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第41話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と日帰り社員研修をした件・その7

「おっ! シロちゃんにねこまる、帰ってき……

 って、あァ――――――!!!!」

「!?」


 ミーティングルームに戻ると、八木羽屋(やぎはや)さんと久久野(くくの)主任が椅子に座り休憩していた最中だったようだが、突然の八木羽屋さんの雄叫びに何事かと固まる。


「シロちゃ〜ん! 何そのカッコ!

 えっ、めっっっっちゃかわい〜〜じゃん!!」

「あ、こ、コレですか??」


 八木羽屋さんが物凄い勢いで駆け寄り、私の周りをくるくる移動して事細かくチェックしている。

 まさかこんな反応をされるとは思わず、そわそわと落ち着きなく立ち尽くしていた。


「制服も似合ってるけど、そのワンピース、シロちゃんに激似合っててオレ、すっげー好きかも!

 なんか、女子の一生懸命おめかししてる姿見ちゃうとさー、研修って事忘れちゃうよね〜。

 ひと夏のメモリーって感じー♪」

「あ、は、はい……?」

「困っているようだが」

「さっき会った時、誰だか分からなかった。

 着替えるぐらい汗だくだったのか」

「も〜、ねこまるってばホント野暮だねぇ。

 乙女の詮索するなんて、モテないぞー?」

「おれは別に……」

「そろそろ座ったらどうだ。日中練り歩いて疲れただろう」

「ありがとうございます、久久野主任」


 何故か真っ赤になる種狛(たねこま)さんをスルーし、久久野主任が手元にあったまだ封の開いていない炭酸水の瓶を手渡してくれた。

 私は御礼を言い、近場にある椅子へと腰掛け、一息つく。

 座った瞬間、安堵と同時にじんわりと足から痺れるような疲労感が伝わってきた。


(ふぅ……今夜はよく眠れそうだな)


 炎天下を歩いたり雨に打たれたりと確かに今日は中々ハードな一日だった気がする。

 私は頂いた炭酸水を開け、半分ほど一気に飲み干した。

 暑さで鈍くなった頭が徐々に冷え、倦怠感すら心地良い。


 そうこうしている内に、種狛さんが備え付けの冷蔵庫から水を取り出し、不満げな顔で口を開いた。


「……八木羽屋副料理長」

「ん? どーしたよ、ねこまる。

 もしかしてもうお腹空いちゃった?」

「前々からお願いしていたと思いますが。

 割と切実に()()()呼んでくださいませんか。裏でちらほらこのあだ名使われてるらしくて……いい加減嫌なんです」

「え〜〜〜〜っ! ″ねこまる″良いじゃーん!

 オレ、みんなのあだ名の中でもトップクラスで気に入ってんだけどなー。

 シロちゃんも好きだよねー?」

「えっと……はい、まぁ……」

「おい、適当な事を言うな。

 今の間、絶対思ってないだろ!」


 種狛さんがしかめっ面をしていると、まさかの久久野主任から冷静に切り出された。


「種狛はまだ良いだろう。

 ″くくのん″に比べたら。

 諦めろ。順応した方が早い」

「ぐぐ…………」


(確かに……)


 心の中で久久野主任に同意する。


「くくのんオットコ前〜〜〜〜♪ 

 浸透してるって事は、受け入れられてる訳じゃん?

 オレがめっちゃ考え抜いた、『呼びやすい・親しみやすい・可愛い』の三拍子揃い踏みなんだからさ〜!

 お偉いさんから怒られない限り変えないし、なんならこのまま布教しちゃうもんね〜♪」

「なっ……これ以上広めないでください!」

「代わりにねこまるもオレの事好きに呼んでいーから♪ そんじゃ、この話はこれでおしまーい♪」


 言うや否や八木羽屋さんが種狛さんの肩を両手でガッチリ掴むと、にこやかに話し始めた。


「ふっふっふ〜、ねこまるくん。

 キミはオレに歯向かうくらい元気そうだから、宴用のごはん準備すんの、手伝ってもらっちゃおーかな〜? ちょうど男手が必要だったから助かる〜♪」

「は? おれはまだ休んで……っうわっ!!

 手が、ちょっ……熱い! 熱いですから!」


 逃げられない種狛さんを尻目に、八木羽屋さんはそのまま話を続ける。


「あ、くくのーん。ちょっちお願い」

「何だ?」

「ごめん、さっき話してた()()、買ってきてもらえない?

 オモッチから言われてたのに、作業してたらど忘れしちゃってさー。

 シロちゃんも、せっかくだし一緒に行って来なよ!

(よい)(いち)』が始まってるはずだから、賑やかだよ♪」

「了承した。伊縄城(いなわしろ)、行くぞ」

「は、はい!行ってきます!」

「行ってらっしゃーい♪」


 まだ抵抗している種狛さんを置いて、久久野主任と私は買い出しに向かった。





 * * *





 研修施設を抜け公園入口まで戻ると、奥の道路沿いからガヤガヤと活気のある音が聞こえてきた。

 先程までとは打って変わり、大勢の観光客が私達の目の前を行き来している。

 橙色の提灯が夕闇を照らし、辺り一面ノスタルジックな雰囲気が漂う。


「すごいお客さんの数ですね」

「そうだな。ただ、祭本番はこれよりも桁違いの見物客が来場するはずだ」

「これよりも?!」

「そろそろ出るぞ。留まっていると歩行の妨げになる。伊縄城」

「はい?」

「私の服の裾を掴んでいろ。

 君はフラフラ歩くから、確実に(はぐ)れる気がしてならない」

「う……そうですね、はい……」


 正論なのでぐうの音も出ず、私は素直に従う事にした。


「……失礼します」


 恐る恐る手を差し出す。

 久久野主任の広い背中が間近に見え、どう距離を取っていいか分からずやきもきしてしまう。


 綺麗に仕立てたであろう、上質な濃紺のシャツに触れ、裾を握った。

 私服も変わらず久久野主任らしい、隙の無い品の良さが伺える。


 しなやかな銀の髪が夜店の明かりに染まると、宵闇の中で黄金色の輪郭が浮かび、さらさらと夜風になびく儚げな麦の穂のようだった。


 《ドンッ!》


 進むにつれ人混みは勢いを増し、私は押された反動で久久野主任にぶつかってしまった。


「あ!!」


 背中に胸が当たってしまい、慌てて退こうとするがよろけてしまう。


「ふぁっ」


 久久野主任が上手く方向転換し、腰に手を添えて私を支えてくれた。

 あと一歩遅ければ地面にすっ転んでいただろう。


 早速迷惑をかけてしまい、怒られるのを覚悟で縮こまっていると、有無を言わさず腕を握られ心臓が大きく跳ねた。

 そのまま、店側の端に連れられ顔を覗き込まれる。


「怪我はないか」

「えっ?! あ、はい! 

 すみません、ぶつかってしまって」

「いや、問題ない。……迂闊だった。

 あまり間隔を空けると危険だ。

 もっと此方に来い」


 久久野主任が腕を引き寄せると、体温が感じる程、一気に急接近する。

 こんなに密着した状態で行動し、嫌ではないのだろうかと余計な気を回してしまうが、私の動揺などお構いなしに久久野主任のペースでスイスイと前進していく。


 一緒の速度で歩いているのに不思議と辛くないのは、私の歩幅に合わせてくれているらしく、久久野主任の優しさを感じた。


 雑踏を掻き分けていくうちに、気付けば目的の店へと辿り着いたのだった。





 * * *





「らっしゃい!」


 ねじり鉢巻をした威勢の良い親父さんが顔を出す。

 あまりの声量に私が慄いていると、久久野主任は普段通り冷静に挨拶をした。


「お世話になっております。八百万の久久野です。

 思兼(おもかね)からの用で伺いました」

「久久野のあんちゃん! 昨年ぶりだなぁ。

 しばらく品切れだったんだが、ついさっきお目当てのが入荷したんで良かったよ。

 今用意すっから、少し待っててな!」

「すみません。よろしくお願いします」


 キョロキョロと店構えを見ていた私は、ずっと気になっていた事について質問をした。


「久久野主任、ここは……」


「昔から付き合いのある花火問屋だ。

 八百万祭で使用するにあたり毎年発注をしているが、今夜は別件で来た」

「花火屋さんですか……!」


 ちょうど花火屋の親父さんが大袋を手にし、戻って来る。


「ハイハイ、これね! 重いから気ィつけて」

「ありがとうございます」


 久久野主任がポケットから封筒を取り出すと、親父さんに渡した。


「こちらこそまいどっ! 

 おっと、そこのお嬢さん、あんまり見ない顔だね。

 花火は好きかい?」

「あ、はい! 好きですっ!」


 急に話を振られ、ドギマギしながら答えると親父さんがカウンターに置かれた箱から一つ、赤い球を取ると私に差し出した。


「じゃ〜、これ。いつも八百万さんには御贔屓にしてもらってるからね、()()()あげちゃう! 今夜は雲が無いから、綺麗に見えるんじゃねぇかなぁ」

「あ、ありがとうございます!」

「しっかし、カタブツの久久野のあんちゃんがついに彼女同伴で来るとはなぁ。おっちゃん、驚いちまったよ。夜のデート、しっぽり楽しんできな!」

「!」

「……連れを待たせてますので失礼します。では」


 久久野主任が丁寧に礼をし、私も慌ててお辞儀をして店を後にした。





 * * *





 帰り道、私達は何となく無言のまま歩き、公園近くまで戻ってきてしまった。

 街灯が仄暗い夜道を照らし、芝生を踏む音だけが響く。


(親父さん……あんな事、冗談でも久久野主任に言っちゃまずいよ……どう見たって釣り合ってないでしょ……)


 私自身はむしろ光栄なのだが、久久野主任からしたら内心カップル扱いされた事に対し気分を害しているのではとヒヤヒヤしていた。


 申し訳なさでいっぱいになった私は、横を歩く久久野主任の様子を見ようとした際、唐突に声をかけてきたので逆に驚く羽目になった。


「先程は、すまない。

 元々店主はああいった性格でな。気にしないでくれ」

「いえ、そんな。私は全然……!」


 久久野主任も同じ事を考えていたらしく、気恥ずかしそうに眼鏡のフレームを直した。


「そういえば、言い忘れていたが」

「はい?」

「私も似合っていると……思う。君らしくて」


 主語が無いのですぐに反応出来なかったが、遅れて全てを理解した私は顔が赤々と染まったのを感じた。


「あ、あ、ありがとうございます……っ」


(久久野主任に褒められるのって、凄く嬉しいな)


 改めて、大都野(おおみやの)さんから教えてもらったマル秘情報を思い出した。

 後輩女子社員達が喜ぶのも頷ける。


「どうした。何を笑っている?」

「いえ、何でも……ありませんっ!」


 私は心の中で密やかに甘い気分を堪能しつつ、共に皆の元へと戻っていったのだった。

最後までご覧頂きありがとうございます。

ブクマも本当にいつも嬉しいです!


久久野さん回でした!

イケメンとお買い物(^^)


少しでも心に留まりましたら、下部の " ☆☆☆☆☆ " より評価をお願いいたします。

大変励みになりますので、ご協力のほどよろしくお願いします。

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