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自衛組織ジュエラレイド

 背後の男は跳ねた茶髪に朱に染まるハチマキを締める。我王よりは小柄だが、しか平均に比べれば長身かつ鍛え抜かれた肉体を持つ男。


「あ、あんたは一体――」

「そんな問答に答えている暇はねぇんだよ。命は救ってやったんだ。てめぇも男なら、あとは自分で何とかしな」


 それだけを言い捨てて、男は魔物の群れへと身を投じる。朦朧とする中で見ていると、男の周囲にはいつしか数名の人間が集う。


 男が手をかざせば、ゴーレムは機体を地面に埋める。その隙に複数人で攻撃を加えるチームプレイ。一体一体をおびき出しては、統率された動きでそれらを順に仕留めていく。その動きは洗練されており、血みどろの戦場の中に於いても、不思議と我王は美しいものだと感じた。


 だが、我王の記憶はここまでだ。意識の限界を迎えた我王に、その後の戦況を見ることは叶わなかった。



 ――――――――



 三度その目を覚ます我王。居場所は二度目の目覚めと同じ部屋で、つまり彼らの家は無事だった。しかし窓へと目を向ければ、道を挟んだ対面の街並みは様変わりし、尋常ならざる被害を物語っている。


「俺はまた、負けたのか……」

「が、我王……」


 同情とも、憐れみともつかない複雑な面持ちを覗かせる宮。宮もどうやら無事だったようで、彼は戦闘には参加せず、気を失った我王の救護に当たっていた。


「やっぱり、我王は不死身だね」


 そう、表も裏もなく素直な気持ちで発した言葉は、無敵故の不死身ではなく、まるで小悪党か害虫に当てはまる”しぶとい”という皮肉に今の我王には聞こえてしまう。


「閏は……閏はどうした? まさか――」

「閏なら大丈夫だよ。ちゃんと生きてる。それに閏は強かった。あの機械共を一撃で、何体も。ミラノアの言ったスキルのルールは、絶対不可変のものなんだね」


 口下手な宮に、閏の躍動溢れる戦闘は語れない。しかし閏の戦いは凄まじかった。襲来したゴーレムの大半を始末した閏。そんな閏は剣道部で、反射神経と動体視力に優れている。加えて、その一撃に懸かるという剣の道の性質上、先を読むことにも長けていた。転生後強化された閏の肉体はよりしなやかとなり、攻撃を避けることを誰よりも得意としていた。


 そんな閏だが攻撃力には乏しい。どれだけ攻撃を躱そうが、避け続けるだけでは相手を倒せない。しかし閏にはスキルがあり、そのランクはSS。極小の爆弾を散らす閏は、伸びるゴーレムの手足を優れた体幹で回避する。そして砂粒ほどの爆弾を起爆すると、その一粒一粒が驚異の威力をもって、ゴーレムの機体を木っ端みじんに吹き飛ばした。必殺といえる熱線すらも、射出口付近に散る爆弾に引火して、自爆するような形で大破してしまう。


 加えて閏は、戦う内に目覚ましく進化していく。そこには慣れもあるが、なによりレベルアップによる恩恵が大きかった。


 この世界には強さに応じたレベルという概念があり、レベルアップの条件はかなり特殊だ。いや、やはり特殊ではなく、いたって普通ともいえる。ゲームで馴染みのある者にとっては特殊で、現実を生きる者からすれば普通と言い換えよう。


 その条件は戦闘をすること。何が特殊か、それは戦闘に勝つだけではないということ。もちろん勝って得られる強さもある。しかしそれは自信とか実績とか、その手の精神的な強さであって、肉体そのものの向上ではない。戦って鍛えられて、強くなった上でレベルアップと見なされる。レベルアップをして強くなるのではなく、強くなったからこそレベルは上がり、上の階級として認められるのだ。


 弱すぎても駄目、強すぎても駄目。できれば実力の拮抗した者が望ましい。生死を懸けた勝負なら、その効果は絶大であろう。この条件をシビアだとすれば、それは確実にゲームのやり過ぎだ。


 実際に人間が強くなろうとして、雑魚を倒し続けて強くはなれない。パーティーに参加し、傍観しただけで経験値の分け前など貰えない。ましてや固くて逃げるだけの敵を倒したところで、特別多い経験値など得られない。その道理が通るなら、数多の蟻んこでも潰して、格闘技の試合でも見ていれば誰でも最強になれるはず。


 閏の一撃で大破してしまうゴーレムだが、同様に閏も一撃貰えばそれでKO。そんな生死を懸けた戦いの中、閏の集中力は極限まで研ぎ澄まされ、戦闘経験値はありえない速度で向上していく。


 そしてゴーレムとの戦闘終盤、閏のレベルは一つ上のランクに到達した。この異世界での一レベルの重みは非常に大きい。一般人はゼロレベルで、転生者は肉体強化されている為ファーストレベル。閏は更にその一つ上、セカンドレベルとなった。


 ちなみにゴーレムをレベルで換算するならば、その値はサードに位置する。閏より上だが、あくまで肉体の強さに限った話である。閏にはスキルがあり、その強さがレベルの上に上乗せされる。


「それなら良かったが、しかし閏の姿が見えないのは?」

「それは閏は今、話をしているからだよ」

「クラスの奴か?」

「ち、違うよ……というかその――」

「どうしたというのだ?」


 話題を変えた直後、宮の体は震えだし、見る間に血の気が引くのが分かる。


「言いたくなければそれでも――」「死んだよ」


 ――――な……


「この町に残ったクラスの皆は、僕ら三人を残して皆死んだ。奴らに通用したのは閏と、ジュエラレイドの一員だけで、AスキルもSスキルもいた皆は、一人残らず焼かれてしまった」


 それは突然の訃報で、我王の心は大きく揺れた。例え関係が希薄だとしても、教室を共にしたクラスの一員が死んでしまったことに、強く心が痛んだからだ。しかし、同時に我王は納得もしていた。なぜならスキルの強弱があるとはいえ、ゴーレムは我王をして、まったく歯が立たなかった化物なのだから。


 そんな化物を倒せる術を持つ者。閏は強力なスキルをもってして。だがしかし、もう一方のジュエラレイドとは。


 我王を救った男も、その名称を口にしていた。そして見事にゴーレムを打ち倒している。それは単にスキルの強弱だけでなく、連携によるチームプレイで。


 コンビネーション。それは我が道を生きる我王には無縁だったもの。そしてそれこそが彼の人生を変え、新たな道を切り開く、傍若無人の性悪男。マルス・エメルダとの出会いに繋がるのであった。

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