと言った。


 「そーくん。お願い。食べていって?」


 「ぐっ」


 中々おねだり上手ではないか。


 「ではお言葉に甘えます」


 「やった」


 唯織と唯織母は互いサムズアップし合った。


 ……何か企んでる?



 ***


 「お邪魔しました」


 オレはそう挨拶をしてから黒崎家を出た。唯織も一緒に玄関の外へ出てくる。


 あの後オレは唯織と唯織母が作った肉じゃがをいただいた。手持ち無沙汰だったので、手伝おうとしたのだが、「いいから、いいからゆっくりしていて……それじゃあ意味ないから」とキッチンから追い出されてしまった。意味ってなんだ?


 それにしても、家の人たちが料理していて、オレは座ってるとか、良識的な感性を持ち合わせているオレとしてはちょっと困った状況だったな。


 まあ、確かにお客様を働かせたくないという唯織母の気持ちもわかる。


 なのでオレは百八の特技の一つ空想で耐え抜いた。今日の題材は学校をテロリストに占拠されたらというお決まりのものだ。また今日も負けてしまった。やはり自分をもっと強くするべきか?いや、でもやっぱり智慧と大勇で対抗するのが、やはりかっこいいのではなかろうか。今度学校を回って武器になるもの探そうっと。


 あ、肉じゃがは大変おいしかったです。自分の家の肉じゃがとは若干違うように感じたけど、あれが黒崎家のおふくろの味というやつだろうか。白米と味噌汁と肉じゃが。日本人に生まれて良かったと思える瞬間だった。まあ、アニメを見ながら毎回同じことを思ってるけどね。


 そういえば、何の企みもなかったな。


 「今日は世話になったな唯織」


 「ううん。私が連れてきたから」


 「お見送りはここまででいいよ。もう暗くなってきたしな」


 「わかった。じゃあね」


 「おう、またな」


 オレは玄関の前で唯織との別れを済ますと歩き始めた。


 「そーくん」


 「ん?」


 立ち止まって、振り返る。


 「また、遊ぼうね」


 唯織は柔らかく微笑みながらそう言った。


 「ああ、また遊ぼう」


 オレも笑ってそう言った。


 唯織とはみんなでボードゲームなどをしたいって思ったからな。今度はオレの家でおもてなしをしよう。


 今日のオレみたいに夏だから外で遊んでも楽しいかも知れないな。


 オレは唯織と笑い合いながらそんなことを考えた。






 ………ん?今日のオレ?


 オレは自分の服装を見る。唯織の家の服だ。


 あちゃー。気づいて良かった。危ない危ない。旅館の浴衣でそのまま帰ってしまうようなポカをやらかす所だった。


 「すまん、唯織。オレ自分の服着てなかったわ」


 「……ちっ」


 「え?今舌打ちした?」


 「してない?」


 何で疑問形なのかな。


 「悪いな。さっさと着替えて帰るから」


 「ゆっくりでいい。むしろ泊まる?」


 「泊まらん」


 そんなに時間はかからないからね。むしろって何よ。


 オレは再び唯織の家へと入ると脱衣所で着替えた。


 「お待たせ唯織。あー借りた服は洗って返すから」


 「いいよ」


 「大丈夫だ。ちゃんと丁寧に洗って返す」


 流石にお世話になりすぎだからな。これぐらいはしたい。まあ洗うのはうちの洗濯機さんなんだけどね。でも大丈夫。ちゃんと他の洗濯物と混ぜないで洗うからさ。


 するりとオレの手から服が抜かれた。


 「本当にいいから」


 「……はい」


 何か怖いよ唯織さん。


 こうして本当に黒崎家訪問は幕を閉じたのであった。











 「ふふっ、そーくんが着た服……」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「あんな感じで押し倒しておいて、彼氏じゃないわけないじゃない!そっちの方が問題よ!」 そりゃあ母親としては当然のごとく問題に思うよな… >「そこはお義母さんと呼ぶところでしょ!」 …
[良い点] こういう展開ほんとに美味しいです。ご馳走様でした
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