パーティーにて⑤
そこへ割り込んできたのは、なんとか商会の支店長。
「ああ、せっかくの御召し物が。よろしければ、ちょうど、ええちょうど、我が娘に誂えたもので恐縮ですが、折よく馬車に積んでございますので、どうぞお召し替えに」
タイミングがよいんだか、わるいんだか。いや、いくらなんでもいまさら強引すぎるよ。マナー的にもどうかと思うし。機を逸するほど、私の行動、予想外だった?
ああ、そうか。ふつうの令嬢ってのは、人前で汚れたドレス姿をさらすなんて我慢できなくて、さっと走り去るものなんだね、きっと。
でも、私こういうの全然、平気。前世では、ずぶ濡れで社長に談判したこともあったっけ。
「気遣いだけ、ありがたく。我々はこれにて失礼する」
さっきの甘さはどこへやら。ぴしゃりと言って、歩き出すワルサさん。なっがい脚でぐいぐい進むわ。うわぁ、はっやーい。
乗り込んだのは街長の所有する馬車。私たちを迎えにきたのもこれだった。
石畳の道は、中央部分だけ完全に雪が取り除かれてる。両脇は、平らに雪が固められていて、時々、橇が通る。つまり、私たちが泊まってる宿と、ペコトス街長宅をむすぶルートだけがこの仕様。
私たちは橇でも一向にかまわないし、はっきり言ってしまえば、ここまでする必要性を感じない。雪掻きにかりだされた人たちも、命令した人も、皆そう思ってたんじゃないかな?
にもかかわらず、ここまで無意味な手間をかけるってことは、貴族はこういう特別感を求めてると思われてるし、実際、そういう連中が多いんだろうね。
なんとなく釈然としないけど、ペコトス街長夫妻は気持ちのいい人たちだったし、ここは素直に、歓迎の気持ちだってことにしたい。
どこかの時点で、勇者の知識が流用されているに違いない馬車の性能は、前世のタクシーとまではいかないけど、広さや内装はこちらの方が勝ってる。ゴムチューブの張られた車輪は、軽やかにまわり、ちょうど馬の蹄が、拍子をとってるみたい。
でも、いまは、それを素直に楽しめない。
「ごめんなさい、ワルサさん。私、ちゃんと振る舞えなくて」
隣合って座る男性は前を向いていて、その横顔は表情がよく読めない。
「なにを言うかと思えば。見事なおさめ方だと感心していたところですよ、奥様」
目尻に笑いじわが現れるのを見て、ほっとする。
「結局なんだったんでしょうか。恩を売るには中途半端ですし。どう思われます? 旦那様」
「いや、深読みするだけ馬鹿をみますよ。私も含めて、しごく単純なのです。この国の連中は」
えー? 私は何度もワルサさんに確認してしまった。
いや、嘘みたいな話だけど、あの商会の支店長が私たちに自分を売り込むための茶番とみて、まず間違いないらしい。
「では、あの男爵夫人も、彼に協力することでなにか得をすることが?」
「それは。得と言えば得なのか」
言葉を濁すワルサさんの肘をぱたぱた叩く。
「なにか?」
「いえ、汚れていたので払って差し上げたのです。もう、きれいになりました」
にっこり微笑むと、困ったような顔。馬車の窓から差し込む夕日に照らされて、三分の一ほど影になる。まったく、かっこいいんだから。
「仮に事実だとしても、よその女性について、男の俺がとやかく言うのは聞こえがわるい。スカレにでも聞いてみてくれ」
「わかりました」
こう言われてしまっては、しつこく聞けない。景色を眺めて気を紛らわそうとしても、つい、視線が横の男に吸い寄せられる。
「やましいことはありませんわよね?」
「ない」
ならいいんですけどね。




