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次なるミッション

 その日も夕刻を回り、鍛錬を終えた我王は再びジュエラレイドのアジトへと戻る。そのまま自室へ戻る選択肢もあったが、宮を置いて帰る訳にもいかないし、何より今の我王の身は自分一人のものではない。組織に属し、かつ立場は末席。自由気ままという訳にもいかないだろう。


 武器屋を介し大広間へと足を運ぶと、そこには何やら神妙な面持ちのマルスと団員達が卓を囲んで話している。マルスの他の面子は、ユリアにシャルにバンデッド、他うろ覚えの団員が数名。しかしそこにヒカリと宮の姿はなく、我王の入室に気付いたマルスは、組んだ腕を解き手招きする。呼ばれるがままその席へと向かうと――


 ゴチンッ


 と、思い切り頭を殴られる我王。


「てめぇ、こんな時間までどこ行ってやがった。若輩が最も遅れて来るとは、とんだ礼儀知らずだぜ」


 ご機嫌斜めのマルスだが、酔い潰れて部下への指示を怠けた張本人はお前だろう。そんな我王の心の訴えを汲んで、残りの団員たちは苦笑と共に憐れみの眼差しを向ける。どうやらマルスの理不尽には皆、何かしらの覚えがあるようだ。


「まあいい。どちらにせよ、新人が口出しできる内容じゃなかったからな。てめぇは決まったことだけをしっかり頭に叩き込んどけ」


 じんじんと痛む頭を擦りながら、我王はマルスの話に耳を傾ける。その内容は自衛の範疇を超えるもので、そして我王が今必要としているもの。近隣の町からの、魔物討伐の依頼であった。


 その町はドニクスという町で、リヴァーより北、三百キールの場所に位置する。我王の知る三十キロという距離で、近隣と言えども、その距離は日本橋からみて横浜やさいたま市、幕張付近までの道のりだ。交通機関の充実した世界では、到底歩いて行こうと思える距離ではない。しかし、この世界では電車もなければ自動車もない。歩くか馬に跨るか、危険な道のりを生身を晒して渡らなければならないのだ。


「これが前に言った遠征だ。依頼と対価という点は宮の言っていたギルドとかいうシステムに近いがな。しかし大抵はこのように、ある程度纏まった組織に依頼する。個人の依頼は仲介者がいなければ危ういし、何より一人じゃ魔物は倒せんことは伝えたよな」


 宮の言うギルドのシステムはあくまで仲介。依頼者と受注者を繋ぎ、体裁を整えることがその役割だ。違反者は目をつけられ、ペナルティが下り、目に余るようなら追放される。だから依頼する者も請け負う者も罰を恐れ、信頼を重視し、一線を超えるような事は稀である。しかし個人間の契約はそうはいかず、パワーバランスがそのまま契約内容に反映されるし、おまけにそれが守られるとも限らない。そして大概は個人が不利となるケースがほぼほぼだ。


 だが、マルスは団体故に強く出れる。団体故に遂行能力も高い。よって依頼も多ければ、実績と信頼も大きなものとなっている。しかしここで一つ疑問が残る。マルスの団体は自衛団である。自衛とは侵略を自らの力で防ぐことで、ならば依頼を受けることは、先にも上げたように自衛の範疇外の行動だ。


「ジュエラレイドの活動は、自衛だけではないのだな」

「法の抜け穴さ。作りてぇのは私営軍だが、国を脅かす私営の軍隊の設立はバルカンの法で禁止されてる。認められるのは、身を守る為に必要な自衛の力に留まる。要は自衛団なら設立OKだということ。そして俺らは危険の及びそうな魔物の情報を聞き、善意の協力金を得てそれを倒しに行く、あくまでリヴァーの安全の為にな。自衛団の人数にも決まりはあるが、なぁに、抜け道なんて幾らでもある。なぁ、鍛冶屋に宿屋に、料理人の皆様方よぉ?」


 悪戯に笑うマルス。応じて各々、含みのある反応を垣間見せる。法やルールなんてそんなもので、完璧なる文言など存在しない。この世界に限らず、永遠に続くいたちごっこなのだ。


「国は当然、知っているのだろう?」

「当たり前だろ、だが知ってどうなる。第一、国ですら時に依頼を寄越すぐらいだぜ? 最早公認と変わりはねぇよ。体裁さえ守り続けていればな」

「ではしかし、自衛の為だけではないとしたら、一体ジュエラレイドの目的は――」


 我王の言葉に、はっと意識を向ける団員達。何かまずいことでも言ってしまったかと不安を煽られるが、理由は昂るマルスをもってすぐに解明されることになる。


「それを語るにはよぉ、酒が必要だぜ。マルス・エメルダ! 一世一代の――」

「聞き飽きたよぉ」

「酒はもう飲まんと言っていただろうが!」

「マルスは夢見がちなのよ」

「我王には話してねぇ! 酒なんてそんなもんだ! 男の夢にケチつけんじゃねぇ!」


 フラストレーションを拳骨に変えて、それを続け様に叩き落とすマルス。ユリアにだけは怒号で終わったが、まるで聖徳太子の耳のよう。


「ちっ、こんな湿気た雰囲気じゃ語るに語れねぇぜ。それはまた今度、機会があったら話してやるよ」


 少しばかり気になる話ではあったが、団員の様子を見るに、いずれ耳にたこができる程言い聞かされるのだろうと、我王は特にせがむことはしなかった。


「とにかく、今回は町の要請で魔物を狩りに行く。報酬は十万マナ。そこいらの労働者百人分の月収にはなるが、本音を言えば雀の涙だ。魔物の被害を受ければ、その程度じゃ済まねぇからな」


 今回の報酬金額、マルスの言う通りかなりの格安である。万一ダメージを受けた場合の被害額どころか、軍備を組んだだけでも十万マナなど端金にしかなりえない。ましてや相手は魔物なのだ。国の軍隊をして敵うかどうかも分からない。


 それをたった、百人分の月収で請け負うマルス。決して慈善事業をしたい訳ではないが、足もとを見たい訳でもないのだ。契約相手の実状と討伐対象を鑑みて、適正価格を提示する。その適正はマルスの考える適正であり、決して相場の適正ではないのだが。


「安く請け負うということは、相手はマルスの得意とする相手ということか?」

「相性がいいと言うよりは、戦い慣れているといった方が適切だな。皆もてめぇも記憶に新しい相手だろう」


 我王の最近といえばオルトロス。ただそれは我王のみに言えることであって、団員全てには当てはまらない。であれば別の相手。そして我王が相対した他の魔物といえば、それは一つしか考えられない。


「まさか、相手は――」

「そのまさかだよ、相手はゴーレム。てめぇが手も足も出なかった魔導兵器、それが今回のターゲットだ」

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