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第33話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と熱く語り合った件

 先程までの和やかな雰囲気から一転、張り詰めた空気が社長室の色を塗り替える。

 黙って書類をパラパラと眺める天寺(あまでら)社長と向き合い、私は話す言葉を必死で考えていた。


 私の焦りを感じ取ったのか、社長が朗らかに話しかけてきた。


「業務時間外なのに悪いね。ボクが中々スケジュールを確保出来ないから、思兼に無理を承知で調整してもらったんだ。早めに終わらせるつもりだから、伊縄城(いなわしろ)ちゃんも協力してほしい。

 では、これより『懲罰委員会』を開催する。よろしく」

「よろしくお願いいたします」

「よろしく、お願いいたします……っ!」

「ボクから聞く事は一つだけ。

伊縄城ちゃん。キミは、種狛(たねこま)部長補佐を、どうしたい?」

「……どうしたい、ですか?」

「被害者であるキミの意見を尊重したいと考えている。先日、種狛からの弁明を受け、一連の事件については全て非を認めたよ」

「……種狛部長補佐が……」

「ボクからもお詫びさせてほしい。

種狛の″猫又化″を防いだ時に、猫又の能力をこっそり会得していた事に気付かなかったのは、ボクのミスだ。

嶽平(たけひら)にも伝えたけど、詰めが甘かった。申し訳ない」

「いえっ、そんな……!

むしろ、天寺社長と嶽平部長のおかげで、種狛部長補佐は……」


 その先の言葉を出して良いものか迷い、思わず押し黙る。


「ああ。キミの考えている通り、自暴自棄になった種狛はあのまま遅かれ早かれ消えただろうね。

浄化させても良かったんだが

 『目』が、美しかったんだ。あまりにも。

 目は心を映し出す鏡に等しい。見捨てるには惜しいと、嶽平の同意もあり、拾った訳だ。

 証拠映像を見たよ。……どうして、もっと周りに頼ってくれないかなぁ。あの子は」


 はぁ、とため息をつく天寺社長。

 私は下手でも自分なりの言葉で伝えようと、少しずつ話し始めた。


「種狛部長補佐は、……私の勘違いかもしれませんが、本当は強がってただけで人間の事を嫌いではなかったと、先日の件を通して、考えてました。

 思い込みが激しい所とか、精神が子供というか不器用で人の気持ちを全く考えてない所はとても困りますけど、根は素直な方だと思います」

「くくッ……結構、遠慮なく言うね? 伊縄城ちゃん」


 天寺社長が、噴き出しそうになるのを堪えて笑う。


「これでも、一応怒ってますから。

でも、今回限り帳消しにしようと思っています」

「ほう! それはまた、どうして?」

「委員会の仕事も溜まってますし、このまま退場させるのは別の意味で許せません。

ですので、種狛部長補佐には反省して頂くのはもちろんですが、天寺社長や嶽平部長初め委員会の皆さんへこれまで以上に……()()()、挽回してもらいたいんです」

「伊縄城さん……」

「種狛部長補佐を見守ってくださる方々がいて、仕事ぶりだって信頼し評価してくれている仲間がいる。

 ずっと過去しか見ていないなんて……そんなの、もったいないです。

 私は何度も婚活に失敗しましたけど、まだ、諦めてません。種狛部長補佐にも朔さんとの約束通り、前を向いて生きてもらいたいんです」


 これまでの思いの丈を、飾り気無しにそのまま吐き出す。


 天寺社長が私を穴が開くかと思うくらいに凝視した後、顔の前で手を組み物思いに耽りながら語りだした。


「ボクはね。この会社で働いてもらう以上、ボクが心から認めた者しか入社させないと誓っているんだ。

その判断基準が鈍った事は、これまで一度たりとも起きた事はないと胸を張って、……言える」


 天寺社長が立ち上がり、しなやかな足取りで私に近付く。


「八百万祭実行委員を選んだのも、ボクだ。このお祭りを愛し、大事に育て上げてくれると見込んだ者しか、この役目は与えない。

 仕事を放棄するような奴ならそれまでだが、……種狛には、歯を食いしばってでも這い上がってほしい。

 伊縄城ちゃん。キミの心意気、受け取ったよ。

 ボクも、君と同意見だ」

「天寺社長……!」

「思兼」

「はい」

「ボクからの結論は、″不問に付す″。

但し、それ以外の処罰に関しては神霊人事部長のキミに委ねよう。話は以上だ」

「承知いたしました。

貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。僕達もこれで、失礼いたします」


 深々と礼をし、慌てて思兼さんの後を追おうとした瞬間、天寺社長に呼び止められる。


「伊縄城ちゃん。今度は、思兼に内緒でデートしよう? キミの事、気に入った」


 パチンとウィンクを飛ばされ、不意の出来事に顔が赤くなる。


「天寺社長。全部聞こえています。……伊縄城さん」

「あっ、すみませんっ!

あの、ありがとうございました。失礼いたします!」


 爽やかに手を振る天寺社長に再度お辞儀をし、私達は社長室を後にした。





 * * *





 カツカツと、廊下を歩く足音だけが響く。

 終始無言の思兼さんが気になって仕方がないが、どう話を切り出して良いか分からず、一人悶々としていた。


(私、変な事言ったかな……言ったんだよね、この反応……思兼さん、ずっと話さないもんね……ああ〜〜、まただ……!

この流れは、後できっと怒られる奴じゃ)


「伊縄城さん」

「はっ、はい!」


 私のネガティブ思考をバッサリ両断するかの如く、思兼さんが唐突に口を開いた。


「ご協力頂き、感謝いたします。

天寺社長があそこまで上機嫌に業務を遂行してくださるのは、とても珍しい事なので助かりました。

あの通り、気まぐれな方ですので」

「え! いえ、……思っていたより、話しやすい方なんですね、天寺社長。

でも、話してたら何だか思い出し怒りしてしまって、色々好き勝手言ってしまったなぁと、今頃ちょっと反省してます……」


 ゴニョゴニョと語尾が消えかかっていく。


「あの……種狛部長補佐の件について、思兼さんはどうお考えなのか聞いても良いでしょうか。

私が甘いのは……重々承知しているんですが」


 神霊人事部長として、この後決断を下さなければいけない使命がある思兼さんに、私は改めて聞いてみたかった。


「本来であれば、厳格に処分しても致し方ない事例です。

脅迫、暴行、能力の不正使用……材料は十分過ぎるほどに出揃っていますから。

 しかし、……伊縄城さんの考えを聞いて、少し見方が変わりました。制裁だけではなく、その先の更生まで視野に入れていたとは。僕も、今後の参考にさせて頂きます」

「えっと、あっ、そう、ですね……!」


 思兼さんが真剣に話をしているが、正直そこまで深く考えていなかった為、急に居た堪れなくなる。

 私はただ、悔いの無いように現在(いま)をきちんと見て欲しかっただけなのだから。


「伊縄城さんをまた一つ、窺い知る事が出来る良い機会でした。……ありがとうございます」


 並んで歩いていたが、気付けば思兼さんが急接近してきている事に驚く。

 少し物憂げな視線を落とし、何か適切な言葉を選んでいるようだった。


「……あの、思兼さん……?」

「伊縄城さん、よろしければ今度、」


 《ぐ――――――――っ》


「!!」

「…………」


 お腹の音が大音量で廊下中に響き渡り、瞬時に耳まで赤くなったのが分かる。


「〜〜すみませんっ、我慢してたんですが……!」


(最後の最後になんてヘマをやらかすんだ私は!

カッコ悪すぎる……)


「……ふふっ」

「あっ! 笑わないでください!

これは不可抗力というか……っ!

しょ、しょうがないじゃないですか! ちょうど夕飯に行こうとした所で呼ばれちゃった訳ですし……っ」

「……そうですよね、失礼しました」


 呆気に取られた思兼さんが不意を突かれたのか、あどけない笑みが溢れる。

 普段の笑顔とはまた違った表情に、何故だか癒された。


「まだ、駆け込めば間に合うかもしれません。食堂まで、早足で向かいましょう」

「……あ、はい!! ぜひ!」


 大きな()()である、『懲罰委員会』がひとまずは終わった。


 ようやく肩の荷が降り、清々しい気持ちが湧いていた事を後から実感する。

 空腹だった事を思い出した私は、『今夜はチートデーにしよう』などと呑気に考えながら、思兼さんと共に食堂へと急ぐのだった。

最後までご覧頂きありがとうございます。

ブクマも本当にいつも嬉しいです!


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