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テルミナレベル

「ヨルムンガンドはベヒーモスに当てるしかないだろうね。しかしくどいようだが、それらと一斉に戦うことはまずないよ。さすがにベヒーモスは手元に置いておくだろうが、拠点から離れる訳にはいかない以上、小出しに戦力は削れていくさ」


 当然、進めば進むほどに自軍の戦力は消耗し疲弊する。テュポーンの根城に到着する頃には、十全の戦力とはいかないかもしれない。しかしテュポーン側の戦力も削れる訳で、かつ十対十の戦いより、十対一を十回繰り返した方が、遥か安全には戦える。殲滅できるような罠でもない限り、テュポーンが不利となるのがこの闘い。


「まずは、ニブルヘイム最西にあるフヴェルゲルミルを目指そう」

「それは町なのか?」

「いや、要塞だね。外敵から要所を守る城。テュポーンからすれば、アーリマンの次に力を注ぐべきポイントだ。それなりの対策は講じていると思われるね」


 要所を潰していき、次第に東へと進出していく。そこには要塞ではなく、いずれは町も含まれるかもしれない。場合によっては町人をも戦火に巻き込むことになりえるだろう。不本意ではあるが、戦乱となれば穏便という訳にはいかず、何よりニブルヘイムという地域は、戦争という特殊な状況にあらずとも、常に過酷な環境に置かれているのだから。


 出陣を前にしてロキに駆け付ける魔物は、人目に触れることを好まない。厳密には、好まなくなったが正しいだろう。その魔物は麗しき容姿を持っており、天女と比喩され、後世にも語り継がれるはずだった。しかし今や評判は、悪評へと成り果てている。半身の爛れてしまった、醜い化物として――


「ロキ、気を付けて……」

「大丈夫だ、ヘル。ロキは負けない」


 健気に身を寄せ合うロキとヘル。魔人を畏れることもなく、召使のようにも思えない。果たしてこの、ヘルという魔物は。


「彼女は一体……」

「魔人が恋しちゃ悪いかい? ヘルはロキの妻だよ」


 あっさりと答えるイゴールだが、反して一行は驚きに目を丸める。


「つ、妻ぁ!? 餓鬼にしか見えねぇのに……」

「おいおい、身の丈は関係無いだろ」

「でも……とても美しいわ。ロキは心で相手を決めるのね」


 見惚れるユリアの身体も同じく、無数の傷跡を刻んでいる。他人事とは思えず、見た目に捉われないロキの恋愛観を、ユリアは素直に賞賛した。


「しかし彼女、なぜあのような姿になってしまったのだ」

「彼女はニブルヘイムの出身なんだよ。テュポーンの統治は力が全てで、弱きを護ることはないからね。押え付ける支配は不満を生み、そして内乱にまで至るのだが、ヘルはただ巻き込まれただけだ。身を焼かれたヘルは逃走し、そしてロキに拾われた。しかしこれは幸運だよ。内乱で荒れていたからこそ、普通は生きて出られない」


 イゴールは口にしないが、この戦乱に乗じて民の解放も行えればと思っている。しかし正義を振りかざしたり、己が正しいとするつもりはない。今の生活を脅かすのは確かだし、それを望んでない者もいるはず。犠牲が出るのは仕方ない、しかし救える者は救おうと、それだけは胸中に固く、誓いを立てているのであった。


 大軍を連れて、一行は雪原を東へと進んでいく。連れる魔物は巨体で目立つが、襲いかかる魔物は皆無だった。例え龍でさえ、この戦力を見てしまえば尻尾を巻いて逃げ出すだろう。刈り取る命は最小限、テュポーンの命で戦う者と、あとは自然にあるべき食物連鎖。それだけで良い。


「寒いな……」

「今の内に慣れておきなよ。魔障壁で吹雪の緩和もできるが、戦闘で使う訳にはいかないからね。魔力を感知されては元も子もない」

「寒さもだがよ、兵糧は大丈夫なのかよ。でけぇ魔物ばかりだが」

「ヨルムンガンドはたらふく喰わせた。数か月は持つ。龍は狩りしながらだ。持ってける餌の量じゃない」


 そうして進むこと、中継の町を経て二日目に、遂に国境が見えてくる。その先はテュポーンの領地であるニブルヘイム。境となる検問は存在しないが、それに代わる建物が、要塞フヴェルゲルミルだ。名前の由来は傍にある泉、永久に溶けぬ泉のほとりには、とある魔物が棲みついている。


「検問の役割も果たせるだろうが、事実は行き止まりだ。誰も通しはしないからね」

「やはり、要塞というからには強力な魔物がいるのだろうか」

「それは当然だね。阻むのは小さな蛇、ニーズヘッグだよ。いや、大きくはあるんだが、ヨルムンガンドにしたら赤子同然。レベルで言えばフォースかな」


 フォースレベル、それは火龍と同じレベル区分。恐ろしいレベルには違いないが、しかし周囲には同等か、火龍を上回る魔物や魔人が存在している。


「魔人やヨルムンガンドは、どのレベルに区分されるのだ? フォースの次であればフィフスから順に――」

「ないよ。フォースより上を意味する、次のレベルが最大だ。それは終わりを意味するテルミナレベル。実際はピンキリだがね」


 区分とは、多くを区別するために付けられる。段階を踏んで線を引き、大雑把に管理される。しかし度を超えた者は少数で、以降は分類する意味も存在しない。


「私もテュポーンもテルミナレベル。しかしテュポーンはピンの方だ。同じレベルとはいえ、私とは別次元だと、そのように覚悟しておきなよ」

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