表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/115

スキル医師と医療事情

「さ、さすがに焦ったぞ。この歳で代金が支払えないなど情けないにも程がある」

「確かに老けてるが、てめぇの歳ならまだセーフだろうよ。とはいえ二度目は通用しねぇ。今後は注意しとけ」


 安堵に息を漏らす我王。往々にして、精神的な圧の解放は肉体のそれより大きいもので、堪らず椅子に腰を落とす。同じくセラフィも椅子に掛けるが、共通点は目線くらいで、その眼差しは我王に興味津々といった様子。前のめりに顔を寄せると、断りもなしに体に触れはじめた。


「か、勝手に診察するな。代金は支払わんぞ!」

「結構結構、単に私の興味です。いやしかし、それほど見た目の差はないのですな。先程の診察でも気付きませんでしたよ」


 セラフィの興味は顔から、腕から、胸から腹へと。堪えつつも顔をしかめる我王だったが、遂にその手が股間に伸びた時には、さすがに耐えずに身を引いた。


「こんな出会いになっちまったが、セラフィは優秀なスキル医師だぜ。失くした腕も再生できる。もっとも、腕が戻ったところで命を脅かすほどの請求が待ってるがな」

「五体は何物にも代えられないでしょう。妥当な金額だと思いますがね」


 興味の対象が離れ、悪態も重なり、むくれるセラフィはご機嫌斜めだ。しかしそんなことは気にもせず、マルスは構わず話を続ける。


「だからよ、どっちにしたって気軽に怪我は負えねぇってことだ。スキル医師を当てにしてたら、金がいくらあっても足りやしねぇ」

「そうなのだろうが……しかし俺のように金を払わんと言う輩も多いのではないか? 治療後の支払い拒否もあるだろうに」


 あくまで我王に悪意はないが、しかし皆がそうとは限らない。スキル医師だと知った上で、支払いを拒む可能性も十分にあり得る。なにせ治療費は莫大で、治しては欲しいが、支払いを免れたいと思うのが人間の性。


「勿論ありますよ。前払いにしたところで、その金を取り返そうとする輩もいるくらいです。同業潰しなんてのもいますし、希少な能力故に拉致を企む者だっています。危険な仕事なんですよ、スキル医師というのは」

「だからな、俺達はセラフィの用心棒もしてやってる。事のついでに景気はどうだと、診療所に寄ってみたらこの有様だ。笑っちまうぜ、まったく」


 ぼったくりを企む悪の医者だと、はじめはそう思っていた。しかし存外、彼らスキル医師は悪意を向けられる側の人間であって、邪な思惑から必死に身を守ろうとしているだけだった。一連の出来事をマルスは鼻で笑ったが、対してセラフィの面持ちは険しい。それはこうした事態が常日頃から存在し、決して冗談では済まないと知っているから。


「私の様に、用心棒を雇うスキル医師はとても多い。そして鍛錬だって行う、自衛の為にね。それでも危険なことに変わりない。その対価が高額な代金という訳です」


 代替の利かない需要に加えて、その危険性から割高となる。至って自然に思えるが、しかし彼の行う医療はスキルによるもの。薬にかかる金もなければ、機材にかける金だって最小限で済むはずだ。


「治療費を安くはできないのか? そうすれば危険も少しは――」

「下がりませんね、むしろ上がるでしょう。同業潰しはもちろん、国のお抱えだっているのです。噂が広まれば国の圧力がかかるでしょうね。一医者にはどうすることだってできません」


 仮に医療費を下げれば、相場の均衡が崩れることで、他のスキル医師の反感を喰らうだろう。それが国のお抱えなら、財政をも揺るがす独断は国の制裁すら被り兼ねない。だから今更安くはできず、対策するには力に頼らざる負えない。


「だからな、医者は舐められる訳にはいかねぇんだよ。医療費は頑として曲げねぇし、逆らえば実力行使だって厭わねぇ。護衛してやってる俺ですら医療費はたったの一割負けだぜ。とはいえ俺も世話になる可能性がある以上、守らねぇ訳にはいかねぇしな」


 してやってるなど、恩着せがましい発言に、セラフィはじろりと睨みを利かせる。


「ちゃんとみかじめ料も払っているでしょう」

「餓鬼の小遣い程度でよく言うぜ」


 ああ言えばこう言う。呆れた面持ちのセラフィだが、手を招くことで近寄るマルスに顔を寄せると、息衝くように囁いた。


「で、彼は勿論、強いんでしょうね」

「俺を見くびるなよ。きっと、てめぇの趣味の悪りぃお眼鏡にも叶うはずだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ