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外来生物

 人類と魔物、転生者はその両方に子孫を残していたという過去、それは既にミネルヴァから聞いている。そしてスキルが転生者からの遺伝だと語るイゴールだが、対してミネルヴァから聞いた話では、今の人類に転生者の力の陰はないという。寿命の長い魔人だけが、未だその力を残すのだと。


「転生者はスキルという力を持っていて、それで当時の魔物を圧倒した。帰国した転生者は子孫を残す。そうして生まれた人類は、スキルを遺伝したそうだよ」


 スキルが遺伝する、それ自体はいい。しかし今の人類は総じて皆がスキルを持っている。大半が貧弱なスキルでありながら、凡そ七割がDスキルを持ち、それも宮のような異例でなければ取り立てたリスクもない、単にひ弱なスキル群だ。残り三割にBからCスキルが含まれ、そしてマルスのようなAスキル持ちともなると、数パーセントはおろか数える程しか存在しない。


 しかし強弱はともあれ、全員がスキルを保有する。それはつまり、一つの事実を指している。


「スキルを持つ人類は、他の人類に比べて圧倒的に強い。よって当時の人々の上に立つ訳だね。上に立てば増え続ける転生者の子孫たち。なんの力も持たない人類は、自然と淘汰されていく訳だ」


 それはつまり、今の人類は全て、元を辿れば転生者に行きつくということ。過去の転生者は密かに魔王とまぐわりながら、人類にも遺伝子を刻んだ。魔人には屈強な肉体を、人類には強力なスキルを残して。


「これだけの後世に及んでも、転生の力を残し続ける。当時の転生者は途轍もない強さを持っていたのだろうね。そして我王くんやマルスくんは強い。稀に転生者の遺伝子が色濃く出ることがあるそうだが、その極端な例が二人なのかもしれないね」


 と、イゴールは語るものの真実はそうではない。確かにマルスは言う通りだが、しかし我王は違っている。なぜなら我王は神が生んだ、転生者そのものなのだから。


「もしもだ、仮に再び転生者が現れたら、この世界はどうなるのだろう」

「ううん、そうだね。人類は転生者を崇めて、そして魔物の討伐を求めるだろうなぁ。魔人は全力で転生者の排除を企むだろう。自らの地位を奪いかねないからね」

「イゴールでも、そうするのか?」

「当然さ。それこそ全魔人で結託し、転生者の討伐を計るだろうよ」


 それを聞いてしまうと、余計に真実を話せなくなってしまうが、しかしミネルヴァの話では魔人の先祖も転生者だ。イゴールはそのことを知っているのか、出処は隠しつつも、思い切って尋ねてみることにする。


「実はな、噂程度なんだが、魔人の祖先も転生者という話を聞いたことがある」

「それも恐らく正しいね。根拠は魔人の力のみだが、理屈はそれしかないだろう。ミネルヴァは特に、その考えを推しているよ。魔人が特別な存在だと、魔物や人と違うんだと、そう言いたいんだろうね」


 人には力の陰がないと、ミネルヴァが話したその理由。それは魔人の唯一性から。人に神の力が宿るとすれば、魔人の特異性が失われてしまう。ミネルヴァは己を神とし、その由来は転生者だ。だから魔人を滅ぼすことにも執着し、人類をそれとは認めない。唯一無二を求めるミネルヴァは――


「しかしイゴールも血族であるなら、再び転生の力を得たいとは思わないのか?」

「それは転生者を取り込むって意味じゃなくて、繁栄という観点かな?」

「あぁ、そうだ」


 すると腕を組んでは眉間に皺を、イゴールは仮の世界に思いを巡らす。


「どうだろうね。性別によってしまうところはあるが、確かに交われば魔人の子孫は更に強くなるかもしれない。だが、成長した子を制御しきれるだろうか。魔人と転生者の子供だなんて、親の力もすぐに超えてしまうだろう。世代が変わればそれもいいが、魔人の寿命は長いからね。いずれ立場を奪われかねない」


 自らの子をして、敵となりうる危険を見る。非情に思えるが、しかしそれには魔人なりの理由があった。


「前にも言ったが、魔人は孤独なんだよ。一族の繁栄とか、そういう考えはあまりない。皆、危険因子を生むのは極力避けるんじゃないかな。それこそ純粋な恋愛感情で結びつく以外は、私とてあまりとりたくない行動ではあるな」


 転生者の血。大いなる力を持つからこそ世界は変わり、そして行動も支配される。何事も転生者に結びつく、そんな異世界の現状がここに。我王自身は転生者だが、それを踏まえたとしても、感じざる負えないことが一つある。


「……転生者なんて、いなければ良かったのにな……」

「おいおい、それはそれで、今の我王くんや私の存在だって無くなるんだよ?」

「それは……そうだが。しかし人ひとりを生み出して、世界を一変させてしまう。今の地上は、転生者の遺伝子で染まりきってしまっている。異なる世界からやって来て、行き先の生態系を荒らしてしまう。まるで外来生物そのものだ」


 この時、我王は悟った。此度訪れた転生者たちは、その遺伝子を残してはいけないのだと。今を幸せに生きようが、転生者が死んだ後、その先ウン百年、ウン千年と続いていく世界。遺伝子を残せば、未来に甚大な影響を及ぼしかねないと。


 我々は異世界に生まれるべきではなかったのだと、確信した瞬間であった。

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