第20話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が新たなイケメンと遭遇した件
私の真剣な気迫に衣吹戸課長がゴクリと喉を鳴らす。
話を続けようとした所で、衣吹戸課長に手を前に突き出され『待った』の動作をされた。
一瞬驚き、口を噤むと周囲の様子が騒がしい。
昼食の準備をする為に食堂関係者の出入りが盛んに目立つようになってきた事にようやく気付いた。
衣吹戸課長が急いで端末に文字を打ち込む。
『ここだと他の社員の邪魔になっちゃうから、良ければ神霊情報管理課で話を聞かせてくれないかな?
ぼくもサーバールームに戻らないと……(>_<)』
「あっ。確かに! ぜひ、こちらこそお願いします」
私達は移動を開始した。
* * *
「……………」
「……………」
(……果てしなく気まずい……)
こうなる事は大体予想はついていたが、耐え難い沈黙が続き、すでにこの場から逃げ出したい。
しかも、エレベーターという狭い密室だ。
より時間の経過が遅く感じられた。
私自らが直接お願いし衣吹戸課長の貴重な時間を割いているという現状もあり、ここは多少なりとも場を温めないと失礼に当たるのではという結論に達する。
この重苦しい雰囲気を吹き飛ばす為、適度な雑談はないものかと考えていると、肩をツンツンとつつかれる感触に反射的に振り返る。
「?」
「〜〜〜〜っ!!」
何故か衣吹戸課長の方が驚いている。
「あっ……っ、い、いなわ、しろ、さんっ」
「はっ、はい! どうしました?」
ダカダカダカと素早く端末に打ち込み、私の前に画面を出される。このやり取りにも、大分慣れてきた。
『しばらく業務が立て込んでたから、部屋が綺麗じゃないんだけど、驚かないでね!
着いたらすぐ片付けるから、ちょっとだけ待っててm(_ _)m』
「えっ! いえ、お気になさらないでください!
よろしければ、お手伝いしても大丈夫ですか?」
「!? い、いい、の……?」
「はいっ、もちろんです。私が急に押しかけてしまったので、むしろやらせてください!
忙しい中、付き合わせてしまってこちらこそすみません」
「……っあ、ありが、と、……」
《ポーン》
ちょうど目的の階に到着する。
気のせいか、ほんの少し衣吹戸課長の顔が赤くなっていたように見えた。
* * *
ゲートを通過し、普段衣吹戸課長が常駐している部屋に辿り着いた。
扉を開けると先に宣告されていた通り、中々の惨状っぷりと化しており、唖然とする。
『せっかく来てもらったのに、掃除までお願いしちゃってごめんね。伊縄城さんはそこの本棚付近を整理してもらえるかな? 大体で構わないから。
よろしくお願いします(>_<)』
「承知しました!」
改めて、私は本棚に照準を合わせた。
分厚いファイル類がそこかしこに散乱しており、かなり急ぎの案件に着手していた事が分かった。
無造作に開かれたページに目を落とすと、何やら難しそうな文字の羅列がひしめいている。
(数字がいっぱいだ……システムのプログラム、かな?)
見ても全くもって意味不明なので、さっさと書棚に戻して行く。
こんなものを衣吹戸課長は四六時中見ているのかと思うと、頭が爆発してしまいそうだ。
テキパキとナンバリング通りにファイルを整列させ、最上段に手をかけようとした時、そもそも奥まで届かない。
「くっ……、っ……!」
つま先立ちになり、ぷるぷるとファイルを押し込もうと手を伸ばすが、ひ弱な手首では支えられず、不可抗力でぐらりと溢れてしまった。
(あっ、落ちちゃう……!!)
無情にも、上からの落下を免れない事態になり、咄嗟に目を瞑る事しか出来ない自分が悔やまれる。
その後の衝撃を覚悟していたが、予測した痛みは生じなかった。
恐る恐る、目を開く。
「だ、だい、じょ、ぶ…………っ?」
衣吹戸課長が寸での所でファイルを止めてくれたらしく、御礼を言おうと振り返った……
はずだった。
「!!」
激震が走る。
私を見下ろすような形でこちらを伺う衣吹戸課長。
いつも目元全体に隠れている長い前髪が、重力により移動し、表情が全て公に見える状態になっていた。
(い、イケメンが、いる……ぞ!?)
私の目の前に、正真正銘のイケメンがいた。
垂れ目でつぶらな瞳は長い睫毛に縁取られ、いわゆる″童顔″に分類される、中性的な顔立ち。
純真無垢な少年らしさが、眉目秀麗な面持ちをより際立たせ、更にたくましく強靭な体格とのアンバランスさに普通のイケメンとはどこか違う、不可思議な魅力を纏っている。
急にこの距離感を意識してしまい、私はどうにか平静を装った。
「ど、どうかした…………?」
私の反応に戸惑ったのか、眉毛をハの字にし困り顔をしている。
それもまた見る者が見れば母性本能をくすぐられる表情であり、先程まで隣で飴を頬張っていた者と同一には思えない。
「ごっ、ごめんなさいっ! 取り乱しました!
助けてくださってありがとうございます、お話の続き、しましょう!」
何故だか無駄に早口になってしまったが、しょうがない。
イケメンが突然、目の前に出没するのが悪い。
未だ訝しげな衣吹戸課長を見ないふりをして、私は本題に入る事にした。
* * *
「緊急、SOS、の事?」
取り急ぎ片付けた簡易的な応接間に丸椅子を並べ、私は力強く頷いた。
「はい……訳あって、とある社員と揉めてしまっているのですが、IDバングルの緊急SOSが使用出来ないぐらい素早い相手で……他の手段でどうにか出来ないか、ご相談に来ました。
もし、私の知らない有効な機能があれば、ぜひご教授頂きたくて」
名前は伏せたが、ほぼありのままを伝える。
少し沈黙した後、衣吹戸課長が画面に文字を打ち込む。
『緊急SOSが必要なほどって……何があったのか分からないけど、あまり良くない状況だね。
伊縄城さん。まさかとは思うけど、一人でどうにかしようとしてない?(・・;)』
心配そうな文面に、一瞬だけ迷ったがはっきりと返答する。
「……すみません。色々思う所があってです……ね。
その相手は私に関わる近しい方に対して、何かしてくる可能性があるんです。思兼部長や衣吹戸課長に、今後何かあったら思うと、私……」
色々な感情が渦巻き、膝に乗せていた拳に力がこもる。
「相手に、これ以上好き勝手をさせたくないんです。
お願いします、どうか……知恵を貸してください!」
ダメ元で、深々とお辞儀をする。
(完全に私個人のお願い事だし、断られてもその時は潔く諦めて別の方法を探そう)
そう、胸に誓ってここまで来た。
カタカタと静かにタイピングする音が響く。
(あまり期待する内容は書かれていないだろうな……)
怖々と画面に目を移す。
『実は……伊縄城さんに相談される前に、思兼部長からも、似たような事を依頼されてたんだ。
緊急SOS自体、万が一行動に起こせず未遂に終わる可能性があったら危険だからね。
IDバングルも種類があって、一般社員用だと色々機能が制限されているんだ。
今、新しいバージョンの物を伊縄城さん用にテスト開発してる所だから、また連絡するね(^ ^)』
「えっ!? そうだったんですか……!」
衣吹戸課長が立ち上がりデスクの上にある、おそらくは試作用のIDバングルを手のひらに乗せて見せてくれた。
見たところ、普段目にするような何の変哲もないIDバングルだ。
ピッピッと手早く操作すると、見覚えのある立体映像が飛び出る。
つい先程、私が本棚からファイルを落とす瞬間が数秒だけ流れた。
思わず息を飲む。
『思兼部長から要望があったのは、監視機能。
自動で録画し、証拠となるデータをシステムに転送する。
後は、伊縄城さんも言っていた緊急時の連絡の改良だね。これが上手くいけば、他社員達にも汎用出来ると思う。
まだ時間はかかるけど、お役に立てるように務めますo(^_^)o』
衣吹戸課長の後押しと、何より思兼さんの陰ながらの配慮に胸を打たれた。
もしかして、立て込んでいたのはこの件も関係していたのではないだろうか。
「ありがとうございます! 引き続き、どうかよろしくお願いいたします……っ!!」
* * *
(良かった……どうか、完成しますように)
サーバールームを後にした私は、祈る気持ちで帰路へと向かうのだった。
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