こんにちは私①
ガツンと、頭に衝撃。痛いより、びっくりして、私は泣き出した。
「まあ大変。ハンナ、水に氷を入れてきて。早く」
駆け出してゆく、軽やかな足音。私を包む、あったかくて柔らかい感触。そして、安心する匂い。大柄な女性が私を抱き起して、そっと額を撫でてくれる。
「姫様、大丈夫ですか? 私が目を離したばっかりに」
申し訳ない、かわいそうにと、一生懸命あやしてくれるこの人は誰?
「ばあやぁ」
甘ったれた声が、私の口から発せられる。高い可愛らしい声。
「まあ、よしよし。すぐに冷やしますからね。大丈夫ですよ」
「お待たせしましたっ」
水の入った盥を抱えて、可能な限りの速度で戻ってきたと思われる。十四、五歳の少女は、ハンナ。身なりを見ればわかる。メイドだ。
ばあやと呼んでいるけど、二十歳そこそこの、笑顔のすてきな女性がユリリア。いわゆる乳母。
「痛いの痛いの溶けてゆけぇ」
氷水に浸したハンカチを額に当ててもらって、私は落ち着いた。内心は、大慌てだけど。
「キララ様、大丈夫ですか?」
ハンナがユリリアに聞く様子は真剣そのもの。大事に思われているらしい。直接、私に話しかけないのは、身分の違いのせいかな。
「だいじょー」
普通に話そうとしても、口がばぶばぶしてしまう。まだ、二歳にもなってないのか、私。
なんとか、直近の現状を理解しようと試みる。
うん。私はいま、美しいカーブを描く柵に囲まれてる。ベビーベッドだと思うけど、大人が横になれるくらい広い。
水漆喰で化粧された壁際に、木目の美しいキャビネットがあって、そこに仕舞われている私専用のおもちゃをほしがったらしい。
ユリリアが立ち上がって向こうを向いている隙に、私は勝手によろけて、つかまり立ちしていた柵にゴン。以上。