第29話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が猫耳イケメンの過去に触れた件
「なるほど。ご説明頂き、ありがとうございます。諸々把握しました」
思兼さんと私はIDバングルの試作品について衣吹戸課長から一通りお話を聞いた。
『不具合があれば、すぐにご連絡ください。
動作確認はしてますが、試作品は何が起こるか分かりませんから( ̄^ ̄)ゞ』
「ありがとうございますっ!」
新しいIDバングルを受け取り衣吹戸課長へ何度も御礼を伝えた後、私達はサーバールームを後にした。
* * *
下りのエレベーターに乗り込み、私はこの機会を逃すまいと思兼さんに話しかけた。
「……思兼さん。あの、大事なお話をしても良いですか」
「問題ありません。ぜひ、お願いします」
私の神妙な表情を見てすぐに察した思兼さんは、その先を促した。
呪いが祓われ、新機能が付いたIDバングルを手に入れた今こそ、全てを共有する絶好のタイミングだ。
種狛部長補佐がどんな手を使って私の事を偵察していたかは定かではないが、少なくとも動く密室内にまでは介入は出来ないと踏んでの行動である。
「先日、嶽平部長にお会いしました。
そこで種狛部長補佐の過去について初めて知ったんです。八百万の世界に来る以前、人間に飼われた猫だ、って」
「それは初耳ですね。どういった経緯で入社したかも話されましたか?」
「詳しくは分かりませんが、何か事情があって種狛部長補佐は″猫又″になりかけたらしいんです。その時に遭遇した嶽平部長と社長が取り押さえたそうで……その流れから連れてきた、と」
「そうでしたか。猫又……」
私は、呪いの事や対峙した事など事細かに伝えた。
思兼さんが指を顎に添え、考え込む。
すると、何かを閃いたらしく竜胆色の瞳にパッと光が差したように見えた。
「伊縄城さん、ありがとうございます。僕の思惑通りであれば……種狛部長補佐について、より深く解き明かす事が出来るかもしれません」
「えっ、……ほ、本当ですか!」
「はい。お手数ですが、このまま神霊人事部までお越し頂けますでしょうか」
* * *
時刻はお昼を周り、神霊人事部署内の社員達は皆休憩に向かった後のようだった。
「狭くてすみません。どうぞ、こちらの椅子にお掛けください」
「あっ、いえ。失礼します」
一番奥側のお誕生日席に位置した思兼さんのデスクの横に案内され、おずおずと着席する。
思わぬ形で普段見ない思兼さんのデスク風景を拝見する事になり、何故だか落ち着かない。
というか、距離が近過ぎて困る。
思兼さんが私の様子を見て別の意味で受け取ったのか、優しくフォローしてくれた。
「大丈夫です。神霊人事部は他の部署と違ってセキュリティが強固ですから、気兼ねなくお話ください」
「あっ、はいっ! ありがとうございます」
(思兼さんのデスク……いつも、ここで仕事してるんだ)
さすがと言うべきか、全てきっちり整理整頓されており、事務用品やファイル類など一つ一つ綺麗にまとめられている。
無駄な物など一切無く、私の机上とは雲泥の差である。
思兼さんの性格が見事に反映されており、不思議と微笑ましい。
カタカタと思兼さんが私の傍でキーボードを淀みなく打ち込んでいる。
何かデータを検索しているようだ。
ふと、動きがピタリと止まった。
「当たりでした。種狛部長補佐の入社日付近のデータと人間界での猫又未遂事件発生の報告書から割り出し、見事一件、該当したようです」
思兼さんが目を細め、食い入るようにモニター画面を確認している。
「伊縄城さん。何故、種狛部長補佐は猫又になりかける程の強い怨念を人間に対し抱いたのか。気になりませんでしたか」
「あっ、はい。私もそこがずっと引っかかってました。その人間って、きっと……」
思兼さんが頷く。
「伊縄城さんのお話から鑑みて、種狛部長補佐が人間界で最後に接したと思われる、″飼い主であった方″に何かしらのきっかけがあったと考えるのが妥当です。種狛部長補佐のプライバシーデータを詮索する事はセキュリティ上難しいですが、他の資料に紐付ければ辿り着けると考えました。
神霊人事部は、人間界におけるデータ管理も行なっていますから」
「人間界も……」
それで、神霊人事部なのか。神様や精霊は然り、人間についても把握しているらしい。
「今、IDバングル上に反映させます。お待ちください」
思兼さんがメインコンピュータからIDバングルへデータ転送し、立体映像上に映し出す。
「この人が、種狛部長補佐の……飼い主」
一見した所、私とそこまで歳の変わらない女性のようだ。優しげだが何処となく憂いのある雰囲気を纏っている。
(……本当に? 種狛部長補佐が恨むほど何かしたなんて、考えられない)
原因は飼い主では無かったのだろうか。
「思兼さん、今この女性の居場所って分かりますか?」
「……それが」
思兼さんが言葉を失う。
「彼女は、故人のようです。種狛部長補佐が起こした猫又未遂事件よりも、もっと前に亡くなったと記録にあります」
「!」
「彼女のIDデータへアクセス出来たので、確認しました。氏名は、『船槻 朔』。
旦那様と二人暮らしをしていたが、離縁。
その後、野良猫だった種狛部長補佐を彼女に拾われたようです。数年後、船槻さんは仕事中に緊急搬送され、そのまま。ご病気だったのでしょうか」
「そんな…………」
「僕の意見ですが、種狛部長補佐は″彼女が居なくなった事により世話を放棄され捨てられた″という理由から、人間に対して憎悪を募らせた、と考えていますが……伊縄城さんは、どうお考えでしょうか」
「私は、」
種狛部長補佐の言葉がリフレインする。
″もう、二度と、騙されない″
思兼さんの読みは十分腑に落ちるのだが、種狛部長補佐のあの言葉と哀しげな表情が私の心を掻き乱す。
種狛部長補佐は、船槻さんが亡くなっている事を理解しているのだろうか。
″仕事中″という事は、種狛部長補佐は側にいなかった可能性が高い。家猫ならば、留守番をしていたはずだ。
(もしかして)
「思兼さん」
段々と真相に近づいてきた予感がした。
「打ち合わせをしませんか。私に、考えがあります」
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