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戦場の光

 マルスのスキルは宮に向き、そして氷結からも解放された今、テュポーンを縛るものは何もない。しかしこれより戦況を巻き返そうなどと、そのような戦意は残されてはいなかった。怪物の出現にミネルヴァの意図。そこから紡ぎ出されたテュポーンの答えは、魔王らしからぬ逃走だった。


 テュポーンは戦に敗北のみならず、とある発見を見出していた。それは長きに渡り待ち望んだもので、ならば絶対に死ぬ訳にはいかない。残る力を振り絞り、立ち上がるテュポーンは戦場に背を向ける。逃れるには今しかないと、一歩踏み出したところで膝を着いた。


「ぐっ……」


 思いのほかダメージが大きいのか、しかし歩行が困難なほどの重傷には見えない。ならばなぜ歩みを止めたのか、その答えはテュポーンの背に向けて掌をかざす、マルスの力が原因だった。


「そうはいかねぇぜ、宮のお守はてめぇの役だ」


 万全であれば物ともしないが、今の状態では魔人といえども荷が重い。対して、あるべき重みの蘇る宮は、足を地に付け安定すると、狙いを定めて一直線、マルスの下へと爆走を開始する。


「おいおい、こっちかよ! ロキ!」

「分かってる、任せろ!」


 するとロキはぴょんぴょんと、マルスの前に出て飛び跳ねる。腕の折れたロキにマルスは担ぐことはできないが、最速であることには変わらない。挙動の意味は目立つことで、まんまと宮の注意を引くと、距離を保ちながらに引き連れて、目指す先には蹲うテュポーンが目を見開く。


「お、おい! こっちに来るな……」

「こいつの相手は頼んだぞ、テュポーン!」


 寸前で重力波は解除され、ロキはテュポーンの頭上を飛び越える。そうしてババは一巡し、テュポーンの手札に戻ることに。再び障壁を張る羽目となるが、宮の理不尽はまさに、カードゲームに於けるジョーカーそのもの。連打は更に威力を増して、残る魔力の使い道は、障壁の修繕に向けるしかなくなった。


 光明のない膠着状態。魔力残量はイコール、死のカウントダウンと同義となる。


「しかし改めて見ると、やはりとんでもねぇ強さだな」

「魔人を追い込むなんて、ロキは見たことも聞いたことも――」

「いや、聞いたことはあるはずだぜ。こんな事態にもなれば打ち明けるがよ、化物にも見えるあいつはな、転生者なんだよ」

「て、転生者って……あの伝説の!?」


 転生者だなんて、創作にしか存在しない御伽噺で夢物語。なのだが、実際に目の当たりにする理不尽な強さに、疑う耳も黙らざる負えない。


「宮だけじゃねぇ、巨獣を相手取る閏って女や、お前も知る我王も転生者だ」

「そんな……伝説は本当だったんだ。本当に魔人や魔物以上の力を……」


 ロキは驚きつつも、それは驚嘆というより驚愕で、内心では恐れを抱く。ロキの守るべき大切な仲間たち、残り僅かとなってしまったが、それすらも脅かしかねない驚異だから。だがマルスは、ロキが感じる懸念も含めて、敢えて真実を打ち明けた。


「だがよ、ちゃんと話は通じる。今は暴れる宮でさえ、能力が落ち着けば善人だ。奴らは我王の仲間だし、その我王に魔物を滅ぼすつもりはまるでねぇよ。ただ一点、人類への待遇を改めさえすればな」

「それは……ロキは元々、人類には何もしてない」

「じゃあ、問題ねぇよ。これが終われば互いに不干渉だ。イゴールさえ認めりゃな」

「イゴールは……イゴールだって、話は分かる」

「そうだな。そうだといいな」


 宮の猛攻は、テュポーンを死の瀬戸際にまで追い詰めている。障壁は次第に亀裂を刻みはじめ、敗北はすぐそこにまで迫ってきていた。


「さて、そろそろ俺らも身を潜めようぜ。宮の注意が向いたら厄介――」


 終着の目途が付き、あとはこの場を離れるだけだった。背を向ける間際に流した視線、宮を挟んで向こう側、マルスの瞳に移る姿は――


 栗色の髪に痩せた四肢、血の繋がりこそないものの、たった一人のマルスの家族。


「ヒカリ……?」

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