第35話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と日帰り社員研修をした件・その1
「社員研修……ですか?」
種狛さんの件がひと段落し、仕事に全力で臨めるようになった今日この頃。
一日の業務が終わり、食堂で夕食を摂っていた所に思兼さんに話しかけられ、相席する事になった。
突然の報せに思わず聞き返す。
私はお味噌汁をすすりながら、その先の話を待った。
「はい。天寺社長より、通達がありました。明日、委員会メンバーで現地の下見及び打ち合わせを行います。
……というよりも、研修は建前で実際にはただの日帰り旅行ですね」
「ひ、日帰り旅行!?
今、明日って言いました……!?」
「急遽で申し訳ありません。研修用施設の予約が埋まっていたらしく、明日しか取れなかったようです。
祭当日は業務に引っ張りだこで実行委員は純粋に楽しめないと以前からクレームがあったそうです。
委員同士の士気を高める良い機会にもなりますし、英気を養って欲しい想いからセッティングした経緯があります」
「なるほど……そうでしたか……」
「伊縄城さんはまだ、祭会場の場所に行かれた事はありませんでしたね。
当日僕がご案内も兼ねて同行します。あ、一応研修という名目ではありますが普段着で結構ですので、気楽にお越しください」
「思兼さん、あの、……何でも、構いませんか?
普段着……」
研修よりも、私の心配事はむしろそっちだった。
今から準備していくには、適当な服しかない。
しかも、イケメン達に見られても問題ない格好となると、時間が足りな過ぎる。
「はい、もちろんです。楽しみにしていますね」
「えっ!! あ、はいっ、こっ、こちらこそ!」
思兼さんが屈託なく微笑む。
お世辞だとしても、面と向かって言われると照れてしまうではないか。
(後で大都野さんに相談しよう)
帰ったら大急ぎで用意しなければ。
私は顔の熱さを紛らわす為、お茶を一気に飲み干した。
* * *
「おはよう、ございますっ!!」
「おはようございます、伊縄城さん」
会社の入口ゲート前で、思兼さんと合流する。
午前中だというのに、すでに茹だるような暑さだ。
私は背中に汗が伝うのを感じながら、息が上がりつつもどうにか挨拶をしたが、同じ場所に存在しているとは感じさせないぐらい思兼さんは涼やかに佇んでいる。
いつもギリギリに来て待たせてしまうので、『今日は絶対に先に来てお迎えする!』と意気込み、少なくとも待ち合わせ時刻の30分前には到着をしていた。
だが、思兼さんの方が一枚上手だったようだ。
どんなに早く来ようとも、私を先に待たせないつもりらしい。
(次こそは……というか、そんな事よりも!)
思兼さんの私服姿が目の前に公開されている。
想像以上にイケメンだ。
もう、頭の悪い説明になってしまうほどの威力である。
薄い象牙色のリネン地のシャツと、黒のテーパードパンツ。シンプルだが、洗練された上級者の着こなしだ。不思議だが、普段よりも若々しく感じる。
仕事中のスーツ姿も様になっているが、私服姿も爽やかで素直にかっこいい。
私はしばし見惚れてしまい、言葉を忘れてしまった。
(これは、私も着てくれば良かったかなぁ……)
思兼さんの私服を見て、昨夜の会話を巡らせる。
私は夕食後、大慌てで連絡した大都野さんとあるお方とのやり取りを思い出していた。
* * *
『えっ!! 日帰り研修ですか!
しかも明日?! 随分と急な日程ですね』
音声通話越しに大都野さんが盛大に驚く。
「そうなんですよ……しかも問題が私服で向かうらしいんですが。
どうしましょう。お泊まり会で来たようなラフな服でも良いでしょうか……」
『何を言ってるんですか!
伊縄城さんっ、今こそ、婚活するチャンスですよ!』
「!?」
その発想はなかったので、今度は私の方がびっくりしてしまう。
『普段と違う装いで仕事なんて、これほど急接近出来るシチュエーション中々無いですよ!
伊縄城さん、お忘れですか?
あるじゃないですか、とっておきの勝負服が!』
「あっ」
ある。
大都野さんと選んだ、お気に入りの服が。
色々な事がありすぎてすっかり忘れてしまっていた。
「でも、あの服確かに素敵だと思うんですが、……ちょっと攻めすぎてませんか?
明らかに、デート用というか……」
『こういう時に着るから効果抜群なんですよ。
普段カッチリした制服に身を包んだ真面目な伊縄城さんが、清楚でお淑やかなワンピース姿で現れたら……ドキドキしない男性は居ないはずです!』
力説する大都野さんだが、それは大都野さんのような女性がやるから真価を発揮するのではないだろうか。
「そう、ですね。そうでした。
当日、……持っていきます」
『頑張ってくださいねー!
素敵な思い出、作って来てください♪』
「ありがとうございます!」
大都野さんとの通話を終え、いざ明日の準備に取り掛かろうとしたのも束の間、IDバングルの通知が来た。
(あれ、また大都野さんかな?)
表示には、″非通知″とあり、誰からか分からない。
恐る恐る通話ボタンを押すと、意外な方からの連絡だった。
『やぁ! 夜分に失礼。
ご機嫌いかがかな? 伊縄城ちゃん』
「しゃっ、しゃ、社長!!!!」
まさかこんな時間帯に私個人宛へ連絡が来るとは思わず、腰を抜かす。
『驚いた? 思兼抜きで伊縄城ちゃんと、ヒミツの電話をしたかったんだよね。
明日は旅行……じゃない、研修の日程組んじゃったんだけど、話は聞いた?』
「あっ、はい! お聞きしてます」
『忙しいのに悪いね。種狛の件で、埋め合わせと言ってはなんだけどさ。
キミにはぜひ、この機会に羽を伸ばしてもらいたいんだ。委員会の子達とも色々と仲良くなってもらいたいしね。
くくっ、良い報告を期待しているよ。
おやすみ。……楽しんでおいで』
「あ、ありがとうございます! 失礼いたします!」
(正直意味が分からないけど、これは……″婚活″を応援……してくれているのだろうか)
含みのある言葉に、都合の良い解釈をしてしまう。
(楽しむ、……かぁ)
このまま明日の事についてシミュレーションをしていたら、眠れなくなってしまいそうだ。
私はきびきびと荷物をまとめる事に専念した。
* * *
話を戻そう。
結局悩みに悩んだ末、最終的に怖気付いた私は可愛さよりも動き易さを重視した何の変哲もない部屋着パーカーを選んでしまった。
大都野さんのアドバイスもあり、一応念のためにワンピースはお守り代わりに持ってきてはいるが、まず使う事はないだろう。
皆仕事として来ているのに、私だけ色めきたっていてもしょうがない。
私は、心の中の不純な気持ちを振り払い、ひとり回想を終了したのだった。
「伊縄城さんの私服姿、新鮮ですね。
普段、制服姿でお会いしてますので、また違って見えます」
思兼さんが気を遣って私の事を取り上げてくれるが、どこにでもあるような普段着なので逆に申し訳ない。
「……ありがとうございます。
結構暑くなってきましたし、そろそろ行きましょう」
「そうですね。これより天海区画に向かいます。
このまま足を運ぶのも趣があって良いのですが、この気温ですから直接参りましょう。
伊縄城さん、目を閉じてください」
不意に思兼さんの顔が近付き、反射的に目を瞑る。
直後、凄まじい光に包まれ、私達は研修施設がある八百万祭開催地へと導かれたのだった。
日帰り研修旅行回、はじまりました。
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