第9話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン付喪神に会いに行った件
「………………」
朝日が顔にあたり、薄目を開けて辺りを見渡す。
時計を見ると、いつもより少し早く起床出来たようだ。
体は怠いが、不思議と目覚めは良い。
この調子であれば、業務に支障は無さそうである。
のろのろと着替えながら、昨夜の出来事について考えていた。
歓迎会の件はこの際、横に置いておいて、問題はその後だ。
(昨夜のあれは……あれって……ひー!!)
恥ずかしすぎて、詳しく思い出せない。
思い出したら、多分卒倒する。
いや、大体分かってはいる。分かってはいるのだが、……あまりにも現実感が無さ過ぎて、私にとって全てが都合の良い妄想だったのではと疑ってしまう。
(とりあえず、今は深く考えないでおこう。
思兼さんに会うのは気まずいけど、もう一度きちんと謝らないと)
私は身支度を済ませ、食堂へと向かった。
* * *
「シロちゃん、おっはよ〜♪ あの後、大丈夫だった?
派手にぶっ倒れたからマジでビビったよ!」
食堂では珍しくシェフ姿ではない八木羽屋さんが駆け寄ってきた。
昨晩歓迎会を企画してくれたから、今朝はシフトが違うのだろう。
「あっ、おはようございます……昨夜は、色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした」
何日も前から食材を調達し、考えに考えてメニューを練った上、美味しい料理をたくさん振る舞っていただいたのに、それに見合わない行動を山ほどとってしまった。
「シロちゃんが復活したんだったら、全然オッケー!
意外にお酒強いんだね〜。今度改めて飲もー♪」
「すみません……しばらくは、遠慮しておきます……。そういえば昨日のごはん、どれもすごく美味しかったです! 上手く言えないんですけど、体に良い感じがするというか……お酒と一緒に食べてても、重くなくて」
「良い所に気付いてくれたね〜!!
ビンゴー♪ オレの思った通り!」
パチン!と八木羽屋さんが指を鳴らして口笛を鳴らす。一気に上機嫌だ。
「シロちゃんって、貧血気味だったりしない? 朝起きられないとか」
「えっ! そ、そうですけど。どうして分かったんですか?」
「やっぱりね〜。オレ、みんなが食べてるとこ結構観察してるんだけど、食の好みとかクセって意外と出るもんなんだよー。
神様や精霊達によって色々だから、健康状態とかある程度推測できちゃうの。医者じゃないから、出来る事は限られてるけど。食事である程度でも体質改善できれば良いに越した事はないかな〜〜ってね♪」
「なるほど……!」
(八木羽屋さんの仕事熱心な所、すごく良いな。
私も見習わなければ!)
その後、食事の豆知識や栄養素のしくみなど、為になるお話を色々と聞く事ができ、たくさんメモを取らせてもらった。
* * *
終業後、私は思兼さんに会いに神霊人事部へ向かった。
深呼吸をして、ノックをする。
「失礼します、思兼さ……部長はいらっしゃいますか?」
デスクには、若い男性二人組が書類を片付けている最中だった。
「お疲れ様ですー、……あっ」
「伊縄城と申します。えっと、神霊企画推進部の者です」
「昨日の″コンカツ″の方ですね!」
瞬時に真っ赤になる。
(やばい、そういえば、思兼さんの部署の方たちも当然出席してたよね……うわぁ……)
とにかく、苦笑いするしかなかった。
「一度にたくさん紹介されて、覚えるの大変ですよね。私は檜川で、こっちが周芳です。よろしくお願いします。
部長は会議が立て続けにあったので、遅れて昼休憩をとってるはずですよ。周芳、どこにいるか知ってるか?」
「うーん。部長の事だから、多分あそこだと思う」
「ああ、かもな。伊縄城さん、せっかくなので共有しときますね。部長の秘密の場所」
* * *
「ここ……だよね、確か」
前に社内見学で一度連れてきてもらった図書室。
意を決して、扉を開ける。
古びた木のカウンターを抜け、本棚が両サイドにずらずらと並ぶ道を通る。
資料を借りにきた社員がまばらにいるぐらいで、室内は独特な静寂に包まれている。
――――あった。
教えてもらった角部屋の個室。
整理中なのだろうか、所々に本が積みあがっていて、入口が死角となり分かりづらくなっている。
本の海をかき分け、扉をそっと開いた。
中はそこまで広くはない。
あくまでも集中して作業をする為だけのスペースのようだ。
奥にデスクがあり、誰か座っているのが見える。
「思兼さ」
《ズルッ》
足元が暗いのが災いし、何かを踏み付けたままバランスを崩してしまった。
《バサバサバサバサッ!!》
ぶつかった拍子に不安定に積み上げられていた本の山が雪崩のように降ってくる。
「いっ……たた……」
這いあがろうとするが、スカートが引っかかって上手くいかない。
「伊縄城さん?」
思兼さんが気付いたらしく、いつの間にか近くへと佇んでいた。
「あっ、休憩中にすみません……失礼して、ます」
もう、どうしてこうも情け無い状況ばかり作り出してしまうのか。
自分の不運を呪う。
「手を、貸してください」
ぐいっと強く引っ張り上げられる。
無事に助け出してもらえたが、舞い上がった埃や塵が制服中についてしまい、見るも無残な状態である。
「よくここがお分かりになりましたね。神霊人事部の者からお聞きしましたか?」
「あっ、はい。思兼さんの事を探していて……」
「僕を?」
「はい……直接、会ってお話したかったんです。今、少しだけお時間よろしいでしょうか」
一瞬だけ、いつも見る事が出来ないけど勇気を出して思兼さんと目を合わせる。
普段通りかと思っていたら、驚いたのか目を点にしたまま固まっていた。意外だ。
「思兼さん。あの。改めて、申し訳ありませんでした。私、異世界に来てから思兼さんにご迷惑をおかけしてばかりで……。
お仕事とはいえ、すごくご負担だと思います。
異質な私を忙しい中、逐一フォローしてくださって、本当に本当に感謝しています。
……私、なるべく早く順応出来るように頑張りますので! それを今日、きちんとお伝えしたかったんです。……用件は、以上です。失礼しました」
一方的に長々と言われても、今更帳消しにならない事は重々承知している。
それでも、自分の言葉で、面と向かって話したかった。
一礼し、そそくさとその場を去ろうとしたその時。
「待ってください」
思兼さんが私のすぐ近くにやってくる。
いつになく神妙な面持ちだ。
ぎゅ、と下唇を噛む。
(もう、流石に……)
異動か、左遷か、はたまた緊急送還か。
今後一緒に仕事をしてもらえない事は、すでに確定事項なのかもしれない。
私は覚悟してその先の言葉を待った。
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