第56話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と老舗宿場で大集合の件
宿までの道すがら、私は言いかけた質問を思兼さんにぶつけた。
「土地神のお爺さん、私の事知っているみたいでした。
私、この場所に来た記憶が全然なくて……」
「人間界に住む神は、皆それぞれ力を持っています。
人間の皆様で言うところの″神通力″ですね。
しかし、それだけでは存在の永続は成り立ちません」
「えっ! 存在が……ですか?」
「勉強熱心だね〜シロちゃんは」
話を聞いていた八木羽屋さんが横から口を挟む。
「さーて、ここでシロちゃんに問題でーす!
神様方は、人間界にずっといられるにはどうしたら良いでしょーか?
ヒントは、人間さんの、ある行いのおかげだよ〜!」
「う、どうしたら……?! ある行い?!
えーと……」
シンプルかつ今まで考えたこともない問題に苦悶していると、衣吹戸課長がポツリと助け船を出した。
「伊縄城さんも、きっと、体験してるよ」
「…………あ! 神社でお参りします! 初詣とか!」
「ピンポーン♪ シロちゃん良いセンスしてんね〜!
人間さんは節目節目に神社で参拝しに来てくれるじゃん?
『受験に合格したーい』だとか、『健康的に過ごせますよーに』とか。
あれがぶっちゃけ、どストレートにアイデンティティの源になるわけ。神様も、モチベ大切だよね〜」
「願いや祈り、感謝の心が必要不可欠なんです。
神は八百万に存在しますが、栄枯盛衰。
力の強い神は、それだけ人々に願われ、支えられて存在できますが、反対に忘れ去られ消えていく神も数多にいるのです」
「はぁぁ……なるほど」
「最後にお会いした土地神は、失礼ながら時を経て守護範囲は狭くなり、社もだいぶ老朽化してました。
恐らくは、以前よりも力は弱まっているのでしょう。
過去に伊縄城さんに似た魂を感知したのか、それとも……」
思兼さんの顔が、一瞬強張る。
「いえ、何でもありません。
宿も目前のようです。暗くなる前に向かいましょう」
それ以上口出し出来ない圧を感じ、話は強制的に終了した。
(思兼さん……?)
* * *
鬱蒼とした竹林を抜けると、辺り一面銀色のススキ野原が広がっていた。
サワサワと風に吹かれる音が心地良い。
夕闇の小径を通過すると、連なり合う石造りの灯籠が足元を明るく照らした。
綺麗に剪定された松の老樹、厳かな瓦屋根の門構えが眼前に顔を出した時、凛とした声が響く。
「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました」
黒髪を結い上げ、浅葱色の着物を身に纏う艶やかな女性。水が流れるように、私達は玄関へと案内された。
「私、当宿場『草野亭』女将のいずみと申します。以後、お見知り置きを。
皆様の宿泊に際しまして、甘寺様より本日貸切にて御手配しております。
どうぞ、心ゆくまでお寛ぎ下さいませ」
「こちらこそ、本日はよろしくお願い致します」
「手荷物はこちらの者へお渡し下さい。
各部屋にお運びします。智、頼みますよ」
「承知」
現れたのは、眼鏡をかけた和装の男性だった。
見覚えのある、涼やかなこの顔は。
「久久野主任……」
「な、……!! 君達! 何故此処へいるんだ?!」
わなわなと震えながら、声を荒げる久久野主任。
よほど驚いたに違いない。
「ご安心ください。僕達も被害者です。
甘寺社長にこの宿を指定されて、今し方到着しました」
「くくの〜ん! なんだよ〜こっち来てたんだったら教えてくれれば良かったのにー。
ってか、作務衣似合うじゃーん!
一瞬分かんなかった♪」
「久久野くん、お久しぶり、だね」
(出張間際に言ってた″仕掛け″って、この事だったの?!
確かに、思兼さんと二人きりではない、けど。
これはこれで、色々ヤバい気がする……)
《ガラガラッ》
「出迎えがねーんで、失礼するぞ」
「予約してた種狛と御影ですが」
まさかの追加登場に、私達一同はさらにどよめいた。
スーツに身を包んだ種狛さんと御影さんは、二人並ぶと放つオーラも倍である。
強い。強すぎる。
「うわ、マジかー! ねこまるにたっつーもいんの!?
いよいよオールスターじゃん!!」
「げっ、八木羽屋さん……なんでいるんですか……!」
「そりゃ、こっちが聞きたいわ。今回の出張は役職者メンツじゃなかったっけ?」
「俺らは、昇進試験組。たまたまこっちが開催地だったから種狛経由で予約してもらった。そんだけ」
「宿泊先を嶽平部長に相談したら、この宿を強く勧められたんだよ。
『甘寺社長が他社員もまとめて予約するから、任せておけ』ってさ。
まぁ、一応海鮮料理も評判で立派な温泉もついてる触れ込みらしいから、おれも乗っかったって流れだ」
「やはり、元凶は甘寺社長のようですね」
深い溜息をこぼす思兼さんに、日頃の苦労を垣間見た気がした。
「初めに言っておくが、私の家で騒ぎを起こしたら許さんからな」
「えっ、あの、……″私の家″って言いました今?」
久久野主任の爆弾発言に耳を疑う。
「言ってなかったか? 私は皆と違って、この時期家業の手伝いを行う。無論、社長に許可は取っている」
「もう智ったら!
こんなにご友人がいらっしゃるなら前もって教えてもらわないと。ふつつかな息子ですが、今後とも何卒御贔屓に」
女将のいずみさんが丁寧にお辞儀をする。
「「「「「息子!?」」」」
もう、どこから突っ込んでいいのか。
ここは、久久野主任の実家かつ老舗宿場。
そして横にいらっしゃるのは花々も俯く勢いの美女女将がお母さんって、頭が全然追いつかない。
そして、極めつけは甘寺社長によって招集された男性社員の皆さん達との……お泊まりである。
(うわぁぁぁぁぁぁ!! どうしよう!!
こ、心の準備が出来てないよ〜!!)
「てか、温泉あるってマジ!? っひょー!!
じゃあオレ、一番風呂もらった〜〜〜〜!!」
「あ! てめー、ずりぃぞ!
図体でけーんだから、後から入りやがれ!!」
「ぼ、ぼくも、なんだか疲れたから、行こうかな。
フルーツ牛乳、飲みたい……」
「おれは舟盛りだな。誰にも渡さねー」
「静粛に! ここで群がるのは控えてくれ!」
「皆様〜、長旅でお疲れかと思いますので、お部屋に到着されましたら備え付けの浴衣がございます。
ぜひご利用下さいね〜。ふふ、元気なこと」
男性陣の怒涛のやり取りを微笑ましく眺めるいずみさんとは対照的に、棒立ちで固まる私。
「観念しましょう、伊縄城さん。
考えるだけ無駄なようです」
「はい…………」
こうして、天寺社長の壮大な仕掛けにより、イケメン達とのめくるめく一夜(?)が幕を開けたのだった。
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