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魔女狩り

「誰かと思えば、闇代閏?」

「一体ここで何をしている、戦場へと戻りなさい!」


 指示を逸脱した身勝手な行動を前に、眉を顰めるラーヴァナとヴィージャー。しかし閏は了承することも、ましてやたじろぐこともせず、深い呼吸を繰り返すのみ。


「おい! 言うことが聞けないのか――」

「二人とも、先程から忙しないですよ。もっと大らかになさい」


 二人を制するミネルヴァは、艶めく足を一歩前へと。その身振りは優雅に、悪辣に膨らむ胸を張って。


「これは、あなたの仕業かしら? 暴挙はともかく、あなたはとっても強いのねぇ。転生者というのは事実なのかも……」

「そう、見えるかしら。ふう……大したことは……はあ……ないのだけれど」

「謙遜しちゃって、想像以上よ。でもね、予想外というのは決して良いことだけではないのです。あなたの力はね、強すぎた」


 過剰な力の持ち主は、ミネルヴァの支配に反するもの。彼女の目的は崇高で、全てに勝る賜物だと、自尊に浸っているのだから。けれど本人が尊いと感じるものは、端からすれば下らないもので、ミネルヴァのそれは特に、独善的かつ利己的なものであった。


「ロキは死んだ、イゴールも。テュポーンは間もなく土に還り、アーリマンの力は所詮私の……そして人間の代表であるマルスは死に、厄介な能力も根絶やして、ジュエラレイドは壊滅した。宮の暴走は永遠に眠り、残るは我王とあなただけ。私の世界に強者はいらないの。神の座を脅かす、転生者という存在が現れれば、それは特にね」


 ミネルヴァを頂点とした平和の世界。それが彼女の理想で、突き抜けた力は必要ない。皆が皆、想いを寄せては手を取り合い、囲う円には崇めるミネルヴァが君臨する。人々はそれに疑問も持たず、ただ腐りゆくだけの偽りの平等。


「私は、弱者よ」

「うふ、それで見逃してもらえるとでも?」


 天を仰ぐ闇代閏は、胸を反っては息を吸い上げ、深く息衝き首を垂れる。そして静かに面を上げると、鋭き眼光を解き放った。


「やりたいというなら、私は構わない」

「うふふ……ですが、相当にお疲れのようですね。私が楽にしてあげましょう」

「必要ないわ、疲労で息を切らしているのではないのだもの」


 そんな台詞を吐いた後でも、未だに息を荒げる閏を見るに、魔女たちの口端はぐにゃりと曲がり、嘲りに目尻を歪ませた。


「うふふふ、強がっちゃって……」


 そして流れるように横一列、ミネルヴァを中心に並ぶ六つの掌は、魔力の結界を創造する。一人一人はテュポーンに及ばず、けれど魔人三人がかりともなれば、その強度たるや異世界最硬といって差し支えはない。


「あなたは爆弾を生み出すのよね? それを相手にぶつける能力。視認できようができまいが、これで爆弾を近寄らせることもできません。万に一つ、この結界を破壊できるのであれば、話は別ですけれどね」


 壊せるものなら試してみろと、そう言わんばかりのミネルヴァの煽り。それに応える閏は、片手にこぶし大の爆弾を精製する。それを視認できるほどに具現化し、五指をかざせば、一直線に魔力の壁へと炸裂させた。


 極小で不可視の爆弾とは異なり、爆音は空気を割って彼方まで轟く。障壁が最硬であるのは異世界に限った話であり、閏の能力はそんな異世界の外側に存在する。その破壊力は魔人三人をもってしても、障壁に深い亀裂を刻みこんだ。


「こ、これは……魔人といえども、喰らえばただでは済まないわね……」


 予想外の威力に肝を冷やし、大いに呼吸を乱すミネルヴァだが、対して閏のそれはとてもなだらか。しかし端から閏の乱れは、焦りでも疲れでもなく、溜飲が下がれば、落ち着くのは当然のことだった。


「喰らってるわよ」

「――――は?」

「だから、喰らってるって言ったのよ、既に。比喩じゃあないのよ」


 喰らってるって、食らう?


「爆弾を精製するスキル。あなたはそれを知っていながら、場所には疑問をもたなかったの? 既に喰らっているわ、あなたの穢れたお口の中に……」


 そんな馬鹿な、と。しかし閏の瞳が闇に染まれば、それは決して戯言ではなく――


「ま、待って……閏。私は……本当にッ! 人類を――!」


 情に縋ろうとしたのか、はたまた真実の心根か。それを確かめる間もなく、口内の爆弾は炸裂した。


 首無き骸に、踊る血飛沫。閏の魔女狩りは――これにて完遂。


「天にも昇るお味はいかが? 満足したなら、二度とその面見せないで――」

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