家族①
正式な謁見ではないので、王は執務室にいて、仕事の合間にお目通り。頭を下げ続ける娘に、「うむ」と一言。
「顔をお上げください」
裁可を待ってた宰相でもある王弟が、気を遣って声を掛けてくれなければ、横にコロンと行ってたよ。ありがと、おじちゃん。
して、この王様、そっけない割には、ちらちらと書類越しにこちらを見ている。バレてますよ? えーと、照れ屋さんかな?
顔の造りは、わりと平凡だ。どう見てもアラフォーなことにびっくり。でも、まあ、王様だからね。ありと言えばありかな? はちみつ色の髪は豊かに波打っていて、そこだけ遺伝子いただきました、あざぁっす。
ささーっ、そんな効果音が聞こえそうなほど素早く、宰相はじめお付きの人たちが壁をつくり、私の退出をうながした。
なんだったんだ一体? 疑問はすぐに氷解する。
隣の広間で、大テーブル囲んで王妃が会議をしていた。メンバーはさっきの宰相と、大臣という名の大貴族たち。どうやらここですべてを決定し、王は裁可と称してサインをするだけらしい。
休憩時間を狙ってごあいさつ。
「よくできました」
あたたかな声ではないけれど、いちおう褒めてくれた。氷の微笑ってやつだ。ひぇっ、ゾクゾク~。癖になったらどうしてくれんの?
でもまあ、私の中身は四十路過ぎのお局様だ。小娘なんぞに負けん!
「おちごとがんばってください、おたあさま」
舌足らずはわざとだよ。天真爛漫な笑みを浮かべ、スカート掲げて、スキップで退出。
あいさつは側近の入れ知恵で、うちの子ちょっとアホかも、とでも思っていておくれ。私の子ですもの、もっと、もっとできるでしょうのスパイラルには嵌りたくない。
ああ、でも国を背負ってがんばってることは素直に尊敬するよ。おかん。どう見ても二十歳前だ。若造りとかじゃない、ほんまもんの十代。
そう、うちのおとんはロリコンだった。ギャーッス! うちの中に、犯罪者がおるで(エセ関西弁)!?
後日、判明したことだが。側室も妾も、王宮に迎え入れられた時は、みんな十二、三歳だった。権力闘争もあるけど、最低ライン守らせてたんだね。母よ、そして実家の祖父母よ。
ちなみにこれを知った時、わずかばかりあった父への親しみの気持ちは消えた。ええ、そりゃもうキレイさっぱりとな。
ぎりぎりノータッチまでは許そう。しかし、実行したらアカン! 私には、どうすることもできないんだけどね。
はぁ、次行こ、次。そして、父と接する時は気を付けよう。
乳母はじめ、よそのメイドたちまで大柄な理由がわかったよ。
私のメイド、ハンナは私に仕え始めた時点で、父の目線くらい身長があった。それがぎりぎり安全ラインらしい。あな、恐ろしや。