第37話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と日帰り社員研修をした件・その3
「お、お待たせしました……」
「い〜ね〜〜!
多少おっきいけど、大丈夫そーじゃん♪ 似合ってるよ〜〜♪」
私物のエプロンを借りておずおずと登場した私に、八木羽屋さんが朗らかに声援を送る。
黒の帆布素材で出来ており、とても丈夫そうな作りだ。
これを着ているだけで、なんだか美味しい料理が何品も作れそうな気がしてくる。
「あ。シロちゃんごめん、後ろだけ紐短くするから、ちょい待って?」
「っ!?」
突然、八木羽屋さんが私の背後に回り、ぎゅっと腰回りの紐を解き、丁寧に締め直す。
男性に身なりを整えてもらうなんてこれまでなかった為、無駄に緊張してしまう。
(ひー! 手、手が、当たってる……)
他意は無いにしても。
真面目に作業してくれている八木羽屋さんには申し訳ないが、見えない分余計に触れた所に意識が向かい、思わず顔を伏せた。
私の葛藤について知る由もない八木羽屋さんは、楽しげに話をし始める。
「はい終わり〜♪ オッケー、バッチリ!
これ、濡れても焼けてもへっちゃら仕様だから、気にせずガンガン使ってね♪
オレもお気に入りでたくさん持ってるんだ〜」
「あ、ありがとうございますっ……」
(気にしてるの、私だけだから!
料理! 料理をしに来たんだってば! しっかりしないと!)
改めて思考を切り替え、本腰を入れ直す。
未だに料理に取り掛かれていないのは、私のせいだった。
せっかくキッチンルームに到着したのも束の間、手ぶらの私に快く予備のエプロンを貸してくれた八木羽屋さん。
手伝う所か、いきなり面倒をかけている始末で足手まといにも程がある。
「……本当にすみません……後で洗ってお返しします……」
「オレから誘ってんだから、全然気にしないで〜♪
お揃いのエプロンで料理すんの、なんか照れちゃうね♪」
にまにまと嬉しそうにこちらを見る八木羽屋さんに、思わず動揺してしまう。
「や、八木羽屋さん!
あまりからかわないでください……! 早く、試作始めないと!」
「シロちゃん、かーわい♪
よっし! じゃー、いっちょやりますかー!!」
大きな手のひらで優しく撫でられ、八木羽屋さんはガバッと腕まくりをして気合いを入れた。
(わっ!! 凄い上腕……!)
先程までのほのぼのオーラから一転、凛々しい表情に変化する。
″仕事モード″の八木羽屋さんだ。
鞄から大量の書類を取り出すと、一枚一枚真剣な表情でじっくり読み込み始めた。
声を掛けるのも気が引けてしまうくらいの気迫である。
「えーっとね、まずはオレがじゃんじゃん作っていくから、シロちゃんはとにかく試食してもらっていーかな?
そしたら該当料理の用紙に所感を記入して欲しいんだよね。シロちゃんの直感で書いちゃって構わないから!
基本的には一通り作ってみたんだけど、イマイチっぽいメニューは出来れば意見もらった上で納得いく物に仕上げたいからさ〜」
「承知しました!
あ、ひとつ気になったんですが、食べ切れずに残った料理って一体……」
いくら食べるのが好きな私でも、たくさんの品数を出されたらいずれギブアップしてしまうだろう。
「味見程度にしか作んないけど、もし余っても夕飯の時にみんなに食べてもらうから大丈夫〜!
無理して頑張らなくていーからね?」
八木羽屋さんが保存容器を手にし、爽やかに微笑む。
「ありがとうございます!
あの、八木羽屋さん、……私も、作りたいものがあるのですが、一緒に料理しても構いませんか?」
「もっちろん!! むしろ喜んで〜〜♪
シロちゃんは何作る? 材料用意するよ〜」
「ええと……」
私は恐縮しながら、希望の料理について切り出した。
* * *
「無事に、終わった……」
冷蔵庫を閉め、一息つく。
私の方はこれで時間が経てば出来上がりだ。
「シロちゃんお疲れ様〜!
また作ったから、次のやつよろしくねー♪」
「えっ!! 早い……!」
恐ろしいペースで八木羽屋さんが調理をしていく。
私が作っている間にもすでに五品は味見をしたはずだ。
夜店用だからか、短い時間で調理出来る物に特化しているのかもしれない。
ちなみに、全て文句無しに美味しかったのは言うまでもない。ただ、研究熱心な八木羽屋さんの為にも、私は書類に分かりやすいよう事細かく書き綴った。
「すみません、シンクの後片付けしちゃいますので、少しお待ちください」
「あ、オレそっち行くよー? 急がなくて大丈夫〜」
手が塞がっていた私を気遣ってくれた八木羽屋さんが、出来立ての試作品を乗せたお皿を持ってすぐ近くに来たのは良かったのだが……
「はい、シロちゃん。″あーん″して?」
「!!」
大胆な行動に顔が瞬時に熱くなる。
私が固まっていると、目元が緩んで極上の笑顔を見せる大人なイケメンの顔が間近に迫ってきた。
優しく、口元にお箸を近付けてくる。
(ど、どうしよう)
八木羽屋さんとこんなに急接近したのは初めてで、どう反応していいのか分からなくなってしまった。
「あ、あの、自分で食べますからっ……」
「……そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。
オレにまかせて、ほら。ね?」
「うぅ……はい……」
やけに押しの強い八木羽屋さんを止める事が出来ず、雛が母鳥から餌をもらうかのように私は口を開いて黙って待つしか出来なかった。
「……、んぐ、ぁ、美味しい、です。
麺がモチモチしてて、……あ、あれ? 八木羽屋さん?」
八木羽屋さんが真面目な顔をしながら、こちらを食い入るようにじーっと見つめている。
何か変な事を言ってしまったのだろうか。
困惑する私に気付いた八木羽屋さんが、いつもの表情に戻った。
「ありがとね、シロちゃん。
オレのお願いに付き合ってくれて」
「?」
「ずっと誰かと一緒にご飯作るのが憧れだったから、今すっげー嬉しいんだよね。
今まで、仕事上でしかやらないし、ウチじゃオレだけだしさ」
しみじみと語る八木羽屋さんの、珍しく憂いを帯びた表情に目が釘付けになる。
「それに、一生懸命もぐもぐしてるシロちゃん見てるの、なんか幸せっていうか。
心から作って良かった〜って気持ちになれるんだよね。自分でも……不思議なんだけど」
八木羽屋さんが穏やかな目線をくれるので、何だか気恥ずかしい想いで胸がいっぱいになる。
「ごはん、美味しかった?」
「はい! こんなに絶品なお料理をたくさん頂けて……本当にありがとうございました。
私、ちゃんとお役に立てれば良かったんですが、色々すみません……」
「そんな事ないってー! シロちゃんのおかげで、かなり仕事捗ったよ♪ 大助かり!
たっぷり付き合ってもらったし、もうお昼だからシロちゃん休憩とってきて大丈夫だよ〜♪」
「えっ、もうお昼ですか? 気付かなかった……」
壁の時計を見ると、間もなく十二時を回る所だった。
「たくさん味見してもらっちゃったから、全然お腹すいてないよね〜。
とりあえずあんまりシロちゃんの事独占してるとみんなから怒られちゃうから、この後は他のメンバーのとこ手伝ってあげるといいかもしんない。
行ってらっしゃい♪」
「あっ、はい! すみません、行ってきます!」
「疲れたらいつでも戻ってきていーよー♪
オレは一日ずーっと一緒でも大歓迎だからね〜♪」
八木羽屋さんの悪戯っぽい笑顔に、騙されそうになる。
こういう冗談を連発されると、耐性のない私には身が持たない。
でも、とても楽しい時間だった。
八木羽屋さんとまた一緒に、料理が出来ると良いな。
私は八木羽屋さんに御礼を伝え、一足早い休憩を頂く事にしたのだった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
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八木羽屋さん回でした(^^)
他のイケメン達とのエピソードも一話ずつ更新しますので、引き続きお待ちください。
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