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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第一章 クーデレ女子がこんなに可愛い
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彼はお茶会に向けた準備を始める

 カカカカカカッ。


 軽快にねぎを切る音が調理室に響く。ベーコンも小間切れにして準備は万端。熱したフライパンに溶いた卵、ごはん、ベーコン、ネギと順番に投入しながら焼いていく。ジューというこれぞ料理しているという音とともに、いい匂いが鼻孔をくすぐる。お玉でかき混ぜながら鍋をふるう、ふるう、ふるう。塩コショウと中華調味料で味つけをする。うん、よし。誰かにふるまうんだったら綺麗なドーム状にするのだが、自分で食べる分にはそこまでしないで普通に盛り付ける。


 チャーハンの完成だ。


 「いたただきまーぶっ」


 「いたただきまーすじゃないよ。学校で何をやっているんだ君は」


 後頭部に衝撃。振り返ると海神先輩が立っていた。


 「それは口で言えばいいのでは?」


 「口で言っても聞かないだろう君は」


 「まずは試しましょうよ」


 「無駄なことはしない主義なんだ」


 いやいやオレの聞き分けの良さを舐めないでいただきたい。中学の時は体育会系の部活でゴリゴリの縦社会だったから先輩の言うことには絶対服従ですから。


 「それで何をやっているんだい」


 「いえ先輩が前言ってたじゃないですか。今度中華風お茶会をするって。それに持ってこうと思うメニューの練習を」


 「そのメニュー候補がチャーハン?馬鹿なのか君は」


 「む、僕だってお茶会にはお茶菓子だってわかってますよ。チャーハンは食べたくなったから作っただけです」


 「家でやれ」


 「ほらちゃんとこの通り」


 デザートに食べようと思っていたものを蓋をとって見せる。そこに鎮座しているのは、


 「春巻きだね」


 「春巻きです」


 「ふん」


 「やっぱり手が出る!先輩、今時暴力系ヒロインは流行りませんよ!それにちゃんと見てください、これお菓子ですから。中にはチョコとあんこが入ってます」


 正確には3種類作ってある。ブラックチョコ、ホワイトチョコ、あんこをそれぞれ春巻きの皮でつつんだものだ。


 「あ、本当だおいしい」


 「まずは謝ってもらっていいですか」


 「どMな君にはご褒美だろ。むしろお礼を言ってほしいね」

 

 「ごちそうさまです!」


 はっ!つい先輩の言うことに服従してしまった。うんそれだけ。全然本心じゃないよ。


 「それでお茶会の日程はいつなんですか?」


 オレはチャーハンをぱくつきながら先輩に尋ねる。先輩は机に座って春巻きをつまみながらさらっと言った


 「もう終わったけど」


 カランとオレの手かられんげが零れ落ちた。今まで色づいていたはずの世界が抜けた落ち様に見える。


 「え、え、嘘ですよね。あれですよね。オレを招待したくないからそう言ってるんですよね」


 「いや。ほら」


 先輩はスマホを取り出すとオレに見せる。震える手でスマホをつかむ。そこにはチャイナドレスの女の子たちがお菓子を食べたりお茶を飲んだりしている写真がうつっていた。


 お菓子をあーんしている写真。スワイプ。


 楚々とお茶を注いでいる写真。スワイプ。


 ちょっとふざけてカンフー風のポースをとっている写真。スワイプ。


 スワイプ、スワイプ、スワイプ、スワイプ。


 ああああああああああああ!素晴らしい!宝の山と言ってもいい。見ているだけで癒される。


 だがなぜオレはこの写真の中にいないんだ。オレはこのお茶会が開催されることを知っていた。これを生で見ることができたかもしれないのに。


 「先輩!なんで教えてくれなかったんですか!」


 「聞かれなかったから」


 言うと思った!なんでオレはあの時に聞かなかったんだ。あの時のオレは何をしていたんだよ!あれ?本当に何をしていたんだ。入部届を受け取ってもらえたあと……うっ、頭が。頭が思い出すことを拒否している。


 「はい、そろそろスマホ返してもらうよ。力入れすぎて液晶が割れそうなんでね」


 「先輩。その写真僕に送ってくれたり」


 「しない」


 「ですよねー」


 そもそも先輩の連絡先知らないし。というかそうじゃん。普通トークアプリで部活のトークグループとか作ってるんじゃないの。そこには当然写真もアップされているはず。


 「先輩。そういえば連絡先聞いてませんでしたよね。教えてくださいよ」


 「うん大丈夫。連絡するときは新聞に広告載せるから」


 「いつの時代の人?」


 一番お金かかって一番伝わりにくい方法じゃん。


 「嘘、嘘、じゃあはいこれが私の電話番号とメールアドレスね」


 「………トークアプリとかやってないんですか」


 「やってるよ」


 「「…………」」


 がたっと立ち上がると先輩に詰め寄る。


 「ええい往生際の悪い!先輩が入部を認めた時点で遅かれ早かれ他の部員には出会うんですよ!」


 「いやいや、後輩くんこれには深いわけがあるんだよ」


 「なんです?」


 「君の入部の時のごたごたのせいで気がついたんだよ。私、Sっ気があるらしい」


 突然のカミングアウト。オレが跪いたせいでとんでもないものが開花してしまった。


 「でも私のかわいい子猫ちゃんたちにこんな感情を向けるわけにはいかない。彼女らは至ってノーマルだ。そこで思いついた、後輩くんに責任を取ってもらえばいいって」


 先輩も立ち上がるとオレの頬に手を添える。その手は優しくなでて、いでででででで。


 「なんでこんなことをするのか聞いたね。それはね、君をいじめて楽しみたいからだよ」


 そういって先輩はオレの頬を横に引っ張って弄ぶ。


 「ははひてふださい」


 「大丈夫。この気持ちは君だけのものだ」


 そんなことは1ミリも心配してない。むしろほしい人に熨斗をつけて渡してやりたい。


 「ま、冗談だが」


 先輩は手を離すとあっけらかんという。


 「アリアちゃんを口説けなかったから腹いせにからかっただけさ。ん」


 「なんです?」


 「スマホ。連絡先を交換したいのだろう?」


 「どうも」


 トークアプリに新しい連絡先とグループへの招待が届く。先輩は勢いつけて立ち上がると後ろ向きに手を振りながら出ていく。


 「片付けと施錠はしっかりね」


 「了解です」


 全く先輩には困ったものだ。オレに優しいのか意地悪なのか。


 あいつ春巻き全部食っていきよった。


 ***


 

 「っていうことがあったんだよ」


 「それを聞いてどんなリアクションを求めているの?蹴ればいいの」


 「嫌だな。伊万里さん。先輩はSだったけどオレがMなんて言ってないでしょ。話聞いてました?」


 「っ!」


 「落ち着いてりんちゃん。その拳をどうするの?」


 「離してアリア。大丈夫よ。これは合意の上だから」


 「駄目だよ。殴っても喜ぶだけだから」


 あれ、アリアもオレのことをMって勘違いしてない?あと合意してないよ。


 「そんなことはどうでもよくて。お茶会に参加できなくて残念だったっていう話だよ」


 『そんなことは』の部分で伊万里さんは再び拳を握ったが、アリアに無言で首を振られ諭されていた。アリアは手遅れなものを見る目はやめてね。

 

 「それでそんな格好しているの?」


 アリアはオレの格好に言及する。やっと触れてくれたか。流石に自分で切り出すのは恥ずかしかったからよかった。


 「はい。お茶会用にお店から借りていたんだけど、折角だから返す前に着ようと思って」


 「それで登校してきちゃうところが宗介くんの宗介くんたるゆえんだよね」


 「バカ」


 端的な罵倒はやめようね。


 「似合ってないかな」


 「いや、まあ似合っているのかなぁ。でもなんでキョンシー?」


 青色のチャイナ服にワンポイントでお札がついた帽子。それが今日のオレの格好だ。


 「好きなので、妖怪」


 「そうなんだ……もう授業始まるけど着替えないの?」


 「着替えなんて持ってきてませんけど」


 伊万里さんは大きなため息をつき、アリアはあきれたように言った。


 「怒られても知らないよ」


 「大丈夫。公序良俗に反しているわけでもないし」


 「キョンシーって死体だけどね……」


 


 怒られませんでした。

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