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一撃必殺?

 サイクロプスはいわゆる巨人で、人の住む大陸には存在せず、魔人の領域に生息している。その体躯は大木すら超え、顔の中央に備わる単眼は見た者を射竦める。


 しかし、我王の前に現れたのは子供であり、身長にして我王の一カンマ五倍といった程度。生来の剛力と頑強さを備えてはいるが、レベルでいえばセカンドが関の山で、サードにすら届き得ることはないだろう。


「サイクロプスの子供は希少でね。大人はでかいから見つけやすいが、子供はなかなか見つからないんだ。それにすぐ、大きくなってしまうしね。それでも連れて来た理由は――」


 ふと、言葉を詰まらせるイゴール。そして次の瞬間には、まるで子供のように無邪気な笑顔を咲かせて見せた。


「獣との戦いに飽きてしまったんだよ! 時には人型と人型、そういう戦いも見て見たくなってね。でも大人では参加はおろか、連れてくることもできやしない。だからね、頑張って探したんだよ」


 イゴールの発言は、汚れた私欲に塗れている。残虐なゲームだが、少なくとも我王は、そして凡その闘技者達は己の意志で参加を試みた。しかしイゴールの連れて来た魔物達は――


「下衆が……」

「ん、なんだって?」

「下衆だと言ったんだ、魔物とはいえ幼い命を……」


 我欲の為なら有無を言わさず実現させる。それはまさに一連の環境悪の権化たる所以であり、それを間近で目の当たりにさせられた瞬間であった。


「ふふ、侮辱は嫌いだが、面白い奴だね。だけどね、君は子供と思って侮っているようだが、その考えは改めた方がいいかな。捕える際、幾らかの魔物は殴り殺された。フォースレベルに恥じない遺伝子は持っているんだ」


 憎きイゴールを一瞥し、改めてサイクロプスと対峙する。少女もめいっぱいの敵意を示しているが、それは我王がイゴールに向けるものとはまるで質が違う。小刻みに震える体を見れば、親元を離れた不安が如実に表れている。


 憐れに思う我王だが、当然負けてやるつもりはない。しかしデスマッチになり得る理由はあくまで魔物の知性にあり、生殺与奪を我王が握れば、意味合いは大いに変わってくる。


「審判よ、これはデスマッチではないのだ。戦意が無くなれば中断しろ。俺は相手を殺すつもりは――」


 直後、我王の姿がその場から消え失せる。立ち位置だった場所に残されるのは、サイクロプスの放った力任せの拳だけ。その直線上の砕けた鉄柵の向こう側、殴り飛ばされた我王は、崩れた瓦礫の下敷きと成り果てていた。


「まったく、くだらぬ心配などしているから。せっかく用意したというのに、こうもあっさり終わってしまうとはね」


 期待外れの結果からか、息衝くイゴールはやれやれといった面持ちだ。たかだかセカンド相当、ましてや魔物の少女に後れを取るとは――などと、決して甘く見てはいけない。セカンドレベルは既に人外で、数多の猛者を寄せ付けない。人体を容易に破壊でき、かつ反撃などもろともしない。


「マ、マルス……これは……」


 セラフィは人の強さの範疇で、ある程度の強さは持っている。だが当然、魔物を打ち倒すことは不可能だ。もし仮に戦えば、これまで挑んだ戦士たち以上に、あっけなくその身を散らすことになるだろう。故にサイクロプスの打撃をその目にして、最悪の事態を想定したのだが。


「いや、心配はいらねぇ。ダメージはあるだろうが、我王は意識を保ってる」

「な、なぜ……そんなことがマルスに分か――」

「見ろ」


 マルスの指差す方向は、我王の吹き飛ばされた入場口。そこにはただ瓦礫の山と、舞い上がった土埃が漂っている。


「我王さんは……確認できませんが……」

「違うぜセラフィ、俺が指しているのはそこじゃねぇ」


 よくよく見てみると、マルスの示指は砕けた鉄柵の方に向いている。だがそれに何の意味がと、むしろ生存の余地のない、途轍もない衝撃を物語っているのではないのかと。そう思った直後に、セラフィの頭には一つの違和感が浮かびはじめた。


「鉄って……砕けるもの、でしたっけ?」


 見ればその鉄柵は、白い霧のような気体を噴出している。土埃と誤認してしまいそうだが、しかしそれは舞い上がることなく、地面に這うように流動していた。


「バルカンは冷えねぇからな、俺も知らなんだ。なにやら脆化という現象らしい。鉄はな、あまりに冷えると砕け散る。ひしゃげるのではなく割れちまうんだよ。セラフィなら理解はあると思ったんだが」

「故郷は確かに冷えますけど、しかしここまでの冷却とはなりえませんよ……」


 吹き飛ばされる我王は、背後の鉄柵を瞬時に冷却。衝撃を緩和することに成功しており、つまり殴られた時点で、しっかりと意識を保っているということ。積もる瓦礫が崩れると、中から姿を現す大きな影が。


「が、我王さん!」

「ったくよ、ヒヤッとさせやがって……」


 あれほどの強打を受けながらも、我王は迷わず足を進める。仮にこれまでの闘技者なら、瓦礫に埋まりやり過ごそうかと、壊れた入口から逃げてしまおうと、そう思い直したに違いない。しかし我王に雑念はなく、再び闘場へと舞い戻る。


「六帝……我王くんか」


 示指をこめかみに、知略を巡らせる魔人イゴール。果たして彼の心中や如何に。

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