教会へ行こう②
《回復》の旅は、強行することもできないわけじゃないけど、あとあとのことを考えれば、教会と争いたくない。魔道具には、これからも思いっきりお世話になるつもりだしね。
そんなわけで私は、教父様の教えを受けることになった。お互いの都合もあるから飛び飛びに、正味十日ほど通ったよ。
まず、魔導の簡単な歴史。
魔法は神の加護っていうのは、共通した認識のようだ。ただ、この国の人たちは、ほぼほぼ《身体強化》しか使えない。
そこで、大昔のどえらい魔法使いが、魔法陣を開発した。いわゆる、魔法の固定化だね。
ところが、できれば身一つで戦いたい人たちは、せいぜい弓や槍、剣を《強化》するところまでしか認めない。なんとか受け入れられたのは、《火》《風》《氷》《雷》系の効果をプラスするところまで。
自然、その後の研究は、生活を便利にする方向にむかう。まあ、魔法陣に限らず、時々、召喚される勇者から助言をうけたりもして、いまの発展があるそうな。
さすがに、現代の家電ほどパワフルじゃないけどね。スイッチひとつで輝くランプや、クーラーボックスは私も愛用してる。
瞬間湯沸かし器に相当するものも、あるにはあるらしいんだけど。薪を使った方が断然安くすむから、今度はメイドたちの労力を考えて、湯船というのもおこがましい、陶器のうつわに体育座りすることになるんだ。とほほ。
そういった、コストを含めた技術の微妙さを見ればわかるとおり、大量破壊兵器は存在しない。生みだすのを本能的に避けているのか、一部の賢い人たちがあえて止めてるのか。
それで自国に犠牲を出してるのはどうかとも思うけど、こういう人たちがいるおかげで、戦争の悲惨さが少しはましになっているんだろうな。
ちょっと、しんみり。
いかにもケセラサ人らしいお話を聞いた後は、初級に分類される魔法陣をひたすら書き写す。「褻」とか「鬱」って漢字を書き取りさせられる外国人の気持ちを想像してみよう。いや、日本人だって、むきー!ってなるよ。
それでもなんとか、ぱっと見で、なんの魔法陣か言い当てられるようになって、やっと解放された。
ねぎらいの言葉と共に、教父様も下げてるペンダントを渡される。《光と熱》の魔法陣が、一部欠けてるデザイン。まだまだ未熟な身なれど、神の名のもとに大手をふって民を助けていいですよ、ってことらしい。
よく見れば、教父様のものとは中央の石の色が違うから、仮免みたいなものかな?
でも、これによって、私のなす行為は教会の威光を高めることにもなるし、お返しに、よほど変なことをしなければ、教会が私を守ってくれるわけだ。
まあ、《回復》系の魔法陣は存在しないから、住み分けできてるしね。
一応、私はどうも、人というよりこの荒れはてた地を回復させるようにと神に望まれているような気がすると、教父様に伝えた。
それは教会も認めているようで、まあ、念には念をいれて釘を刺したってところかな。
我ながら、私ってあつかいづらいよね。それをへたに聖女認定しないで、助教ていどにとどめたことに好感を持つ。用心深いっていいことよ? これなら組めるところは組んでもいいかなと思う。
ただ、すべての話が終わって、さて帰ろうとしたところで、人払いを頼まれた。
おぅ、気がゆるんだ瞬間を狙って何する気!? まあ、クク先生だけは部屋に残してるんだけどね。
「これまでの対応は、教会に属する教父としてのもの。ここからは、私個人の信仰でございます! どうぞお許しを」
急に早口になった教父様が、床に這いつくばって、私を拝みはじめたじゃないの! ちょっと、これ、どうしたらいいの!?
呆然と立ち尽くす私に、朗々と言い分を述べてくる。
どうやらこの教父様、あの時、隣村に魔道具の修理に来ていたようで、雷鳴のごとく響きわたった天使様の声を聞いたらしい。そして、強烈な光に包まれ、長年悩まされてきた片頭痛がぴたりとおさまったと。
教会には、神や天使の像もなければ、絵画も、タペストリーもない。祭壇の後方に、光と熱を生じさせる魔法陣が描かれているだけだ。やっぱり、太陽のイメージなのかな?
「これまでの不信心をどうか許したまえ。神に祝福されし乙女よ」
おぉっと、現実逃避してる場合じゃない。目の前で、別の宗教が生まれかけてるよ?
ま、まあ、教父様も大っぴらにするとまずいって自覚があるから、わざわざ人払いして「個人の信仰」だって断ったんだろうけど。
ならば、ものは考えようだよね? いまの立場を捨てる気はないようだし、それくらいの理性は残した上で、絶対的な味方になってくれるならありがたい。
うん、正直に言おう。ほかにどうしようもなかったんだよ。「許します」って言うまで、どうやっても立とうとしないんだもん。




