第25話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が美女とお泊まり女子会した件・その1
「これで大丈夫、かな」
トートバッグに荷物を押し込み、深い息を吐く。
あと少ししたら、いよいよ大都野さんのお部屋に参上する。
本日は、お泊まり女子会の日である。
ここしばらく仕事以外、ほぼ無頓着な私だったが、あまりにも怠惰過ぎる状態で行くと失礼に値する為、今回は入念に準備をした。
特に二点、特筆したい。
まずは、自身のお手入れについて。
直近ゆきさんから頂いた極上のスキンケア用品を余す事なく使用させてもらった。
やはり使った分だけ効果は出るようで、疲れ気味の肌がツルツルに変化したのは純粋に嬉しい。
植物と同じように、毎日ほんの一手間を惜しまない事が大切だと学んだ。
自分に興味が無さ過ぎて、この歳まで一切己を磨く事をして来なかったのはやはり色々ダメだなと悟る。
他にも、化粧品やら香水など、曲がりなりにも色々試してみて一番性に合った組み合わせを研究した。
先日、思兼さんにたまたま気付いてもらえたのは驚いたが、指摘された時とても感激した。
(しばらく、この香りにしよう)
手首と首筋に吹き掛け、香水をまとわせた。
持参した着替えも新品である。
これで、一応最低限の身だしなみは整った。
次に、手土産である。
女性が喜ぶもの……足りない頭で精一杯考えた結果、手作りスイーツを持って行く事に決めた。
何故ならば、ちょうど八木羽屋さんからレシピを教わったからである。
しかも、アレンジ付きの豪華版だ。
不器用な私でも失敗せずに作れたので、八木羽屋さんには後で御礼をしたいと思う。
(うん。忘れ物、なし!)
指差し確認し終えた私は、意気揚々と扉を開けた。
* * *
予め教えられていた部屋の前に辿り着き、呼吸を整える。
《コンコンコン》
思えば、女友達の家に泊まりに行くなど何年ぶりの話だろう。
皆、結婚して家族を持った為そんなやり取りは二十代の内だけだった気がする。
《ガチャリ》
「はーい! お待たせしまし……んんっ?!」
扉を開けた途端、大都野さんの表情が曇る。
(えっ! もしかして私、香水つけ過ぎちゃって匂いキツかったかな……!? ど、どうしよう)
あわあわと焦っている私に、大都野さんが開口一番意外な言葉を言い出した。
「伊縄城さんっ!
ちょっとそこで待っててください!!」
バタン! と扉を閉められ、廊下で一人待ちぼうけになる。
大量の汗が止まらない。
呆然と立ち尽くしていると、再び大都野さんが現れ、手に何か持っている。
「伊縄城さん、これ飲んでください。
その間私、″お清め″をしますので」
コップに入った水のようなものを渡され、有無を言わさず飲むよう勧められる。
《ゴク》
(!! しょっぱ、……これ、塩水……?!)
大都野さんは私に構わず、手にしているふさふさとした白い紙と葉が付いた長い棒を私の頭上に掲げ、左右に振りかざす。
難しい言葉を何度も真剣に唱え続ける大都野さんを見ていたら、体の中が不思議な軽さに満ちてきた。
まるで長年のデスクワークで培った肩こりや腰痛が一気に消え去るかのように、爽やかな気分になる。
塩辛い水をようやく飲み干した後、ちょうど大都野さんの長い詠唱が終わった。
「お疲れ様でした。これで伊縄城さんにかかっていた悪い気は消えましたよ。
一体どうしてこんな状態になってたんですか?」
「!! ど、どうしてそれを……!
私、ずっと悩んでて……」
「あっ、すみません!
いつまでも廊下に待たせてしまってましたね。
ひとまず、お部屋でお話しましょう!」
「お、お邪魔します。今日はよろしくお願いします!」
私は、ようやく大都野さんのお部屋に案内された。
* * *
「かくかくしかじか、で……
すみません、せっかくの日にこんなお話してしまって……本当に助かりました。ありがとうございます」
可愛らしいソファに通され、深々と謝罪する。
「そうだったんですか!
伊縄城さんがそんな大変な事になっていたなんて……あ、これぐらい全然気にしないでくださいね。
私、水の精霊なので小さな気の濁りにも敏感なんです。呪詛系は放っておくと事態が悪化するどころか解除不能になる事もありますから、どうにかなって良かったです」
大都野さんの淹れてくれたアイスティーを頂き、話を聞いてぞっとした。
ふと、大都野さんが私の首元に近付き、くんくんと匂いを嗅いでいるので思わず飛び退く。
「わぁぁっ! すみません!
私、やっぱり臭いですかっ!?」
「とんでもない! 伊縄城さんの付けてる香り、凄く良いなーって思って。驚かせちゃいましたね」
「ほ、本当ですか、良かった……」
へろへろと力が抜け、ソファに倒れ込む。
「この果実の香り、キウイでしょうか?」
「あっ、当たりです。珍しいなーと思って。甘酸っぱい香りが気に入って……」
「伊縄城さんのフレッシュなイメージにも合ってますし、凄く良いと思いますよ。私も最近、マンネリ化しちゃってるので、新しく開拓したくなりました」
(大都野さんのお墨付きをもらえた!)
私は心の中で小躍りした。
「そういえば、聞いてほしいお話って何でしょうか。すみません、私ばっかり先に話してしまって」
急に大都野さんがソワソワし、顔が赤くなる。
(この反応は……)
「あの……先にお酒をご用意しても良いですか?
ちょっと、酔いが入らないと……恥ずかしくなっちゃうので」
* * *
大都野さんが大層な酒瓶をズラリとテーブルに並べ、彫刻細工が美しい特注グラスに注いでいく。
多分、彼女は恐ろしく酒豪なのだと思う。
歓迎会の時も、物凄いピッチで飲み続けていたが全く酔っていなかった。
常人が大都野さんのペースで飲んでいたら、確実に潰れる。
私はこれまでの経験上、一番弱いお酒を頂く事にした。美女の家で泥酔はさすがに体裁が悪い。
「実はですね……最近、好きな方が出来たんです」
「えぇっ!」
(やはり、恋話だ!)
そんな予感がしていた。
「ど、どこの部署の方ですか?」
「えっと、神霊人事部の……」
《ズキン》
(!?)
自分の反応に驚く。
どうして、こんなに胸が痛むんだろう。
私は何故だかその先の言葉を聞きたくなくて、何とも微妙な表情になってしまった。
「檜川さん、です!
きゃーっ、ついに言っちゃった〜!」
「あっ…………ああ! 檜川さん!!
なっなるほど!」
ドキドキと心臓の音が止まらない。
大都野さんには申し訳ないが、私は心底ホッとしていた。
「仕事で何度か手伝ってもらって頂いてから、……素敵な方だなって思ったんです。
それから、頭から離れず何だかボーッとして落ち着かなくて。……この気持ち、伊縄城さんに一番最初に打ち明けたかったんです。……突然すみません」
(ああ……良いなあ。大都野さんなら、きっと上手くいく気がする)
「打ち明けて下さり、ありがとうございます。
上手くいくように、応援させてください!」
「ありがとうございます!
あ、伊縄城さん知ってました?
八百万祭って毎年カップルが大量に出来るって有名なんですよ」
「!! 本当ですか……っ!?」
新情報に思わず身を乗り出す。
「宅旗先輩夫妻も、昨年のお祭りがキッカケでお付き合いをされたみたいです。私もそうなれたら良いなって、……密かに期待しちゃいます」
「そ、そうなんですね……」
正直、委員会がそれどころではないぐらい多忙過ぎて、お祭りを楽しんでいる暇があるかすら分からないが、どうか私にも出会いが欲しい。
ちょうどお酒が良い具合に回ってきた。
大都野さんがこんな大事な話をしてくれたのだ。
私もこの機会に、″婚活″について話しておこうと決心した。
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