第14話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメンだらけの委員会で四苦八苦した件
猫耳男の強烈な一件のせいですっかり打ちのめされた私は、昼休憩の時間になっても食欲が湧かず、カフェで簡単に済ませる事にした。
檸檬ソーダを注文し、カフェの外を抜け中庭に出る。
何となく、外の風に当たりたかった。
点々と設置されている長椅子のうちの一つに腰掛けると、強い脱力感に襲われた。
「……ふぅ」
無理矢理にでも集中する為に熱を入れ過ぎたのか、頭が痛い。瞬きも忘れて画面を凝視し続けたせいだ。
目頭に手を当てて、瞼を閉じる。
明確な敵意を持って私を睨むあの緑色の目が、目の奥に焼き付いて離れない。
″正体を暴く″と啖呵を切られたが、私のようなちっぽけな生き物にどうこうできる力などあるはずもない。
一体、あの男は何を考えているのだろうか。
《ピトッ》
突如、首筋に冷たい何かが触れ、驚きで飛び上がる。
「ひゃあああああ!?」
振り返ると、背後に御影さんが立っていた。
手には瓶に入った飲み物を持っており、先程の冷たさはどうやらそれが原因のようである。
もう片方には山のような手提げ袋を持っている。
「目ぇ覚めたか」
「元々起きてます!! もう、びっくりしたじゃないですか。御影さんはこれからお昼ですか……?」
「ああ。さすがに朝から動きっぱでマジ腹へった。隣座るぜ」
御影さんは返事も待たずに豪快に座り、袋からガサガサとコロッケパンを取り出すと一心不乱に食べ出した。
(あの袋の中身……もしかして全部昼ごはん?!)
御影さんの気持ちの良い食べっぷりに釘付けになっていると、突然話しかけられた。
「お前、昼メシ食わねぇの?」
「あ、はい。ちょっと……食欲無くて」
「はぁ? ナメてんのか。
食わずに動けるわきゃねぇだろうが。ぶっ倒れんぞ」
「すっ、すみません……」
御影さんの気迫に、たじたじになる。
確かに、力仕事がメインの御影さんから見たら食事を抜くなど自殺行為も甚だしい。
正論すぎて平謝りしか出来ない。
うなだれていると、急に何かを放り投げられ、慌てて両手で受け止める。
「食っていいぜ」
見ると、たまごサンドの包み紙が手の中にあった。
「これは御影さんの昼ごはんじゃ……」
「一つ貸しな。後で美味いメシ奢れよ」
不敵に笑う御影さん。
「ありがとう、ございます」
折れそうだった心に一筋の風が吹く。
包みを開け、一口、大きくかぶりついた。
「…………」
もぐもぐと食べ進む。
噛めば噛むほど、自分が空腹だった事を思い出す。
一人では食べる気も起きなかったが、こうして横に御影さんがいるだけで美味しく感じる。
いつの間にか全て平らげた御影さんが口を開いた。
「お前って八百万祭の委員だったよな」
「あっ、はい! そうです」
「今日の委員会、欠席って伝えてくれ。上長に急ぎの仕事入れられちまった」
「分かりました。相変わらずお忙しそうですね」
「体よくこき使われてるだけだろ。次回は出られるよう調整しとくんで、頼むわ。じゃーまたな」
ハイスピードで食べ切った御影さんを見送り、大きく伸びをする。
落ち着いたら、段々眠くなってきた。
心地良い風に吹かれ、私は休憩時間いっぱいまで仮眠をとりながら過ごした。
* * *
委員会の時刻となり、指定された会議室へと到着する。ノックをして入室すると聞き慣れた声が響いた。
「シロちゃんお疲れ様〜! 今日はよろしくね♪」
「お疲れ様です。伊縄城さん」
すでに八木羽屋さんと思兼さんが待っていたらしく、明るく出迎えてくれた。
「お疲れ様です。あれ? 他の方々はまだ来てないんですか?」
「そーみたいだね〜。オレ、めっちゃ後片付け速攻で終わらせてきたのにさ〜〜」
「なるほど……あ、御影さん欠席との事です。急用の業務が入ったそうで」
「かしこまりました。久久野主任からも同様の連絡がありましたので、仕方ないですね。残りは……」
《ガチャリ》
ちょうどそこへ他の委員が入室してきた。
振り返り、一目見て戦慄する。
「遅れてすみません」
にこやかに挨拶する、気さくそうなイケメン。
スラリと伸びた手脚と、クリームイエロー地のストライプシャツが悪目立ちせず良く映えている。
初対面ならばきっと彼を歓迎していただろう。
何故なら、特徴的な縞柄が浮かぶ焦茶色の猫耳と、見覚えのある緑色の目をしていたからだ。
「お久しぶりです。思兼部長に八木羽屋副料理長。御二方ともお変わりなさそうですね」
「やっほ〜♪ ねこまる、少し焼けた?
最近アツいから外回り大変そーだね〜」
「……″ねこまる″は勘弁してと、前にも言ったはずですが」
部長補佐の耳がぺたんと折れ、いかにも困った表情をしている。
八木羽屋さんは相変わらず誰に対しても対応がブレない。
唖然としていると、この状況についていけてないと判断したのか、思兼さんが声を掛けてきた。
「伊縄城さん、入社時の挨拶回りにまだご紹介してませんでしたね。彼は神霊広報部の種狛部長補佐です。主に会社の宣伝活動や取材で外部に出張する事が多く、僕もこうして会うのは久方ぶりです」
「そ、そうなんです、ね……」
なるべく目を合わせないように遠巻きにしていたのに、わざとなのか種狛部長補佐から私の前に近寄ってきた。
「ご挨拶が遅れてすみません。神霊広報部の種狛です。貴方がかねがねお噂に聞いている伊縄城さんですね。お会い出来て光栄です。委員会でご一緒になったのも何かの縁ですから、今後ともどうぞよろしくお願いします」
「伊縄城、です。こちらこそ、よろしくお願いします……」
あからさまに慇懃無礼な挨拶をされ、虫唾が走る。
この男、表向きは友好的に振る舞っているが目が全然笑っていない。
まさに、文字通り猫を被っているのだ。
「すみません皆さん。これからまた取材で留守にしますので、本日はこのまま失礼します。それでは、伊縄城さん。また後ほどゆっくりとお話しましょう」
微笑んでいるようで一切笑っていない目で凝視され、背筋が凍る。
「またね〜。とりあえず次回色々決めよー!」
「……お疲れ様です……っ」
精一杯の返事をし、早く居なくなってほしいと願いながら目を背ける。
バタン、と扉が閉まり再び三名だけの空間に戻った。
「ハァ〜〜。結局、今日はマトモに委員会出来なさそ〜だね〜。どうするー? オモッチ」
「こうなるだろうとは思っていた。今日は最低限、役割分担と次回への課題とテーマ、スケジュールを粗方準備しておこう」
思兼さんは特に動じる事もなく淡々と意見を述べた。
「それから、伊縄城さん」
「はっ、はい」
私の方をじっと見据えると、肩に手を添えて目線を近付ける。
「何か、ありましたね。種狛部長補佐と。話して頂けますか?」
ビクッと肩を震わせる。
思兼さんに見抜かれていた。
少しだけ、口に出す事に抵抗があったが、以前『頼ってほしい』と直接言われた事もあり、無碍には出来ない。
腹をくくった私は、包み隠さず全てを伝える事を決意したのだった。
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