修学旅行で川下りに来た~中学生、山崎健太の体験記~
こんな感じなのかなあ。
俺の名前は山崎健太中学三年だ。
修学旅行で福岡県柳川市にいる。
よりによって、今年はコロナが流行って、学校生活が一変した。
長いこと休校の挙句、毎日検温やマスク、うがい、消毒をしなくちゃなんないし、文化祭などのイベントが軒並み中止、縮小された。
そして、学校生活最大のイベントである修学旅行ですら、隣県への旅行となった。
本来なら京都だぞ・・・福岡って近くないか・・・はあ。
マイクロバスは川下りの駐車場で停まる。
川下りって・・・そりゃ乗ったことないけど、なんだかジジくさくね。
しかも、一時間も小舟に乗っているって・・・ダルいし・・・ま、スマホがあるからいっか・・・。
と思っていたら、川下り中はスマホ禁止だと・・・横暴な先生だ。
せめて抑圧された日々を送る健気な中学生の俺たちに、少しばかりの娯楽を与えてくれよ。
整列し、舟に乗る準備をする。
アルコール消毒・・・ここでも?手が荒れるんだよね。
俺って敏感肌なんだ。
間隔を空けて、ソーシャルディスタンスだと、面倒くさいね。
一隻に乗る人数は15人だそうだ。
なので、クラス半分別ってことになる。
まぁ、気になる咲ちゃんが同じ舟だから文句はないね。
舟に乗ると結構揺れる。
船頭が奥に詰めてすぐに座れと言うけど、思春期の俺らには、座りたいポジションってのがある訳で詮索しないで欲しいね・・・早く座らないと揺れて危ない?分かったよ。
ゆっくりと舟が出発する・・・にしても、遅っ、このペースで一時間ちょっとって・・・ダルいっしょ・・・急流くだりみたいなのはないの?何、風景や景色を楽しむ旅・・・って、ダメだこりゃ。
本当にのっそり、ゆっくり進む。
それに関心のない柳川の街のガイド・・・ああ、眠くなってきた。
船頭と目があった悲しそうな顔しているな・・・そりゃ、こんな退屈な話は、俺ら聞かないって中坊だぞ。
「鬼〇の刃」の話でもしろ。
俺は目を閉じた。
コツン、ポチャ、スー。
コツン、ポチャ、スー。
コツン、ポチャ、スーッ。
コツン、ポチャ、スーッ。
秋の日差しが気持ちよい。
昼寝するには絶好の日和だ。
ちらりと目を開ける。
やべっ、先生が睨んでいる。
俺は景色を見た。
どこか懐かしく感じる風景。
ちらりと咲ちゃんを見た。
彼女は船頭のガイドに耳を傾けながら、じっと景色を見ている。
少し、彼女が大人に見えた。
全く知らない童謡や柳川の歌を船頭から聴かされ、俺は苦笑いをする。
また、船頭と目があった・・・そんな悲しそうな顔するなよ。
若者にこのアトラクションは酷だって。
だって、退屈なんだもん。
だけど、年をとって来ると違うんだろうか・・・なんとなく年を重ねたらよさが分かるような気がしないでもない。
舟はのっそりのっそり進みながら、バスの待つ終着点にたどり着いた。
俺は伸びをする。
少し寝たせいか身体が軽い。
「残りの修学旅行楽しまれてください。また、機会があったら川下りにも来てくださいね」
俺は思わず頷いていた。
いつか、大人になって、また来て確かめようと。
思い出になれば、よいですね。