第52話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が猫耳イケメンと昼食を共にした件
息を切らしながらカフェへ飛び込み、空腹の影響で目に付いたメニューを片っ端から注文して商品が出てくるまで待機していると、意外な人物から声を掛けられた。
「お疲れ」
「あっ、種狛さん。お疲れ様です」
たっぷりのホイップクリームが乗ったウィンナ・コーヒーと、チーズがとろけた熱々のトーストを並べたトレーを持って、涼しげな顔で立つ種狛さんがいた。
焦茶色の耳をピンと立て、綺麗に仕立てたツイードジャケットとサスペンダーがとても様になっている。
「珍しいですね、こんな時間に社内で会うの。今日は取材とか無いんですか?」
「『神在月』だからな。社内の主な神々や精霊も皆出張でいないし、今月ほぼ休みみたいなもんだ」
「神在月……ですか?」
「なんだよ。知らないのか? まぁ、普通のニンゲンなら当たり前か……あ、いや、今のは……っ、別にニンゲンを馬鹿にしてる訳じゃないからなっ!」
種狛さんが精一杯釈明しようと気を遣ってくれているのが分かり、微笑ましくなる。
「分かってますよ。そんな力一杯否定しなくても。
あの、良かったらお昼ご一緒しても良いですか?」
「は?」
「あ……おひとりでゆっくり過ごしたいですよね。
わがまま言ってしまいました。すみません」
困らせてしまった気がして、会釈をして立ち去ろうとすると、種狛さんが焦った声色で呼び止めた。
「おい、待てって! まだ、返事してないだろうが」
「そうですよね。勝手にすみません」
「いちいち謝んなよ、ったく……急だったから少し、驚いただけだ。別に構わない」
「本当ですか。良かった! ありがとうございます」
「たかが飯ぐらいで……変なやつ」
ぷいっ、とそっぽを向いて耳を伏せているいつもの種狛さんを見て、少しずつ私に対し歩み寄ってくれている姿勢を思うと何となく温かい気持ちになり、嬉しくなった。
* * *
「端的に言うと、この月は人間界に神々や精霊が降り立ち、全体会議や現地監査などを徹底して行う取り決めがあるんだ。
思兼部長の担当箇所は各地に点在してるだろうから、伊縄城みたいな秘書的な奴がいた方が行程上助かるんじゃないか」
「なるほど……それで」
″短期出張″に同行をお願いされたのか。
仕事の出来る有能な思兼さんの事だから、相当量回る箇所がありそうだ。
「おれも月の後半に嶽平部長の護衛で人間界へ行脚する予定だ。あとは、確か場所は分からないが役職者クラスも一通りローテーションで出張するらしいから……とりあえず誰かしらと人間界で会うんじゃないか?」
「じゃあ、八木羽屋さんや衣吹戸課長達も、人間界に行くんですね」
「多分な。慌ただしい月だから、毎年この時期は皆忙殺されてるんだよ」
しみじみとコーヒーを飲み、力説する種狛さん。
「八百万祭も終わって大変だけど、その……頑張れよ。おれも出来るだけ、手伝ってやってもいいし」
「ありがとうございます! 種狛さんも人間界へ行かれるのであれば、どこかで会えるといいですね。
お互い、故郷ですし」
「ぶっ!……っかやろ……ゴホッ」
飲んでいたコーヒーが咽せたらしく、ゴホゴホと咳き込む種狛さんに、変な事を言ってしまったのかと慌てて声を掛ける。
「えっ!? 私何か変な事言っちゃいましたか?」
「はぁ、っとに……突然そういうベタな事言うなよ……調子狂う」
「ごっ、ごめんなさい。私……っ」
《びしっ》
「いたっ!?」
目にも留まらぬ速さでデコピンされ、びっくりしておでこに手を当てると、涙目の種狛さんと真っ直ぐに見つめ合った。やけに真剣な眼差しで凝視する種狛さんに、激しく鼓動が高鳴る。
「謝らなくていいっつの。これ以上は……本当に、その……また、やらかしそうだから、やめてくれ……」
後半小声でボソボソと呟く種狛さんの声が聞き取れなかったが、とりあえず怒ってないらしい。
「わっ、分かりました……? 色々教えてくださりありがとうございます。あ、もうこんな時間……!
この後思兼さんと打ち合わせがありますので、この辺で失礼します!」
「ああ。……またな」
ドタバタと片付け、その場を後にした私は大急ぎで会議室へと向かった。
まだ、何か言いたげな熱視線を送る、種狛さんに気付かずに。
「相変わらず、……鈍感な奴」
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段々と優しくなっていく種狛さんを書くのは楽しいです(^^)
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