第53話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン付喪神と人間界に出張した件
《ピピピッ》
「あ、思兼さんからだ! やばい、急がなきゃ……っ!」
IDバングルの着信音が鳴り響き、バタバタと大慌てで身支度を整え飲みかけのお茶を流し込んだ。
いよいよ本日、人間界へ降り立つ。
(なんだか、……変な気持ちだ)
″自分の住んでいた世界に戻れる″という、普通の人間からしたらとんでもなく有り難い事のはずなのに。
私が自分自身に興味がなさすぎて、ちょっと旅行にきた感覚でしかないからかもしれない。
なんとなく今は……
《トントントン》
「来ちゃった……! い、今行きます〜〜っ!!」
* * *
「おはようございます、伊縄城さん」
「おっ、おはよう、ございます……っ!」
スリーピースのスーツを着こなし、いつもよりキリッとした出立ちの思兼さんがお出迎えする。
出発前から大急ぎで準備したせいか汗だくになってしまったが、今から着替え直すには時間がない。
はぁはぁと息切れしながら、膝に手を当ててぐったりとお辞儀ポーズで挨拶するのが精一杯だった。
「すみません、急がせてしまいましたね。まだ時間に余裕がありますので無理せずご用意ください」
「えっ。大丈夫なんですか? 私なら全然……」
「予め伊縄城さんには30分早い時間をお知らせしていたんです。朝があまり強くらっしゃらないようでしたので」
ニコッと無邪気な笑顔を向けられ、うっかり朝からときめきかけてしまった。
さすが思兼さんだ。
私の生態を完全に熟知している。
「うぅ……すみません。では、お言葉に甘えてちょっと中の服だけ着替えてきちゃいますね。適当に座って待ってもらえますか?」
「承知しました。あ、伊縄城さん」
「はい? あっ……」
長くしなやかな指先が私の頬に触れる。
真剣な眼差しにびくりと身体が固まった。
「取れました。すみません、髪の毛が」
「あ、ありがとうございます」
「……伊縄城さん。もしかして、体調あまりよくありませんか?」
「へ!? どうしてですか?」
「頬が赤かったものですから。息づかいもお辛そうですし、風邪ではと。……失礼します」
突然、心配そうな表情で思兼さんが近付いてくる。
何事かとびっくりして固まっていると、額にそっと大きな手のひらが添えられた。
「……良かった。僕の思い過ごしでしたね」
一点の曇りのない、心から安堵した笑顔。
まだ思兼さんの手の温もりが残っているような気がして、……違う意味で熱が爆上がりしそうになった。
(条件反射で赤くなる自分が嫌だ〜!
良い歳してなんで、ドギマギしちゃうんだろ)
「伊縄城さん? 本当に大丈夫ですか?」
「だだだ大丈夫ですっ!! 私、頑丈なんで!!
あっ、もう時間ないですし、そろそろ行きましょう!!」
これ以上の押し問答はいよいよ墓穴を掘りかねない。
私は慌てて荷物を掻き集め、扉へと急いだ。
* * *
「うん。問題ないね」
出張申請書類を確認すると、天寺社長は思兼さんへバサリと乱雑に返した。
「不備が無さ過ぎて、逆に可愛げがないな。伊縄城ちゃんもそう思わない?」
「えぇっ!?」
「お褒め頂き光栄です。出発時刻が近付いておりますので、失礼いたします」
天寺社長の絡みを華麗にスルーし、仰々しくお辞儀をする思兼さんを尻目に、社長は何故か私に密着しながら耳元で囁いた。
「伊縄城ちゃんには先に伝えておくけどさ。
出張先で思兼二人だと飽きないように、色々仕掛けしておいたよ」
意味深な言葉を残した後、社長は軽やかに体を離した。楽しくて仕方がないといった具合に悪戯っぽい笑みを浮かべている社長へ、思兼さんは溜息を吐く。
「社長。あまり伊縄城さんを困らせないでもらえますか」
「えー? そんな事ないけど?
じゃあ、お土産話楽しみにしてるねぇ。
いってらっしゃい♪」
「は、はい! 行ってまいります!!」
(仕掛けって、一体……何だろう)
たかだか数日間の出張。
仕事で楽しむ余裕もないはずだと思われるが、社長がわざわざ私に教えてくれたという事は、先般の社員研修のようにきっと、何かしらの手配をして下さったのだろう。
「では、伊縄城さん。準備はよろしいでしょうか」
社長室エントランスにて、改めて問われる。
出発の合図だ。
大きく深呼吸し、私は気持ちを正した。
「はい。よろしくお願いします!」
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