新たなる夜明け
いまだ日の出ぬ、小鳥も眠るその時間。宮と共にアジトを訪れれば、一人も欠かさずメンバーは揃う。こればかりはもはや儀式に近い。無論、簡易な依頼に対して集うことはないが、こと魔物が絡めば自然と皆ここに集まる。
「今回も、死者が出ないといいな」
「バンデッド、それはフラグだぜぇ」
シャルは茶化してみせるが、それを考えぬ者はいない。当然シャルも、心の内では重く捉えている。
「今、こんなことを話すのも不躾だが、やはり死者は多いのか?」
「多いよぉ、ゴーレムの来襲時にはかなりやられた。遠征だって死者は出るよ」
「マルスが付いていてすら、か?」
「そうだねぇ。マルスは一見すれば無敵だけど、力の範囲は大きくないんだ。つまり、対複数がマルスの弱点なんだよ」
この場合、対複数ではマルスが仲間を守り切れない。そう捉えるのが自然に思える。しかし実際はそうではない。
「マルスの強さは団の強さだ。俺達はマルスに守られるのではなく、マルスを守る為に命を懸ける」
そう語るバンデッドの言う通り、死者にはマルスの身代わりも多くを占める。特別マルスがそれに指示を出すことはしないが、しかし皆、マルスを生かすべきだと理解している。
「命の奪い合いであれば死者は出るよぉ、それはどうやったって止めることはできない。だけどねぇ、それがマルスでなければ俺達の勝ちなんだ」
命に優劣はない、しかし優先順位は存在する。それは片側が劣っているからとかではなく、マルスはジュエラレイドという船の舵を取るから。旅客機の操縦士と乗客一人、どちらか一方が死なねばならないのなら、自ずと答えは決まってしまう。しかし、たとえそれが合理的だとしても、人にはそれぞれ精神が宿っている。
「死ぬのは……怖くないのか?」
「怖くない訳ないよ。だけど……比べようはないけれど、仮に人と比較できれば、その気持ちは人より薄いかもしれないねぇ」
「俺とシャルは心の何処かで、死を贖罪だとも思っているからな」
死を身近にするシャルとバンデッド、二人が口にする死の話。場を沈黙が包むが、そんな重い空気を打ち破ることができるのは――
「馬ぁあああ鹿! てめぇらはまだまだ罪の半分も償ってねぇぜ、長生きしてもらわなきゃ困るんだよ。腑抜けたこと言ってっと、俺の拳が再び飛ぶぜ!」
「それぇえええ! 俺達の寿命はマルスに一番削られてるんだってぇえええ。お陰でバンデットの頭は――」
「だから関係……あるかもな! がははは!」
マルスは力を追求する。我王にもそれを強く求める。結果それが、皆を守ることに繋がるのだから。
「なぁに、毛が無くなったって死にゃあしねぇよ。それに長生きすれば、髪を生やす技術だってその内できるかもなぁ」
すると我王。周囲に悟られないよう、マルスに向かって一つ頷く。
「はは、できんのか。すげぇなそりゃあ。そこまでいくと、あそこも生やしたり取ったりできたりしてなぁ」
するとまた我王、そして宮も。マルスに向かって一つ頷く。
「…………よ、よし。そろそろ行くか」
人類の未来はマルスの思う以上に明るく、その分闇も深いようだ。