第1話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン付喪神と出会った件
私、えむこ。30歳。
ちょっとぽっちゃり体型のしがないOLだ。
地味オブ地味で強いて特徴はない。
現在、婚活真っ最中のジリ貧アラサーである。
夢は、お嫁さんになること。
他には何も望まない。ただ、それだけ。
それだけだったのに。
* * *
「伊縄城さん、コピーお願い。これとこれ、10部ずつ」
「あっ、はい! かしこまりましたっ」
株式会社 丙午叉 庶務課。
日中私はここで働いている。
周りは年配のおじさんおばさんばかりで、私が1番下っ端。
仕事内容は特に決まっていない。
皆がやりたくない雑務をひたすらこなすのみ。
出会いなどあるはずもなく、不毛な日々を送っている。
《ガタン、ガタン、ガタン……》
(このコピー機、すぐ詰まるから嫌なんだよなぁ。また変な音してるし……)
テープで雑に補強され、今にも壊れそうなトレイに紙をセットし、祈る気持ちで見守る私。
時折重たげな音を立てながら、コピー機が懸命に仕事をしている傍で、私はいつしか昼ご飯の事を考えていた。
単調な仕事。
楽だし、定時で帰れるからまだ続いているけれど。
『何の意味があるのだろう』
ふと考えてしまう。
一度やれば誰でも出来る。
私がすぐに辞めても、特に支障はない。
(仕事、辞めたいなぁ……でも……)
″29歳まで″にこの会社とおさらばしようと決めて婚活をし始めた。一人で働くことに疲れて、二年くらい前から結婚の二文字が頭をよぎったからだった。
アプリ・街コン・友人の紹介――結婚相談所。
軽い気持ちで始めた婚活結果は、全敗だった。
″選ばれない″ストレスは想像以上に重く、悲しい。断られる度に過食でみるみる太り、人と会う事さえ億劫になっていった。
故郷の友人達は既に子供もいる。
楽しそうな年賀状を送られてくるたび、自分とは違う世界にいるのだと思い知らされた。
やる事なす事上手くいかない毎日。
仕事でも恋愛でも、何もかも。
誰からも必要とされない私は、現在進行形で人生を嘆いていた。
(今日は近所のインドカレー屋行こう。
ナン、おかわりするんだ)
気分が乗らない時は辛い物を存分に浴びるに限る。
そう、決意した瞬間。
《ガガガッ!》
嫌な異音が響き渡る。紙詰まりだ。
(あああ……嫌な予感、的中……)
渋々とコピー機奥のパッキンを開き、クシャクシャになった紙を取り出す。
1分掛からずに警告マークは消えてくれたが、ちっぽけな紙屑がみじめな私と重なり、深いため息を吐いた。
「はぁ……もう誰でもいいから……」
私を、愛してくれないかな――――
《その願い、叶えましょう》
急に辺り一面眩しい光に包まれ、私は思わず目を瞑る。恐る恐る目を開くと、そこには見慣れないスーツ姿のイケメンが私の前に座っていた。
なぜか、コピー機の上に。
「えっ…………………えっ?」
思考が停止し、コピー機を凝視する事しか出来ない。
(私、何か変な事したっけ???)
「突然こんな所からすみません。
僕は守護精霊でして、決して怪しい者ではございません。気をしっかり、どうか落ち着いてください」
「…………」
自称・守護精霊は、訳の分からない此方を眺め、爽やかに微笑んでいる。
説明されても、怪しい事に変わりはない。
「今までこのコピー機を大事に使っていただき、ありがとうございます。僕は貴方様に感謝と、御礼をしたくて参上した次第です。驚かせてしまってすみません」
いや、深々とお辞儀をされても。
状況が意味不明すぎてついていけてない私に、謎のイケメン精霊は気にせず話し始めた。
「私事ですがこの度、付喪神に昇進しました。
恩返しとして初仕事をさせていただきますので、以後よろしくお願いいたします」
饒舌に話す守護精霊もとい付喪神。
(精霊も昇進制度があるんだな……って。
私何でこんな話、まともに受け入れちゃってるんだろ……)
「よ、よく分からないんですが……初仕事……?」
「はい。今し方、御依頼された件です」
「えっ。知らないです、けど」
「いいえ。確かにおっしゃいました。
″愛してくれる方″を探して欲しいと」
「!!」
「その強い想い、しかと受け止めました」
自称・付喪神は、真っ直ぐ私を見て語りかける。
気付くといつの間にか手を握られていた。
「な、な、何……」
イケメン耐性が皆無の私は激しく動揺した。
精霊だか神様だか何だか分からないけれど、出会って早々に距離感が近過ぎではないのだろうか?
(うっ、近い……やめてやめて! 心臓に悪すぎる……!!)
グイグイくる強引なイケメン付喪神に、すっかり気圧されてしまい、私はつい口走ってしまった。
「い、言った……と思います……」
「ありがとうございます。
長年、優しく労ってくれた貴方様に、少しでも奉公出来るならば、本望でございます。それでは、目を閉じて頂けますか」
私はイケメンパワーに成す術もなく、大人しく言う通りに従った。
「ようこそ。神々や精霊が集う新世界――
八百万へ」
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