妖精姫③
お付きの人が身構えるのもわかる。傍目には、私が彼女に目つぶしする寸前みたいだから。
昔、ドキュメンタリー番組で、どこかの学校の先生がこうしてた覚えがあるんだ。彼女の視線の先を私の指に固定して、一定の速度で移動させる。今度は自分に目つぶしする感じ。あ、目が合った。
長くはもたないだろうから、簡潔に。
「私、キララ」
「わたし」
まぁ、なんて可愛い声! でも、残念。空を流れる雲に負けてしまった。
隣では、乳母と思しき女性が声にならない声を上げている。まあ、まあ、まあ!ってところかな?
私としては、妖精姫の声を聞くことができて満足。いい気分のまま、お暇してもいいんだけど、彼女もいまゆったりした雰囲気だし、もうちょっと粘ってみようかな。
画板から彼女の描いた絵を外して、乳母やさんに渡す。
「こちらをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
感涙にむせびそうなるのを堪えて、見事な鳥を見、また私を見る。
私はまっさらな紙に、いわゆるこっ○りさんの表をキリル文字で作成。もう一度、彼女の視線を捕まえて、今度は用紙の文字につなげる。
「私、キララ」
指さしたのは、「私」の頭文字と、「キララ」の頭文字だけ。
桜貝のような爪のついた彼女の指が動いた。同じように「私」の頭文字と、彼女の名前の頭文字を順に指す。
「わたし、ユーニー」
それきり、彼女は興味を失ってしまったけど、隣では乳母やさんが声を押しころして泣いていた。
駄目元だったけど、これは、うまくいったって考えていいのかな?
私も昔、本で読んだだけなんだけど、うつろいやすい思考を一瞬とどめておくのに有効らしい。まあ、文字を理解してることが前提になるけど、ごくまれに教わらなくてもできる人っているよね? ユーニーって賢いんだ。
「よろしかったら、こちらもどうぞ」
わずかに耳の先が垂れてる女性は、声もなく何度もうなずく。
「彼女の気分の良さそうな時に。強制はしないであげてくださいね」
そこは、彼女を長く支えてる人だろうから大丈夫だとは思うけど、つい老婆心で。
なんと拝まれてしまう、私。失礼にならない程度の速足で逃げ出した。
翌日、ユーニーは来なかった。まあ、自由な人だから、時間帯が違ったのかもしれない。避けられたんじゃないといいけどって思って苦笑する。彼女の場合は避けるとか、避けないとかないよね、きっと。
その次の日は木陰にいたけど、なんか沈んでるように見えたので、遠慮したんだけど、乳母やさんの目に引き寄せられた。すごい、口ほどにものをい言う目だ。縋るようなっていうの?
「ごきげんよう」
ユーニーには普段から三人の騎士がついていて、もちろん物陰で目立たないようにしてるけど、ただの令嬢じゃないのはわかってた。
ただ、彼女を前に身分とか立場とか口にするのは無粋な気がして、それはこのお付きの女性もわかってくれてるんじゃないかって、私が勝手に思ってるだけなんだけど。
「私のような身分のものが、このようにお声がけすることをお許しください」
深々と頭を下げられる。
「お気になさらないでください。私もユーニー様には失礼をしていますから」
「そのようなことは」
慌てたように首を振り、すぐに背筋をただしたのは、護衛がいつもの倍いることと関係があるんだろうな。




