第48話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達に飲み会に誘われた件・その2
オフィスタワーを抜けて地上へと到着した私達は、御影さんに案内され極彩色のネオンが鮮やかに浮かぶオリエンタルな区画へと足を運んだ。
道ゆく風景や客層が、私の世界でいうところの″歓楽街″に似ている。
普段タワーから出ることはないため、まるっきり正反対の空気に圧倒され、物珍しさに目が離せない。
「賑わってますね……」
「この時間は書き入れ時だからな。こっちだ、はぐれんなよ」
スイスイと御影さんが前方に進んでいく。
慌てて先へ向かおうとした際、暗がりでつまづき掛けた。
「っ!!」
背後にいた種狛さんに力強く腕を掴まれ、どうにか体勢を立て直せた。
暗くて良く見え難いが、すぐ近くに種狛さんの体温を感じ、不思議な安心感に包まれる。
「全く……危ないな。この辺りは道が舗装されてないから、気を付けろ」
「す、すみませ……」
振り返ると、僅かな明かりに照らされた種狛さんの瞳孔が瑞々しい満月のように丸くなるのが見えた。
綺麗だ。
社長が一目惚れするのも分かる気がする。
何故か見つめ合ってしまい、種狛さんの方が耐えきれなくなり小言をぼやきだした。
「なんだよ。ジロジロ見て。何かついてるか?」
「えっ!? えっと……」
「おらー! 何ボーッとしてんだ、先行くぞ!」
先頭の御影さんからお叱りを受け、急いで後を追おうとした瞬間。
ぎゅ、と手が温かくなった。
「店着くまで掴んでろ。……おれ、夜目利くし」
優しい。
あの、種狛さんが。
(むしろ、ここまで優しいと、変な方向でドキドキしてしまう……)
いくら私に対して気を遣っているとはいえ、種狛さんは嫌いな女に触るのはイヤではないのだろうか。
逆に無理をさせているのではと、恐縮してしまう。
顔も何も見えない暗闇の中。
手のひらから伝わる体温だけが、やけにリアルだ。
「ありがとうございます……」
「…………別に」
無下に振り解けないまま、私と種狛さんは夜道を一歩ずつ進み続けた。
* * *
「いらっしゃいませー☆ あらっ、アキじゃない。久しぶりね〜」
紺色の暖簾を掻き分け、店内に入ると黒のタンクトップの胸元から溢れんばかりの爆乳を揺らしながら、大きなリボンを結んだポニーテールの女子が元気良く声を掛けてきた。
ジョッキを両手に持ち、慌ただしく運んでいる。
「よう、みつは。予約してねーけど、三名。いけるか?」
「週末だから、満席なのよねー。外の席でも良いかしら? 今夜は月が綺麗だし、星見酒もおススメよー☆」
「飲めりゃ何でも良い。んじゃあ、テキトーにやってっから、よろしく」
「はぁーい☆ あらん? そこにいるの、ヤヨイちゃんじゃないの〜〜っ?!」
私の背後に隠れるようにいた種狛さんが、ビクッと耳を震わせる。
「きゃあ〜! お耳もっふもふ☆ ねぇねぇしっぽも触らせてよぉ! あぁんっ、なんで逃げちゃうのぉ〜〜!?」
「やめろっつの! くっそ、だからヤなんだよ!
ここに来んの!!」
そういえば、種狛さんの尻尾を見た記憶がない。
興味本位で見たい気がしないでもなかったが、みつはさんにズボンを無理矢理捲られてる姿を見てしまい、すぐに目を逸らした。
「アイツ、なんかしんねーけど異様に猫好きなんだよな。まだ時間かかりそうだし、さっさと行こうぜ」
「えっ、種狛さん置き去りにして良いんですか?」
「なんとかなるだろ。女相手だし、手加減するんじゃねーの」
「いえ、みつはさんにじゃなくて、主に種狛さんが厳しそうなんですけど……」
遠目からでもすでに腕っ節で負けている。
何者なんだ、彼女は。
「大丈夫大丈夫。好きな子にはイジワルしちゃうってヤツよ。ほら、詰まってるから先行け、先」
後ろからグイグイと押され、通路の先へ強引に移動させられる。
店の奥に進むと、木のテーブルが無造作に置かれた中庭に出た。ここだけ人気はなく、貸切のような自由さを感じる。
「椅子が無ぇ……まぁ、元々作るの頼まれてたし、適当にこさえるか」
御影さんが手元にあった石を持つと、ドロリとした液状の物体に変化する。
重力に逆らうように揺らめいた後、手から眩い光が溢れ出す。そこに、いくつもの石を溶かしこみ、一メートル級の大きな球が完成した。
小さな閃光が一瞬弾けると、石の集合体は立派な椅子へと変化していた。
「い、椅子になってます!」
「おう。久々にやったら疲れたわ。お前のも作ったら終わりでいいや。種狛はそのへんの切り株で良いだろ」
サクサクと手際良く作業する御影さん。
能力を使用した御影さんを初めて見たが、地の精霊らしい、意外にも真面目な仕事ぶりだった。
「ん。好きなもん、頼みな」
ポイっとテーブルにメニューを出され、お腹が空いていたことを今更思い出す。
「言っとくけど、割り勘だぜ」
「分かってますっ!」
にやにやと楽しそうにこちらを見る御影さんに、速攻で突っ込んでしまう。
(今夜は、飲もう!)
星が瞬く夜空を見上げ、私はゆっくりとメニューを吟味することにした。
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