心の痛み①
文字通り、冷水をぶっ掛けられた。
調子にのってたよ、私。ワルサさんや屋敷の人たちが、さほど抵抗なく迎え入れてくれたから。自分の育った国が戦争をしかけて、たくさんの人が死んだことをあまり考えないようにしてた。
ギュベニュー辺境伯領の、さらに端っこにある村。どこにでもありそうな、鄙びていくぶん元気のない、でも、確かに人が暮らしてる場所。
帰郷してからきのうまで、ワルサさんは執務室にこもりきりだった。私は私で新しい生活に慣れようと、それなりに忙しくしてたつもりだけど、時々さみしいな、つまんないなと思ってしまうのはどうしようもない。
溜った仕事を片付ける大変さは、わかってはいるんだけどね。王命とはいえ、私を迎えるために片道ひと月、花嫁の変更手続きでひと月、実質三カ月、領地を留守にしていたんだから。
書類の山を片付けたワルサさんは、晴々した顔で、領内の見回りをはじめた。私もわがままを言って、ついて行った。
遠巻きにされることは気にしない。だって、私は王女だし、まして敵国の出だ。
でも、行った先で、ワルサさんが村長に何事か相談されて、先に私を屋敷に帰そうとした。
必要な申請をするよう説得するとしか、教えてくれなかったけど、それに私が邪魔だとか、何か隠したいって感じじゃない。ただただ思いやってくれている。それがわかるから、よけいに苛立った。
疎外感っていうの? いつまで私をお客さま扱いするつもりなの、って。ずっと子供あつかいされてる焦りもあったかな。
我を通したのは私だ。未来の夫の仕事を見て、理解しなければならないって言い張った。
彼は、冷徹な判断もできる人だ。そのまま私をつれて、その家に入った。
傾きかけた小屋。明らかに耐久年数が過ぎて、くすんで抜けかけている屋根の萱。隅が剥がれ落ちてる壁。
二間きりの、奥の寝室に子供が横たわってた。荒れた肌の下の骨が目立って、ちゃんと息をしているのか不安になるほどだ。
母親らしき女が、いとおしそうにその額を撫でている。
いつから櫛を通してないのか、女の髪はぼさぼさだ。ろくに眠ることも、食べることもできていないということが、容易に想像できる。
それでもワルサさんのことはわかるらしく、膝をついて、お礼を言った。
「わざわざ、ご領主様がいらしてくれるなんて」
ワルサさんが軽く顎を引く。
「あなた方の献身に敬意と感謝を」
どういうこと?
「あなたの夫と長男は、此度のいくさで果敢に、勇猛に戦った。その命を持って、我が領と我が国を守った誇り高き戦士である」
ああ、そうか。納得すると同時に、胸が苦しくなる。他人事って顔をしていた自分が、本当は当事者なんだって自覚する。
そう。私の育った国が腕を振り下ろした。何度も、何度も。それを振り払うだけのこの国。そこに暮らす人々。
ただそれだけの理由で、この人は家族を亡くして、さらにいま、一人残った息子すら失おうとしている。




