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Re:スタート地点

「――起きろ――」


 その者は記憶が混濁していて、呼声は草木のさざめきのように微かに耳に届いた。


「――起きろ! 閏!」

「……その声は……我王? 確か私たちはバスに乗っていたはずじゃ……」


 閏は記憶の全てを失った。代わりに膨大な記憶の数々は、目の前の六帝我王へと移り変わる。


「皆、あちらに集まっている。教師はいない、あとバスの運転手もか。とりあえず俺の後に付いてこい」


 呆ける閏は、言われるがままに我脳の後を付いていく。宮やクラスメイトと合流し、友の安否にひと息ついて、そこでようやく疑問を口にした――


「ちょっと待って、全然理解できない。この状況は一体――」


 その時だった。時報とも言える号令が、天上の世界に響き渡る。


「レディイイイス&ジェントルメェエエエン!」


 舞い降りる使者は純白の装束を身に纏い、滾る炎翼を羽ばたかせる。その揺らめきは、煌めく残像を残しながらに、降り立つ雲海への軌跡を標した。


 一般的なイメージと相違はあるが、一同は総じてその者を天使だと感じた。しかし真実は天の使者などではなく、悪魔に相応しき穢れた邪神。


「待たせたな。私の名はミラノア。転生を司る神様だ」


 誰もが呆けて見守る中、我王だけは激しく睨みつける。許されざる真の敵は、異世界に生きる誰でもなく、はじまりもはじまり、この時点で既に名乗り、姿を現していたのだ。


「ふふ、やめろよ。照れちゃうだろ」


 そうして、ミラノアは語りはじめる。これより向かう世界では、人類が窮地に晒されていると、それを救うのが転生者の役目だと、そんな出鱈目を言ってのける。そして不安に陥れた者たちに、敵と戦う力だと、スキルの付与を強制するのだ。


「さぁて、君たちに与えるのはスキルという力だ。それを平等に、実力とか名声とか、財産とか人柄とか、そんな下らないものは関係なしにランダムで授けるよ。必要なのは天運のみだ。運に任せて、スキルガチャをやってみよぉおおおぉぉぉ――――で、質問タイムだよ。何かある?」

「ない。とっととはじめるんだ、ミラノア」


 これは我王が記憶を引き継ぐ際には、お決まりとなった流れの一つ。


「一度例外を挟んだだけだというのに、懐かしいね。口の利き方はともかくとして、話の早いところは君の良いところだ。好感が持てるよ」


 凄む我王に嘲るミラノア、二人にのみ通じる因縁には、何者も口出しできない。


 その後は順に名前を呼ばれて、スキルガチャを引いていく。


「宮くんは、Sスキルの身体ブーストだ! これは身体能力を一時的に――」

「閏ちゃんは、Sスキルの絶対貫通だ。これはいかなる物質でも――」


 相も変わらず引き続けられる、高ランクのスキルの数々。そもそもこのスキルガチャに於いて、BからCスキルを引く方が稀である。それを前世界では三連で引き当てた我王は、ある意味で凄まじい運の持ち主とも言える。


 そして最後は我王の順番。ここで恒例の、しかし他の誰も引き当てたことのない、とある機会が巡ってくる。


『三連チャンス!』


「三連チャンスだ! ここにきて三連チャンスを引き当てるとは!」


 おどけるミラノアの口ぶりは茶番であり、しかし演技はここまでだった。その後に待つのは真の驚愕。我王がレバーに手を掛け、力強く捻った直後のこと。


 辺り一帯は、目も眩む小金色に包まれる。あまりの閃光に、皆が顔を背ける中で、我王だけは全く揺るぎない。そして転がり出た珠を掴み取ると――


『SSSスキル 瞬間移動』

『SSSスキル コンビネーション』

『SSSスキル 力の集束』


「ほ、本当……これなんだよ。前回が異常だっただけで、我王くんの天運は神の予想すら覆すものだ。しかしこれは、今までの中でもとびきり凄いね。今回の世界に懸けると言った、君の気迫が感じられるよ」


 やはり我王は尋常ならざるものを持っていると。勝利の道を歩み続け、決して誰も追いつくことはできない。皆の感覚が確信へと変わった瞬間であった。


「じゃあ、次は行き先を選ぼうか。場所は好きに選べるんだ。カルネージにシャマルに、そしてバルカン。どの国に行くか好きに選んで――」

「バルカンだ。俺たち全員、残らずバルカンのリヴァーに送れ」

「は?」


 耳を疑うミラノアだが、これまでの世界をして、こんな要望は一度もなかった。ルール違反ではないものの、ミラノアは記憶の継承を他人にまで波及させるような扇動を、つまらないものとしており、つまり納得するエンディングとは認めてくれない。


「いいな、みな俺に従え。全員がバルカンだ。異論を認めるつもりはない」

「おいおい……我王くん。そういうのはつまらねぇって、最初の最初で伝えたろ? 皆の主張は大事に……」

「いいからそうしろ、満場一致の意見だ」


 譲歩を求めるミラノアだが、我王は決して譲るつもりはない。これで九分九厘の失敗は決まったと、そう考えるミラノア。


 しかし禁止ではない。結局は楽しいか楽しくないか、それがミラノアのルールであり、これまでにない展開であるのは確かなこと。万に一つの可能性を鑑みて、渋々意見を認めることに。


「わ、分かったよ……君の好きにするといいさ。代わりに、とびきり楽しませてくれよな。では、次なる人生に幸――」

「最後だ。最後の人生、必ず幸せを掴み取る」


 それを聞き、鼻で嗤うミラノア。そうして我王は再度の――いや、最後にするべく決意を固めて、異世界へと旅立った。

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