第46話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と共に祭を開催した件
「おはようございます!」
まだ太陽が昇らない早朝、思兼さんと合流した私はいつもの手段で送っていただき、開催場所である神立・八百万天浜公園の噴水広場前へと到着した。
すでにメンバー達は集合していたらしく、こちらに気付いた八木羽屋さんが手を振るのを確認する。
「おっはよ〜♪ あっ!!
早速シロちゃん法被来てるね〜……って!
ちょっ、いつもより露出度高めじゃない!?
どゆこと?! シロちゃん、そっち系もめっちゃかわいーんだけど!」
「や、八木羽屋さん、あまり言わないでください」
サラリと挨拶を済ます予定が、しっかり注目されてしまい恥ずかしくなる。
着てみて気付いたのだが、この衣装。
かなり際どいデザインなのだ。
上衣はまだどうにか凌げたが、問題は下衣。
藍色のショートパンツは私の太腿のサイズに合っていないせいでぴっちり張り付いた状態なのである。
法被との対比により主張は幾分か少なめであるが、普段出さない生脚部分が大胆に出てしまっているので、私はすでに気が気ではなかった。
(早く夜になってほしい……)
「おー、寝坊しなかったか。感心感心」
「御影だってついさっき来たばかりだろ」
「皆、集合時刻ちょうどだな。後は、衣吹戸課長のみか」
御影さん、種狛さん、久久野さんが口々に話し出す。
揃いの衣装に鉢巻やバンダナ等の小物で各々の個性に合わせて上手く着こなしており、皆良く似合っていた。
要するに、かっこいいの一点に尽きる。
「衣吹戸課長が遅刻とは珍しいですね」
「いや、イブキングはもう来てるよ。オレ見たもん。ほら、あの木の影んとこ」
「えっ?」
一斉に八木羽屋さんが指を差した方向を見ると、気付かれた驚きなのか木が一瞬激しく揺れた。
何故、こちらに来ないのだろう。
「衣吹戸課長ーっ。 どうしましたー?」
大声で呼びかけてみるも、一向にやってこない。
「シロちゃん、ごめん。ちょっと行ってみてくれる?
オレ、大体理由分かってるからさ。多分シロちゃんじゃないと来ない気がする」
「えっ、どういう事ですか?」
「いーからいーから♪ ほらほら、早く行かないとイブキングこのまま逃げちゃうよ〜!」
「へ、あっ、はい!?」
八木羽屋さんに背中を押され、勢いよく飛び出す。
私はよく分からないまま、衣吹戸課長の元へととりあえず走って向かった。
* * *
「衣吹戸課長ーっ! 出てきてくださーい!」
課長が居るであろう木々の付近に到着し、呼び掛けてみるが、返事がない。
そのまま進むと、しっかり肩がはみ出て隠れ切れていない大木を発見した。
あの大柄な体格、間違いない。
更に近付き、直接声を掛けた。
「衣吹戸課長、どうされましたか……」
「……お、おはよう。……伊縄城さん」
「え……? えっ?」
目の前にいた方は、想像と全く違っていた。
法被を着用し、ぎこちなく話す声は衣吹戸課長そのものであったが、あのトレードマークのボサボサ頭が綺麗さっぱり消えている。
代わりに凛々しい眉と白い額が印象的な優しい顔立ちのイケメンが、頬を赤らめながらこちらを見つめている。
私が食い入るように凝視していたので痺れを切らした課長がおずおずと話し出した。
「……八木羽屋くんに、切ってもらったんだ。
これなら、誰にもバレずにステージで盛り上がれるよ、って」
気恥ずかしい気持ちを抑えながら、精一杯答える衣吹戸課長。
「変、だよね。一時間前ぐらいに到着したんだけど、その……自信が、なくて」
「ぜ!全然、変じゃないです!
むしろ、その方が私、断然好きですよ。
イメチェン、大成功ですね!」
「ほっ、本当に……? ありがとう。
そう言ってもらえて、……嬉しい」
困り眉になりながら、分かりやすく照れている衣吹戸課長が素直で可愛い。
これで私より五個も年上なのだから納得がいかない。
「向こうで皆さんお待ちかねですよ。
行きましょう! 八百万祭へ!」
「……うん。……行こう!」
私は衣吹戸課長の背中を押して、皆の処へ戻った。
* * *
つつがなく昼の部が終わり、祭の本番である夜の部が開幕した。
黄昏時に差し掛かるとお囃子が園内に響き渡り、子供の頃に感じた絵も言われぬ懐かしさが脳裏に蘇る。
委員メンバー達は引き続き持ち場の業務に勤しんでおり、私も会場内の見回りを行っていた。
(す、すごい、気を抜いたら、飲まれる……っ)
老若男女の見物客が縦横無尽に闊歩し、実に圧巻の賑わいである。研修中に似たような状況を体験しておいて良かったかもしれない。
橙の灯が夜店の群れを包み、束となって果てなく光の軌道が続いていく。
店から漂う、香ばしく焼けた調味料の匂い。
ちりちりと柔らかく奏でる風鈴の音。
お面や水風船が並ぶ万彩の景色。
祭独特の空気が五感を刺激し、心地良い陶酔に溺れていく。私は歩行を止め、一時脇道に逸れてその光景を漠然と眺めていた。
「いたいた、シロちゃーん!」
「八木羽屋さん、皆さんも」
よく通る八木羽屋さんの声に振り向くと、委員メンバー全員が集結していた。
「そろそろステージ入りした方が良さそうです。
専用の衣装等準備がありますので。大都野さんから先程連絡がありました」
「えっ、そうなんですか! 分かりました!」
「諸々やるから来いってさ。頑張れ。
オレは戻って周辺の誘導やんねぇと、一気にパンクしちまうぜ。ありゃ」
「ありがとうございます!
御影さんも、お気をつけて!」
「おれも、ライブ映像を間近で撮らせてもらう。
嶽平部長にも配信の手伝いを頼んだから、……お、応援してるぞ」
種狛さんがカメラを携え、こちらに向けて撮影し出す。
照れた顔を慌てて隠しているらしい。
「私はVIP席から拝見する。全力で挑め」
「じゃあ、ぼくも準備しなきゃ、だよね。
……緊張する……な……」
ぶるぶると震える衣吹戸課長に、八木羽屋さんがいつもよりも穏やかな表情で肩を優しく小突いた。
「オレもおんなじ! みんなついてるし、楽しんだもん勝ちだからさ〜、こういう時は♪」
「そうですよ。新しい髪型、とても爽やかで衣吹戸課長にお似合いです。僕も、放送席から応援しています」
衣吹戸課長の目元がきらりと光る。
決意を秘めた、眼差しだ。
「よーし!! 気合入れるよ〜〜!
八百万祭、終盤戦もやるぞ――――!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
誰が言うでも無く円陣を組み、咆哮が轟いた。
ボルテージは一気に加速し、頭上高く、手と手を打ち合う。
六名分の情熱が共鳴した、夕闇の中。
高ぶる気持ちをバネにして、ステージへと赴いたのだった。
* * *
「伊縄城さ〜ん!!」
ステージ脇の控室エリアに向かうと、髪をアップにし艶やかな衣装に身を包んだ大都野さんが出迎えてくれた。
「わーっ、大都野さん、凄く綺麗……!」
普段の清楚な印象からガラリと変化し、濃桃と青のアイシャドウがドラマチックに煌めいている。
紅がきりりと引き締まり、祭映えしそうなメイクだ。
「ありがとうございます♪
さぁさぁ、お時間もあまり無いですので伊縄城さんのスタイリング担当しちゃいますね!
こちらへいらしてください♪」
「ふぇっ!? あっ、ちょっ……」
「男性方は和太鼓チームの皆さんが担当してますから大丈夫ですよ♪
ではでは、早速衣装の準備しちゃいますね〜」
私は物凄い手際の良さで大都野さんに着せ替えられ、色彩豊かなメイクを施された。
普段使った事のない色味だが、おしゃれのプロにより立体的な顔に仕上がっている。
絶妙な濃淡の付け方が大きなポイントだろう。
(誰、これ……! 自分じゃないみたい)
まだ信じられない自分の顔を鏡でまじまじと見ていると、突如ノックの音が聞こえた。
「やぁ。お祭り、楽しんでる?」
「しゃ、社長っ!?」
「天寺社長、お疲れ様です!」
つかつかとまっすぐこちらへ歩いてくると、私の顎に手をやり真正面から熱視線を送られる。
透視でもされているかの如くまじまじと見つめられ、段々居た堪れず顔を伏せた。
「……良いね。素顔も可憐だけど、思い切り化けられるのもそそられる。どちらも好きだな」
至近距離で妖しく微笑まれ、危うく変な感情を抱きそうになる。
「っ……! お、大都野さんのおかげです! からっ」
「そうなんだ? 上手だね。おや、大都野ちゃんはそろそろ出番ではないのかな?」
「本当ですね。教えて頂きありがとうございます。私、行ってきますね!」
「はい!! 頑張ってください!!」
大都野さんを送り出した後、社長がさらりととんでもない事を言い出した。
「ボクも、伊縄城ちゃんと一緒に出ちゃおうかな?」
「!?」
ククッと喉奥で笑った社長の表情は、とても満足げに見えた。
* * *
大都野さん達の演舞が終了し、場面転換の最中に帆見主任が和太鼓を抱えて戻って来た。
こめかみからポタポタと大粒の汗が流れ落ち、舞台の熱気が伝わってくる。
「あ!! 伊縄城さんじゃないっすか!
お疲れ様っす!!!!」
「おっ、お疲れ様です!」
相変わらずの大声量にも慣れて来たが、一仕事終えた後でもこれなのだから恐れ入る。
「演奏、傍から観てましたが、迫力があって凄かったです!」
「ありがとうございます!! ってか、伊縄城さん、舞台装置動かしてる謎の大物、知ってます?!」
「?」
「さっき突然、スモーク演出から出てきてすげービビってたら、めちゃくちゃクールな映像流してビカビカライト照らしてくれたんで、会場、かーなり沸いてました!!
でもなー、あんな目立つ奴、今まで見た事ないんすけど……ウチの会社にいましたっけ?」
「ほ、ほぉ〜、そんなに凄かったんですね」
「そりゃぁもう! みんな口々に言ってましたもん。
誰か分かんないけど、すっげーカッコいー! って」
(衣吹戸課長だろうな……凄い影響力だ)
何となく、衣吹戸課長の今後の為にも未だ伏せておいた方が良いような気がしたので、ここは敢えて流しておく事にした。
「あっあの、そういえば、ゆきさんからお聞きしました。お子さん、お誕生おめでとうございます」
「情報早いっすね!? すみません、わざわざありがとうございます!!」
顔を綻ばせ、ニカッと白い歯を見せて豪快に笑う帆見主任。
「また来年、夏になったら、ちび助にも立派なお祭り見せてやりたいっすね。アイツも見たがってたから、今度ぜひ、うちに来て話がてら色々構ってやってください!」
「はい! ぜひ……っ」
(あ、来年……って)
私は、″異世界″にいるのだろうか。
「伊縄城さーん!! 出番ですよ〜!!」
「は、はい! 今、行きます!」
小さな芽を見ないふりをした私は、ステージへ向かう通路へと急いだ。
* * *
ステージ中央部の地下、私は八木羽屋さんと合流した。
暗くて詳細はよく分からないが、何故だろう。
八木羽屋さんも舞台用にスタイリング済らしく、いつもの雰囲気とは大分違う。
アイドルのように華やかなオーラを放ち、目が眩むほど光り輝いている幻覚が見える。
「シロちゃーんっ! 準備オッケー?」
「や、八木羽屋さん〜、だっ、大丈夫、です」
「ありゃ、結構シロちゃんも緊張しいなんだね。
……こっちおいで」
八木羽屋さんが私を胸元に引き寄せると、大きな手で頭をさすってくれた。
温かい体温が伝わり、気持ちが楽になるのが分かる。
「すすすすみませんっ! 私……っ」
「気にしなくていーよ♪ はい、深呼吸〜〜っ」
八木羽屋さんの甘い香水の匂いが鼻を掠め、最早深呼吸したらその場で卒倒してしまう。
「あ、ありがとうございます! 行けますっ!!」
「よっしゃ! その意気その意気♪」
「八木羽屋ーっ、ボクも混ぜてよ。二人でイチャイチャして狡いぞー」
「ぅわっ!? しゃ、社長!! いつからいたんですか!?」
「ずっと伊縄城ちゃんの後ろにいたよ?
全く、どれだけ彼女しか見てないんだか」
「ごっ、誤解を招く事を言わないでくださいよ〜〜!」
あの飄々とした八木羽屋さんがこんなにも取り乱すなんてよっぽどだ。
「ボクも飛び入りで参加する事にしたのさ。
おや、カウントダウンが始まったようだね」
「うぉっ!! いつの間に!!」
外から観客達の声援が聞こえてくる。
「……出番です!! 行きましょう!」
《バァンッッ!!!!》
地上へ発射される昇降装置に飛び乗り、私達はステージのど真ん中へと登場する事になったのだった。
* * *
《うぉぉぉぉぉぉ!!!!》
予想以上の群衆がステージ前を占拠している。
物凄い熱量に圧され、息を飲んだ。
『八百万祭最終ステージ、いよいよ開演です。
皆様、今宵もどうか、最後までお付き合いくださいますと幸いです』
(このアナウンス……思兼さんの声だ)
舞台袖から専用の拡声器型マイクを渡され、挨拶をする……かと思えば、急に照明が落ち、辺り一面闇の中になってしまった。
つんつんと八木羽屋さんが私を小突く。
「大丈夫だよ♪ イブキングの演出みたいだね♪」
「そうなんですか……真っ暗で見えない……」
「なるほどね。中々面白い」
遠くから徐々に電子音が流れ始めると、スピーカーの重低音が心臓とシンクロするように重く響いてくる。
蛍が飛び交う映像が流れ出し、大地から淡い緑の光がステージ全体を包み出した。
ステージの中央へとスクリーンのカメラが切り替わり、私達がアップで映される。
「みんなーっ!! 最高潮にアゲてるか〜〜!?」
《うぉぉぉぉぉぉ!!!!》
八木羽屋さんのコール&レスポンスが始まる。
全く怯まず、のびのびと曲のビートに合わせて手拍子を鳴らし出した。
「今夜は特別ゲストッ!! 我らが守護神、天寺社長と、かんわいーアシスタントの伊縄城えむこちゃんがこのステージを盛り上げちゃうよ〜〜〜〜っ!!」
「いえーい」
「よ、よろしくお願いします!!」
天寺社長に突然強い力で腕を組まれ、固まる私。
(もう、どうにでもなれだ……!)
カラフルなライトが四方八方に飛ぶと、幻想的な曲が流れ出し突如転調してリズミカルなダンスミュージックへと変化していった。
観客達は熱狂し、私達もそれに応えるように躍動する。
「じゃあ。今夜は特別なの、お見舞いしちゃおうかな」
天寺社長がぺろ、と舌を出すと、手のひらにユラユラと漂う光球を生み出してゆく。
ポンッ、ポンッと立て続けに天へと還せば、美しい大輪の花が夜空に描かれ、私は大きく目を見張った。
「綺麗……っ」
「八百万の世界に――――幸あれ!」
《うぉああああああああ!!!!!!》
はち切れんばかりの大歓声。
何度も何度も、打ち上がる花火。
いつまでも、祭は終わらないかのように。
その時は、長く永く続いていた。
「もーう、社長ってば、結局全部持ってっちゃうもんなぁ〜」
「良いじゃないですか。このまま、観ていたいです。
……私も」
ステージ上ですっかり見物していた私達は、しばらく空を彩る花火を見送っていたのだった。
* * *
数日後、祭の余韻が醒めやらずまだふわふわとした気持ちで業務に身が入らない私は、カフェスペースで一息ついていた。
ここしばらく本腰を入れて頑張ったという事で、本日は自分へのご褒美に″スペシャル・チートデー″を敢行した。
手元にあったフルーツサンドを一口かじり、幸せな甘みを噛み締める。
「んんーっ! 最高!」
カスタードクリームと生クリームが絶妙に溶け合い、遺伝子レベルで脳内が喜んでいるのが分かる。
一世一代の大仕事が終わった後の甘いものは格別だ。
《ピピピッ》
「あれ、大都野さんからだ」
チャットを開き、ふらりと、軽い目眩が起こる。
軽い気持ちで読み始めたのが不味かった。
「…………」
手で頭を抱え、ぐるぐると様々な感情がない混ぜになり、急激に口の渇きを覚えた。
急いで水を一気に飲み干すが、葛藤は止まらない。
『伊縄城さん! 聞いてください!
私、檜川さんと……お付き合いする事になりました!!
色々ありましたので、また後ほどご報告させてください。
取り急ぎのご連絡、失礼いたしました』
「良い、なぁ……」
嬉しいはずなのに、胸がザワザワするのは今回が初めてではない。
お祝いしたい気持ちと、羨ましい気持ち。
ここ最近では必ずと言っていいほど後者の方が強くなってしまう自分を殴りつけたい。
遠く、散り散りになった鱗雲を見つめ、知らず知らずの内に季節は秋へと移り変わっていた事を実感する。
(あと、残り約半年しかない……婚約どころか、彼氏も見つけてないや…………)
イケメン達とワイワイ現を抜かしていたら、この有様だ。婚活の実績としては、まだ何も手付かずのままである。
急ピッチで巻かなければならない。
憂鬱な想いと強い焦燥感に駆られながら、私は残りのデザートを無心に平らげたのだった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
ブクマも本当にいつも嬉しいです!
第二章 最終話になります。
お楽しみいただけましたら、幸いです(^^)
次回第三章は10月頃からの連載を予定しています。
引き続きよろしくお願いします!
少しでも心に留まりましたら、下部の " ☆☆☆☆☆ " より評価をお願いいたします。
大変励みになりますので、ご協力のほどよろしくお願いします。




