第6話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がクール体育会系イケメンに助けられた件
「終わった……!」
うーん、と大きく伸びをする。
怒涛のスケジュールをこなしたからか、あっという間に時間が過ぎた気がする。
「お疲れ様でした。社員食堂は21時まで開放されてますので、夕食は伊縄城さんのご都合の良い時刻にお越しください」
「分かりました。あっ、そういえば夕方頃に制服が届くって言われてるので、私一度部屋に戻ります!」
「かしこまりました。それでは、明日は九時に【神霊企画推進部】でお待ちしております。場所は神霊人事部の左横です」
「ありがとうございます!」
ペコリ、とお辞儀をし部屋へと急いだ。
「……伊縄城さん」
心配そうに見送る、思兼さんに気付かずに。
* * *
「あ、あれ……?」
キョロキョロと懸命に辺りを見渡す。
似たような風景に気を取られ、いつしか廊下のど真ん中で立ち往生する私がいた。
まさか、この歳になって迷子になってしまうとは。
「どうしよう……自分の部屋、確かこっちだったはず……おかしいな」
行けば行くほど自信がなくなっていく。
前に思兼さんに案内してもらった時、行き方をきちんと確認しておけば良かった。
見渡す限り、縦横無尽の廊下迷宮。
このままでは制服を受け取れず、夕飯も食べられない。
(思兼さんに連絡しようかな……? でも、部長だったらきっと忙しいから私ばかりに時間割けないはず……それに、この間もやらかしちゃったから……)
涙目になりながら廊下を彷徨い歩いていると、曲がり角から黒い影が飛び出てきた。
《ドンッ!!》
「〜〜〜〜っっ!!」
反動で吹っ飛び、尻餅をつく。
「あ。わりぃ、大丈夫か?」
「いえ、……こちらの不注意で、すみません……」
無骨な手を差し出され、勢いで引き上げてもらうと見知らぬ男性がこちらをじっと見ていた。
小麦色の肌をした、体育会系といった風貌のイケメンだ。
「もしかしてアンタ、伊縄城って名前?」
「あっ、はい。そうですけど……?」
「ちょうどいい。ほら、これ。注文してた制服渡すわ。部屋にいねぇから引き返してきたが、二度手間にならずに済んだ」
バサッと大袋を渡し、キャップを被り直す。
どうやら、先程話のあった神霊資材部の担当者のようだ。
「そんじゃ」
「ああああああの!!」
「? なんだよ」
不機嫌そうに振り返る作業着姿のイケメン。
鋭い目つきで睨まれ、気圧されそうになるのを堪えながら、たどたどしく説明をした。
「ほんっとに申し訳ないんですが、……すみません!
私の部屋にもう一度、一緒に連れていってはもらえない、で、しょうか……」
語尾がゴニョゴニョと小さくなっていくのが分かるが、もう引き下がれない。
このチャンスを逃したら、また迷宮入りだ。
「なに、まさか自分の部屋帰れないっての?」
「ううう……すみません」
「あっははは! だっせー」
突如、ぶっきらぼうだった態度が一変し、あっさり爆笑された。ツボにハマったのか、急に柔らかな表情を見せるイケメンに、恥ずかしさで何も言い返せずにただただ俯いた。
「いいぜ。ついて来な」
「あっ!」
スタスタと先頭を歩き出す。
また道を見失ってはいけないと、急いでその人の後を追った。
* * *
「次はちゃんと覚えろよ」
どうやら、同じ廊下をくるくる回っていたらしい。五分ほどで辿り着くことが出来た。
「あ、ありがとうございます! 助かりました!」
無事に自室まで着いた安堵から、一気に力が抜ける。
「伊縄城さん!」
「えっ!? 思兼さん!?」
なぜか思兼さんが反対側から駆け寄ってきた。
思兼さんらしからぬ、珍しく慌てた表情だ。
「嫌な予感がしたので、伺ったのですが……すみません。まだ慣れてらっしゃらないのに送り返してしまって。僕の不手際です」
「いえ、私がきちんと道を把握してなかったせいで……こちらこそ、申し訳ないです……」
「誰も通らなかったら、どーするつもりだったんだか。じゃー、次の予約入ってるから行くわ。あとよろしく」
「御影。伊縄城さんは会社はおろか、まだこの世界へ来たばかりなんだ。もう少し、配慮ってものがあるだろう」
「あー、例の新入りさんね。へいへい、気をつけますよ。じゃーな」
「あのっ! 本当に、ありがとうございました」
「……おう」
御影と呼ばれた男性は、踵を返し、元来た道を戻っていく。思兼さんと二人きりになり、なんとも言えない、変な空気感に包まれた。
「…………?」
例えるならば、『嵐の前の静けさ』である。
一言も発しない思兼さんに危機感を抱いた私は、慌てて経緯を説明した。
「す、すみません。私が無理矢理部屋の道案内をお願いしてしまったんです。制服を届ける最中だったみたいで、」
「――――――――――伊縄城さん」
鋭く通る、冷徹な声。
思兼さんの雰囲気がガラリと変化する。
悲哀に満ちた険しい表情で私を見つめる思兼さんの視線が痛い。
怖い。
出会った時の物腰柔らかな笑顔が嘘のようだ。
不意に後ずさりをすると、退路を断つように壁へジリジリと追い詰められ、行き場を失った。
(思兼さん、完全に怒ってる……全部私のせいだ……)
必死で謝罪の言葉を考えるも、焦って声が上手く出ない。目を合わせられず自分の足をただただ見つめる事しか出来ずにいると、痺れを切らした思兼さんがさらに私に接近する。
(!? ち、近い……っ)
逃げられなくなった私は壁際に背が密着するのを感じた。思兼さんは壁に手を置いた後、深く息を吐きながら重い口をゆっくりと開いた。
「そんなに、信用ありませんか? 俺は」
「えっ?」
思ってもみなかった台詞に動揺する。
普段冷静な思兼さんからは想像できない、激情を隠しもしない男性の言葉。
どこか悔しそうな眼差しを向けられ、不思議と胸が苦しくなる。
「ち、違います! 本当は、真っ先にご連絡すべきだったのに……言えなくて……っ」
「なぜ?」
「え! っと…… 私、思兼さんが偉い立場だったのを知らず、たくさん甘えすぎていた自分が凄く嫌で……それがとても、申し訳なくて……すみません。勝手な事ばかり、言って……」
しどろもどろに必死で訴えると、少しだけいつもの思兼さんの表情に戻った。
「……貴方が気に病む必要はありません。八百万にお連れした、僕の責任ですので。気にかけて頂いたのは嬉しいですが、……もっと、頼ってください」
スッと体を離される。
目線を床に外し、おもむろにスーツを整える思兼さん。少しだけ耳が赤いような気がした。
「伊縄城さん」
「はっ、はい!」
「夕食、行きませんか。走ったらお腹が空きました」
困った顔ではにかむ思兼さんを見て、自分も心底空腹だった事にようやく気付けた。
「ぜひ!……お願い、します!」
* * *
(怒ると、″俺″って言うんだな……)
眠る前に今日の事を振り返る。
色々な意味で、長い一日だった。
私の事を心配し、見守ってくれる思兼さん。
不謹慎だけど、また一つ、知らなかった思兼さんを発見し、ちょっとだけ嬉しかった。
明日から初出勤だ。
そして、他部署の方々が集まるという歓迎会。
不安は尽きないが、出会った神様達に感謝し、″これから頑張ろう″と枕に唱えながら眠りについたのだった。
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