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第30話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が猫耳イケメンと対峙し形成逆転した件

今回、軽いですがR15要素がありますので、ご注意ください。

 《ガチャリ》


嶽平(たけひら)部長、只今戻り……」


 入室してきた種狛(たねこま)部長補佐が、部屋に()()()()()()()私と対峙する事になり、明らかな動揺を見せた。

 耳をピン、と横に伏せ、不快そうな表情をしている。

 睨みを効かせ、ドスの効いた声で質問をされた。


伊縄城(いなわしろ)えむこ。

何故、神霊広報部におまえがいる?」

「お疲れ様です。嶽平部長でしたら、すでに退勤しましたよ。

私が種狛部長補佐にお会いしたいと言ったら、まだお戻りにならないのでここで待機していて良いと許可を頂きまして。驚かせてしまったようで、すみません」

「話だと?」

「はい。種狛部長補佐は誤解されていると思いましたので。

……初めてご挨拶した際に、言ってくださったじゃないですか。ゆっくりお話しましょうって」


 種狛部長補佐との距離を詰めながら、不敵に微笑む。訝しげに凝視する種狛部長補佐をスルーし、私は話を続けた。


「私、人間という立場を(わきま)えず、皆さんに対しこれまで無礼な態度を取り続けていた事……種狛部長補佐によって気付かされました」


 深々とお辞儀をする。


「…………突然、どういう風の吹き回しだ?

おまえの魂胆は……ああ」


 ニヤリ、と種狛部長補佐が嗤う。


「おれの能力について、ようやく気付いたか。

しかし、無駄だったな。

言っておくが、どれだけ色目を使おうと、解除する気は無い。初めの効きが悪かったが、大分思考力も鈍くなったんじゃないのか? 馬鹿な奴だ」


 種狛部長補佐が満足気に私に近付いてくる。


「そうかもしれません。

なので、たくさんお聞きしたい事があるんですけど……はっ、はくしゅんッ! 

すみません。……お待ちしてる間、部屋の冷房を効かせ過ぎました」

「で? 話を続けろ」

「あっ、はい」


 私は体勢を立て直し、改めて向き直った。


「種狛部長補佐へずっとお聞きしたかったんですが。

どうして″猫又″になりかけるほど、人間に恨みを抱いたんですか」

「っな、……に……?」

「飼い主の船槻(ふなつき) (さく)さんに飼われていたそうですね。

よろしければ、どんな風に一緒に暮らしてたか教えてくださいませんか?」


 間髪入れずに畳み込む。

 わなわなと種狛部長補佐の体が震え出した。


「おまえ……その名を二度と口にするな!

それより、おれの力が何故……」

「種狛部長補佐」


 私は焦りを隠そうともしない種狛部長補佐を見上げ、強い目線を向けた。


「もし、私に対して行ったこれまでの事、嶽平部長へきちんとご報告して下さるなら、朔さんの()()()()()()()お教えします。

あなたは、知らないはずです。

情報源については、思兼(おもかね)部長より確証を得てますのでご安心ください。いかがでしょう?」

「取引めいた真似をするとは……」

「私は構いません。このまま心の中に閉まっておいても。ですが、ずっと知りたかったのではないですか? 猫又になるきっかけについて、」

「黙れ!!」


 《ガッ!!》


俊敏な動きで私に掴みかかる。


「だったら……力付くで聞き出してやる!!」


(よしっ! かかった!!)


 種狛部長補佐が胸倉を掴んだ後、無理矢理目を合わせてきた。


 この時を待っていた。

 説明が遅れたが、ここまで私と思兼さんの作戦である。

 その名も『鳴かぬなら鳴くまで待とう種狛大作戦』だ。


 概要は以下の通りである。


 まず初めにこちらが主導権を握る事。場所を種狛部長補佐のホームである神霊広報部に選んだのもそういった理由である。


 そして、ひたすら煽り続ける事。

 この辺りは私の演技力にかかっているが、種狛部長補佐が油断し頭に血が昇るまで、彼が一番ノッてくるネタをエサにこちらのペースに引き込む事が重要だった。


 私の出した注文を素直に受け入れる事はまずあり得ないのは既定路線だ。

 だからこそ、激昂し能力を使用してくれる事が一番手っ取り早い。

 決定打の映像が撮れれば、上層部へ最短ルートで連行出来るだろう。


 種狛部長補佐が意外にもシナリオ通りに動いてくれ、私は内心ドキドキしながらも安堵していた。

 後は、能力を発動してくれればその状況はIDバングルによってしっかり録画される。

 録画中は思兼さんにも情報が共有され、有事になる前に動いてもらう事も可能だ。


 ちなみに、あのクシャミは録画を開始する為の発動機能である。


(あと一押し、もう少しで……!)


 王手……のはずだった。





 * * *





「……?」


 種狛部長補佐がいつまで経っても能力を使わない。

 ずっと掴まれたまま、硬直し、ただただ向かい合うだけの時間が流れる。

 様子がおかしい種狛部長補佐に、恐る恐る問いかけた。


「た、種狛部長、補佐……? あの……」

「……はぁっ、はっ……ぅ……」

「?」


 種狛部長補佐の顔が紅潮し、先程までの鋭い眼光が一変、恍惚とした焦点の合わない目付きに変化する。

 それでも、種狛部長補佐は荒い呼吸を吐きながら全く凄みのない目で私を睨みつけてきた。


「おまえ……っ、おれに、何か盛ったな……?」

「な、何もしてません! それより、あの、大丈夫ですか? 体調が悪そ……」


 話を途中で遮り、種狛部長補佐はそのまま私の首筋に顔を埋めて髪を擦り付けてきた。

 ふさふさとした猫耳が鼻に当たり、くすぐったい。


「ひっ!!」

「この香り、……媚薬か? 用意周到だな」

「私、香水しか付けてないですよ!?」

「香水だと? おい、もっと詳しく言え!」

「く、詳しくですか。えぇと、一般的なキウイの香水ですけど……」

「…………本当かよ」


 愕然とした表情で私にもたれかかる種狛部長補佐。

 体温が上がってきたのか、私まで伝染して暑くなってきた。

 いい加減離れて欲しいのだが、一向に動く気がなく私は非常に困惑していた。


 ポツリと、種狛部長補佐が呟く。

 やり場の無い怒りを滲ませながら。


「キウイはなぁ……っ、″マタタビ″と似た成分が含まれてんだよ。この意味、分かるよな?」

「″マタタビ″……って、あの、猫が好きな……」


 知らなかった。


 キウイにマタタビと同じような効果があったなんて。

 そういえば昔、近所の猫がマタタビでメロメロに酔っ払い、脇目も振らずに転がっていた。


 それが現在進行形で種狛部長補佐の身に起きている事が容易に想像できてしまい、幾分同情してしまう。


「知らずにやってたのかよ……っ、最悪……はぁ、くそ、……っ」

「えーと、ははは……なんか、すみません……」

「伊縄城」


 吐息混じりの低音で名前を呼ばれ、ビクッと肩を震わせる私。

 両腕ごと掴まれ、必死の形相で見つめられる。


「もう、この際、どーでもいい。さっきの話」

「は、はい」

「朔の事を、教えろ。……頼むから」

「えっ」


 突然の素直な反応に、私の聞き間違いかと耳を疑う。

 徐々に理性を失いかけている種狛部長補佐が、今にも泣きそうな顔で私に懇願してきた。

 イケメンの涙目が琴線に刺さり、こちらの理性が逆に吹っ飛びそうになるのをどうにか押し殺しながら、私は虚勢を張りつつも最終確認をする事にした。


「じゃ、じゃあ。これからは、他の社員の方と同じように接してもらえますか? ″ニンゲン″だとしても」

「…………チッ」


 見るからに悔しそうな顔をし、耳を平らに伏せている。

 脆く崩れそうなプライドとギリギリまで戦っていたのだろうが、ついに種狛部長補佐が折れた。


「あぁ……分かったよ」

「分かりました。では、お教えします」



 私は種狛部長補佐の言葉を信じ、約束通り朔さんの事を話した。





 * * *





「うぅ……」

「種狛部長補佐、あの、落ち着いてください……」


(何故、こんな事に……)


 朔さんのその後を話した私は、今度はぼろぼろと号泣する種狛部長補佐を宥める羽目になり途方に暮れていた。


 マタタビで情緒不安定状態になってしまった種狛部長補佐は、謂わばタチの悪い酔っ払いと同類であった。

 泣き上戸と化してしまい、飼い主だった朔さんに対し終わりのない慟哭を繰り返している。

 べしょべしょに泣き崩れ果て、猫耳が物悲しく垂れ下がった姿があまりにも哀れだ。


(ずっと人間に対して一方的に勘違いしてたから、わだかまりはこれで解消出来たのかな。

″愛と憎しみは紙一重″って言うし……本当に朔さんの事)


 《なでなで》


「!」


(はっ、つい……! 猫と同じ感覚で撫でてしまった)


「伊縄城……」


 驚いた顔でこちらを見る種狛部長補佐に、背筋が凍る。


「すみません! 他意は無いです!

もうしませんからっ」


 慌てて手を離し、猛烈な勢いで謝る。


(やってしまった……)


 余計な事をしてしまったと後悔したが、時間は巻き戻せない。怒られるのを覚悟し、種狛部長補佐をチラリと確認したが、惚けた様子で私の方を見ているだけだった。


「……ニンゲンのおまえに、憐れまれるなんてな。

ずっと、来ない人間を待ち続けて、勝手に物の怪に成り下がりかけたおれだ。笑えばいい」


 ふい、と種狛部長補佐が顔を背ける。

 赤く泣き腫らした目が痛々しいが、泣き疲れて落ち着いたのか、口調が少し元通りになってきた。


「笑いません。私は朔さんの事、全然存じ上げませんけど……いつも通りの日常を送っていたのに、それが突然終わってしまったのは、とても心残りだったと思います。

仕事が終われば種狛部長補佐に会えるって頑張っていたのに、叶わなかったんですから」


 黙って私の話に耳を傾けていた種狛部長補佐が、僅かに口を開く。

 意を決し、自分に向かって納得させるかのように語り始めた。


「あいつは……朔は、子供が出来ない自分をずっと責めていた」

「えっ」

「初めて出会った時の事を今でもよく覚えてる。

おれなんかよりもよっぽどくたばりそうな顔をしていた。結局、努力は実らなかった」

「…………」

「約束をした。捨てられた野良同士、最後まで一緒にいるって。向こうは覚えてないだろうけどな。

でも、朔が少しずつ元気になって、おれは嬉しかった。

なのに、″あの日″以降、いつまで経っても帰って来ない。また仕事が長引いてると思っていた。

でも、何日も何年も待っても、会えなかった」

「そう、だったんですね」

「時を忘れ、狂ったおれは、気付いたら嶽平部長達に保護されていた。

時折思う。八百万は人間界に比べ住みやすいし、仕事もやり甲斐があるが。あの時、そのまま消されてれば、」

「だめです!!」

「な、なんだよ」


嶽平部長の顔が蘇り、その後の言葉を拒絶した。


「種狛部長補佐にたくさん想われて、朔さん、幸せ者だったはずです。そんな人と出会えて、とても羨ましいです、私」


 自嘲する種狛部長補佐を見て、ふと思った言葉が口から自然と出る。


「な、……そ、そんなんじゃ……ないっ」


 みるみる真っ赤になり、否定する種狛部長補佐。


「もう自分を責めないでください。

種狛部長補佐の事を大事に考えてくださる方の事を、第一に考えませんか」

「………………」

「私も十分後ろ向き思考なんで、あまり偉そうな事は言えないです。嶽平部長の話を聞いて思いました。本当は、種狛部長補佐は悪い方ではないんじゃないかなって。

私の直感、間違ってませんでした。

これで後腐れなく、委員会に集中出来そうです」


 私は初めて種狛部長補佐に微笑んだ。


 あらかた録画も出来ただろうし、話し合いで済んで良かった。

そろそろ引き上げようとした直後、急に手を掴まれ背後から抱かれる形になり仰天した。


「な……っ! 急に、ど、どうしたんですか?」

「……雰囲気」

「へ!?」

「変な香水をつけた、おまえが悪い」

「ひ………っ!」


 ぎゅっと抱き締められ首の近くに顔を擦り寄せられる。そのまま、髪に一つ一つ愛おしむかのように口付けの雨が降る。

 今までの粗野な行動からは比べ物にならないほど丁寧に扱われ、思考がすでに崩壊しかかっていた。


「こうしたかった……ずっと……」


 熱を帯びた声で呟きながら、耳を甘噛みされる。

突然の行為に驚き、電流が走ったように体がビクリと跳ねた。

 私の反応に気を良くしたのか、耳元で嬉しそうに笑っている。


「種狛部長補佐! しっかりしてくださいっ!

朔さんとごっちゃにしてませんか?

そもそも! 私の事、嫌なんじゃ……」


 切なげな吐息が首筋にかかり、身震いする。


「もう、後悔したくない」

「え?」

「朔と離れ離れになったのは、おれに力がなかったせいだ。しかし、今は違う。

この、(まじな)いがあれば……

おれだけの事を考える、おれの女に出来る。

そうすれば良かったんだ。初めから、……」


(種狛部長補佐が……変だ……おかしい)


 種狛部長補佐の行為はエスカレートし、私の胸元に手をかけようとしていた。


「あっ……、や、やめてください!」

「離さない……絶対に、今度こそ……」


 《バンッ!!》


 その時、何者かが勢いよく扉を開いた。


「はーい、ストップ! ねこまる、アウトだよー」

八木羽屋(やぎはや)さん!!」

「種狛部長補佐、嶽平部長が外で待機してますのでご同行を。伊縄城さん、こちらへ」

「お、思兼さん……!!」


 こうして、種狛部長補佐はその場で御用となったのだった。

ヤンデレ種狛さん爆誕!でした。

最後までご覧頂きありがとうございます。

ブクマも本当にいつも嬉しいです!


少しでも心に留まりましたら、下部の " ☆☆☆☆☆ " より評価をお願いいたします。

大変励みになりますので、ご協力のほどよろしくお願いします。



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