第32話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン?社長にお会いした件
週明け、仕事場に向かう途中後ろから声をかけられた。
「伊縄城さん、おはようございます」
「あ! お、おはようございます、……思兼、さん」
先週の一件などまるで無かったかのように普段通りに接する思兼さんに対し、変に意識してぎこちなくなってしまう。
私はどうにか気付かれないよう苦心していた。
(今朝会ったら自然に振る舞おう! って意気込んで出勤したけど……自意識過剰すぎるのかな、私)
『思兼さんの理解不能な行動』について、毎回自分なりに分析をしているのだが、最終的には『″思兼さん流ジョーク″で気を遣ってくれただけ』という結論に達する。
地味な一般人の私をからかう事ぐらい、イケメンにとっては容易いだろう。
今回は多分、『怒らせてしまった罰』といった具合なのかもしれない。
確かに私には十分効力を発揮するので、その点は間違っていない。
「伊縄城さん、どうかされましたか?
浮かない表情ですが」
「すみません、気にしないでください!
……そういえば、この間お話していた″事実確認″っていうのはいつ頃行うのですか?」
気を取り直し質問をすると、難しそうな顔をしながら思兼さんが答えた。
「そうですね。今回は物的証拠も揃ってますし、遅くとも二、三日中には呼び出されるはずです」
「分かりました。ありがとうございます」
思兼さんが私の顔をじっと見つめる。
「あの、な、何か……?」
「伊縄城さん。緊張されてますか?」
「えっ!? は、はい! 少し……」
(その原因が今、私の目の前にいるなんて……とても言えない……)
「伊縄城さんの思った事を包み隠さず、素直にお話頂ければ大丈夫です。僕も同席しますから、落ち着いていきましょう」
「……ありがとうございます」
思った事を包み隠さず素直に、か。
種狛部長補佐について、ありのまま話そう。
私は来る日に備えて記録をまとめておこうと思った。
* * *
委員会の時間となり、種狛部長補佐以外のメンバーが会議室に集合した。
思兼さんより、種狛部長補佐の処遇について要点のみ共有されると、重い空気が部屋中を覆う。
正直、当事者の私も居辛い。
そんな中、御影さんが沈黙を破った。
「つーか、結局種狛って委員会抜けんのかよ?
アイツ広報局責任者じゃん。今更中途半端にされるのすげぇ困んだけど」
「ああ〜、オレもねこまるに企画何個か振ったままだ〜〜!
どーしよ〜、あっ! そーだ!
シロちゃん一緒にやんない? 貴重な女子からの意見聞きたいな〜♪」
「わ、私ですか!?」
「こら、八木羽屋。どさくさに紛れて伊縄城さんに押し付けるんじゃない。
確かにもっともな意見だ。種狛部長補佐の業務分については僕がプランを練っているから、また後ほど連絡する」
「そーすか。ま、割りを食わなきゃ俺は構わねーけど。他はなんか問題ある?」
「特に支障は無い」
『ぼくも大丈夫です!(´・Д・)」』
「まぁ、どーにかなるっしょ。とりあえずねこまるが戻ってくるパターンだったら、オレらの前でキッチリ禊いでもらうけどね〜」
「み、禊ですか?」
「少なからず迷惑はかけた訳だからな。君にも、委員会に対しても。そもそも決定次第では戻ってくるかも分からんが」
「アイツが素直に謝罪するようなタマかよ? あんま期待しねー方が良いんじゃねぇの」
『あの、もし何かあったらぼくお手伝いしますので言ってくださいm(_ _)m
今ならまだまだ挽回出来ますから』
「衣吹戸課長、ありがとうございます。この件は、続報が来たら随時共有します。
それでは、次に各委員は進捗を報告してください」
(……本当に、どうなっちゃうんだろう)
その後、会はつつがなく進行し、無事に終了した。
* * *
「ふー、今日も終わった……」
委員会業務も少しずつだが祭の形を見せ始め、疲れはするがそれ以上の充実感を得られるようになった。
(種狛部長補佐……家で反省してるのかな)
書類を綴じながら、ふと思い返す。
マタタビ状態によるものとはいえ、涙を流しながら朔さんの話を語っていた種狛部長補佐。
何故か流れで私に迫ってきたけれど、本当は朔さんに対して行いたかった願望だったのではないかと思う。
彼は、人間の女性を純粋に愛していたのだ。
もう二度と会えないと分かった今、たまたま同じ年頃の人間の女性に果たせなかった想いをぶつけた。
ただそれだけなのかも知れない。
それは、とても虚しい行為だ。
私は思兼さんの言う通り、お人好しだと自覚している。自分がこれまでされた事より、どうしたら彼の過去の傷が癒えるかの方について考えてしまう。
″人間に対し、憎しみを向け執着し続ける事″によって、空虚な心を抱え孤独に生きる辛さから目を背けたかった気がしてならない。
その誰にも理解してもらえない悲哀は、私にも経験があるからだ。
(とりあえず、お腹すいたな)
一旦考える事を中断し、食堂へと移動する直前。
《ピピピッ》
IDバングルが鳴り、チャットが届く。
思兼さんだ。
『お疲れ様です。終業後にすみません。
懲罰委員会より連絡が来ました。
日程の都合上、大変申し訳ありませんが、今からお越し願えますでしょうか。
これからお迎えに伺いますので、そのままお待ちください。よろしくお願いいたします』
「ええっ、今から!?」
《コンコンコン》
「は、早い! ちょっとお待ちくださーい!」
あまりの急展開に気持ちが追いつかないまま、扉を開けると予想通り思兼さんがやって来た。
「お疲れ様です。こんな時刻に申し訳ありません。
チャットをお送りしたのですが、読まれましたか?」
「たった今確認しました。これから行くんですよね、どちらに向かえば良いのでしょう?」
「ありがとうございます。僕と一緒に『社長室』まで来ていただけますか」
* * *
「ここが、社長室……」
思兼さんと何重ものセキュリティを越え、ついに荘厳な扉の前に辿り着き、恐れ慄く。
「それでは、入りましょうか。失礼いたします」
ノックをし、扉を開けると今まで見たどの部屋よりも豪奢で広々とした空間が広がっていた。
「ここは謂わば、入口です。
社長がいらっしゃるお部屋は更に奥ですので、ご案内いたします」
「えっ!? そうなんですか……!」
徐々に緊張感が高まってゆく。
一歩一歩進むにつれ、心臓の早鐘が止まらない。
私は深く息を吸い、呼吸を整えた。
(一体、どんな方なんだろう)
《コンコンコン》
「失礼いたします」
「し、失礼いたします……!」
ガラス張りの開放感のある部屋の奥に構えた重厚なデスクに、肩肘を突いた男性が鎮座している。
私達を確認した後、軽やかな足取りでこちらに向かってきた。
「キミが、伊縄城ちゃん?」
「はっ、はい!
……神霊企画推進部の、伊縄城です!
よろしくお願いいたします……!」
(ま、まぶしい……っ!!)
他を寄せ付けない、圧倒的な存在感。
目には見えないが私にはキラッキラの神々しい陽の光に包まれた絶世のイケメンに見えた。
濃紺のスーツが彼の輝く容姿を更に美しく引き立たせ、八百万のトップに相応しい威風堂々としたオーラが漂う。
本能的に、私とは住む世界が違うと思い知らされた。
イケメン社長はそんな私を他所に、軽快に話し始めた。
「そんなに緊張しないで。八百万へようこそ。心から歓迎するよ」
スッと私の手を取ると、躊躇う事なく甲に口付けをした。
「〜〜〜〜!?!?」
突然の行動に硬直する。
私は頭の中で、思い描いていた社長の定義が揺らぎ始めていた。
目の前にいるこの方は、本当はどこかの国の王子様ではないのかと疑いたくなる。
「あれ、余計に緊張しちゃった? 可愛いね」
「天寺社長。伊縄城さんが困っていますので、本題に入らせて頂いてもよろしいでしょうか」
「相変わらず思兼はつれないなぁ」
「伊縄城さん。この方が天寺千昼社長です。
基本的に冗談が多い方なので、あまり間に受けないようにしてください」
「紹介雑すぎない? 天寺です。
伊縄城ちゃんにずっと会いたかったんだけど、忙し過ぎてこんな機会になっちゃったね。これからよろしく」
イケメン社長はフランクに私の手を取ると、握手を求めたので、慌てて私も握り返す。
「天寺社長。初めにきちんと言っておいた方が良いのではないですか。伊縄城さんに誤解される前に」
「えーもう? まだ楽しみたいんだけどなー。
じゃあ、告白する前に……」
天寺社長は意味深な笑みを浮かべると、正面から私に覆い被さってきた。
「は、え、っ、……!?」
「初めましての社員ちゃんには、挨拶代わりに皆やってるから気にしないで。
……うん、思った通り。抱き心地が良いね」
イケメン社長は私に構わず、ぎゅうぎゅうと情熱的な抱擁を続けている。
(恥ずかしすぎる!!)
思兼さんのいる前で行われ、より羞恥心が強まる。
意味が理解出来ず、私は混乱していた。
(な、何? 会って早々にスキンシップし過ぎなんじゃ…………んん!?)
見かけに寄らず体が柔らかい。
そう。まるで……
「伊縄城さん。天寺社長は見かけは男性ですが、れっきとした女性です。
こういった悪癖は些か目に余りますが。
どうか、ご安心ください」
「!!!!!!」
ニッと悪戯っぽい笑顔を向け、天寺社長は更に畳み掛ける。
「ガッカリしちゃった?
……大丈夫、男女問わず平等に愛を注げるから。
思兼にいじめられたら、いつでもおいで。
慰めてあげる」
「えっ、あっ、その……!?」
衝撃の事実に頭がクラクラする。
いや、それよりそんな事が上書きされるぐらい爆弾発言をしてないか。
「……変な事を吹き込まないでください。
伊縄城さん、早速社長に流されないように。
そろそろ種狛部長補佐の話をしてもよろしいでしょうか?」
「あ、そうだね。報告書は大体目を通したよ。
それじゃ伊縄城ちゃん、始めようか」
「は、はいっ、よろしくお願いします!」
紆余曲折ありながらも、こうして『懲罰委員会』は開かれたのだった。
社長初登場回でした。中々クセが強そうです。
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