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最強の定義

 行程は、リヴァーを旅立ちドニクスを越えて、ヘリオの町で一泊する。翌日は千キール近い距離を進みルチルという町に。そこから先はバルカン山脈に入り、ターゲットの捜索に入るという。常人からすれば魔物抜きでもタフな行程、団員にとっても今回ばかりは楽とはいえない。宮は置いていくことにするかという話題も出たが、しかしそれでも、宮は行きたいとのことだった。死への恐怖に囚われる宮だったが、世界のことを学ぶにつれて、自分の目で世界を見てみたいと思うようになった。


 精神的な圧の軽減した宮の足取りは軽い。本来、彼は常人とは比べ物にならない肉体を有している。強くなったというより、本来の肉体のスペックを引き出せるようになったというのが正解だろう。


「我王。確かに魔物は怖いけど、どうやら個体数はそんなに多くないみたいなんだ」


 魔物は無限に沸いてくると、そのようなイメージはあるかもしれない。しかし魔物といっても生物で、とりわけ強い力を持ち、そして世界のエネルギーは有限だ。となれば個体数が多くはないのは、必然と言えば必然の話。


「魔物は魔力を有してて、それでいて強い肉体も持ってる。でもね、強力な力を生み出し持続するには、相応のエネルギーを摂取しなくちゃいけない。だから魔力を持つ者は大量に繁殖できないし、寿命を前に餓死してしまう場合も多いんだって」

「ほぉ、なるほどな」


 宮は力で協力はできないが、情報を与えることはできる。宮の知識はまだまだ深いものではないが、しかし学ぶとはそういうこと。既知を学び続け、見聞を広めれば、いずれ独創的な考えを持つに至る。


「よぉく勉強してるじゃねぇか、宮。だから魔物との遭遇率は低いし、魔物はあまり群れを為さない。なぜか分かるか?」

「共食い、か?」

「そうだな。当然だが、魔物は魔物を仲間と思っちゃいねぇ。魔物同士が出会えば容赦なく襲い食い始める。同族をして、食い合うケースが見られるくらいだ」


 これもイメージからくるものだが、ロールプレイングゲームのように、他種の魔物が共闘するなんてことはまずありえない。あるとすれば効率的な狩りの為、そして強大な敵から身を守る為。しかしどちらにしても獣に近い野生の魔物が、同族以外と手を組むということは非常に稀だ。


「魔物は魔力を備えた獲物を優先する、エネルギーを取り込むことができるのかもしれねぇな。だから同族も、油断をすれば寝首を掻かれる。魔力が必要成分だとして、個体数は多くない訳だからな」


 ともすれば日常で繰り広げられる会話。こんな話もできるほどに、ヘリオの町には難なく辿り着くことができた。ヘリオはこじんまりとした小さな町で、経済の良し悪しというより、魔物への恐怖がそうせざる負えないのかもしれない。そう考えると、リヴァーの町は半壊したとはいえとても広い。それは南方ほど魔物の脅威が少ないということもあるが、何よりジュエラレイドという後ろ盾が、町の発展を大きく促しているのだろう。


 食事は共にしたが、宿の部屋は幾つかに別れた。マルスは一人、ユリアはヒカリと共にして、同じくシャルとバンデッド、そして我王と宮がペアとなる。明日も早い、部屋に付くなり就寝の準備をはじめる訳だが、横になり、少し経ったところで、ふと宮が口を開いた。


「転生した皆。町を出た皆は、今頃どこにいるのかな」

「さぁな。まるで噂を聞かんところを見ると、大きな活躍はしていないのだろう。強力なスキルをして、魔物の俊敏性やゴーレムの熱線は、初見で躱せるものではないはずだ。まともに戦えば、能力を見せる間もなく殺されてしまう」

「じゃあ、皆は――」

「あくまで戦ったらの場合だ。遭遇率は低いと言うし、戦闘を好まん奴は隠れて生活しているかもしれない。黒野のような性格でなければ、生きてる奴もいるかもな」

「黒野は、どうしてるんだろうね」


 我王にとっては苦い想い出、しかし今更どうでもいい。だが一つ気になることとして、我王は皆がどこに行ったかを知らない。今現在の行方、という訳ではなく、最初に選んだ三つの場所。我王は意識をなくしている内に、いつの間にかバルカンに来ていたが、基本は選択式で自由に行き先を選べたという。


「そういえば、奴はどこに行ったんだ?」

「確か黒野は、カルネージを選択してたよ」

「そうか、聞くに酷い治安の国だそうだ。正すような行いをしてくれれば良いが、奴に限ってそれはなさそうだな」

「はは……そうだね」


 まるで黒野が悪役だが、力を手にして正義でい続ける方が難しい。あからさまな悪事に走るかどうかは分からないが、しかし確実に私欲には走るし流される。それが人間というもの。神々が創りし転生者、最強がありふれる中、求められるのは精神の強さなのかもしれない。

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