第45話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と祭の最終局面に挑んだ件・その3
八百万祭 前夜。
あれから委員会も佳境を迎え、全員で最終的な打ち合わせを行った。研修の成果なのか、メンバー同士のやり取りが円滑になった事で、一層連携が強固なものとなった。
有志の方々とも綿密な情報共有を通じてより良い方向性を模索し、祭本番に向けて想像以上にあらゆる場面で助けていただいた。
また、祭に関わる大肩の搬入物も目処がつき、死ぬ気でまとめたリストを思兼さん達とチェックした結果、滞りなく完了する事が出来た。
以下に、各担当の所感を記載しておこう。
【夜店部門】
新メニューが充実し、例年と比較すると出店数がプラス10%増加。有志の教育にも余念が無く、作業効率も上々であり早くも売上に期待大。
【広報局】
ネット媒体を積極的に活用し、爆発的な注目を浴びて観客動員数に大きな貢献が見込まれている。すでに何社かの記者団からも取材に来訪、前評判も高い。
【財務局】
徹底的なコスト削減を目指し、昨年比より驚異のマイナス20%カットに成功。他部門の予算も厳格な管理によりお金の流れを可視化。社員の意識付けに注力。
【会場設営部門】
毎年近隣からのクレームが多い部門だが、先々の根回しが功を奏し、工事も順調に進行。日程を大幅に巻きつつもクオリティの高いステージ設備が完成した。
【インフラ整備部門】
衣吹戸課長の采配により、通信速度や安定性の確保、負荷軽減に取り組む。体制は盤石であり全てテスト済み。当日のトラブル等にも神霊情報管理課スタッフ総出で対応に当たる。
【事務局】
私のみならず、大都野さん始めとする総務部、秘書室女性陣の叡智のおかげで恐ろしい速さで全て処理済み。というより、他の方々が有能過ぎて私の働きなど無に等しいのが少し悲しい。
もちろん、これら全部門を統括している思兼さんは流石としか言いようがない仕事ぶりだった。
大きなミス等なく皆が信頼しあって業務に邁進出来たのも、陰ながら思兼さんが水面下で調整してくださったからだろう。
以上、全メンバー・スタッフが妥協せずにやり切った。
「はぁぁぁ〜〜〜〜……」
迫り来る緊張と興奮に押し潰されそうになりながら、私はデスクに突っ伏していた。
(明日は朝四時に起きて、速攻で法被に着替えて、思兼さんに連絡した後皆さんと合流して……)
やるべき事を列挙しながら、自分の役割について振り返る。
一度ここで頭の中を整理しておかないと、明日の行程中に私は必ずどこかでつまづくだろう。
ただでさえ脳内のキャパシティが少ない上に、根っからのテンパり屋だ。
確認はし過ぎるぐらいが私にはちょうど良い。
何となくソワソワしてしまい落ち着かなくなってきてしまった私は、気分転換に外へ出る事にした。
* * *
「!」
「伊縄城さん? まだお帰りではなかったのですか」
扉を開けたと同時に、ちょうど神霊人事部から出てきた思兼さんとお互いに顔を見合わせた。
「明日のスケジュールを確認していたら、いつの間にかこんな時間になっていました」
「そうでしたか。遅くまでお疲れ様です。
僕はこれから休憩をとる予定ですが、伊縄城さんもよろしければいかがですか?」
「あっ、私もです! 行きます!」
私達はフロア突き当たりの一角にある休憩所へ向かう事になった。
夜の廊下を横並びで歩いていると、窓際に自販機と長椅子がまばらに設置された簡素な場所へと到着する。
「何がよろしいですか?」
「あ、私、自分で払いますよ!」
「せっかくですから、ぜひ奢らせてください」
「えぇっ、……お気遣い頂いてすみません。でしたら、……サイダーをお願いしても良いでしょうか」
「承知しました。お掛けになっていてください」
「ありがとうございます!」
お言葉に甘えて先に長椅子に座らせてもらった私は、気付けば横から無意識のうちに思兼さんの様子を観察していた。
普段、隙の無い装いの思兼さんにしてはやや乱れたシャツや髪の加減からして、明らかに″疲労″の度合いが色濃く出ている。
だが、それがまた逆に良い。
疲れて憂いのある姿ですらも半端では無い色気を纏わせ、購入した飲料を手に取るその仕草に、勝手にドキドキしてしまう。
イケメンはどんな状況下でも輝いて見えるのだから、全くもって羨ましい。
「お待たせしました。どうぞ」
自然な流れで思兼さんが隣に座り、私にサイダーを差し出してくれた。
「ありがとう、ございますっ」
入社当初はイケメンが近くにいるだけでしょっちゅうパニックを起こしていた私だったが、あの頃に比べたらかなりの成長を感じる。
今では砂糖菓子のように甘いひとときがとても心地良い。気を抜くと惚けてしまう自分を誤魔化しながら、ゴクゴクとサイダーを流し入れた。
「ついに、明日ですね。八木羽屋の思い付きでステージ出演企画が決定しましたが、……伊縄城さん、本当にこのまま進めて問題ありませんか?
あの場ではご承諾されていたので、何も言いませんでしたが。担当業務外の仕事を増やしてしまい、申し訳ありません。遠慮なさらず、負担でしたら今からでも無理せずに断ってくださいね」
件の『VJ』の流れから何故か出演する事が決まってしまい、結局委員会で正式に承認された。
八木羽屋さんはともかく、私に至ってはただの素人がどういう立ち位置で出るのか未だに解せないが、承認されてしまったのだからやるしかない。
プログラム上ではオールアドリブで構わないらしく、自由に登場して盛り上げれば良いそうだ。
お祭りならではの寛大さに感謝しかない。
「……初めは辞退しようと考えてました。
でも、皆さんとお祭りを創り上げていくうちに、逆に貴重な機会を不意にするのは勿体無いんじゃないかなって」
自販機のネオンが暗い廊下を照らし、二つ並んだ影が床に浮かんでいる。
サイダーのラベルを見つめながら、そのまま話を続けた。
「私、全然スキルも無いですし、上手い事も言えないですが……思兼さんと以前、今みたいな時間帯の時にお話した事を、実現したいんです。
この委員会メンバーで行うお祭りは、とても大切なものだから」
泣いても笑っても、今年の夏のお祭りはたった一度きり。このメンバーが集結し、開催する事は最初で最後だ。
ならば、『この時間を存分に楽しむ』事に、全振りしたい。
どんな逆境も、この言葉の通りに、ここまで乗り越えてきたのだ。
八木羽屋さんも話していたように、私も、かけがえのない仲間達と切磋琢磨し、このお祭りを完走したい。
思兼さんがじっとこちらを見つめた後、優しく微笑んだ。
「僕の話を覚えていてくださって光栄です。
承知しました。伊縄城さんらしくて、とても良いお考えですね。僕も祭を盛大に締め括れるよう、委員長として尽力いたします」
「ありがとうございます! 思兼さん」
祭直前に思兼さんと話をしたおかげで、早る気持ちが安定した気がした。
しばらく私達は夜の休憩所で和やかに歓談を楽しんだのだった。
* * *
《ピピピッ》
就寝前、髪を乾かして戻ってくるとIDバングルのランプが点灯している事に気付いた。
「ゆきさんっ!!」
私はチャット画面を開き、急いで文面を確認した。
『えむこさん、お久しぶりです。お元気でしたか?
夜分に突然連絡してしまって、ごめんなさい!
昨日、元気な男の子が誕生しました。
よろしければ是非、会いに来てくださいね!
今年の八百万祭、凄く行きたかったです!
えむこさんの勇姿をお見かけ出来なくて非常に残念ですが、旦那や兄から後日談を聞くのを楽しみにしています。
子どもと一緒にささやかですが応援していますので、思いっきりはっちゃけて来てくださいね〜!!』
「良かった……ゆきさんのお子さん、無事に産まれたんだ……」
吉報を聞き、胸を撫で下ろす。
(思兼さんや帆見主任も、きっと凄く喜んでいるだろうな)
今度、大都野さんも誘って出産祝いの品を用意しよう。これまでに起きた、たくさんのお土産話も忘れてはならない。
(明日は、いよいよ八百万祭……
全てをぶつけ、はっちゃけよう!)
ゆきさんからの嬉しいエールを胸に、ごちゃ混ぜの感情を鎮めながら返信をした私は、いつもよりも少し早めに床に就いたのだった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
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お祭りもいよいよ直前となりました。
次回、第二章 最終話を迎えます。
今後とも、主人公はじめ登場キャラを温かく見守りくださいますと幸いです(^^)
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