ギュベニュー辺境伯領
ギュベニュー辺境伯領は、多くが荒れ地だった。面目なさそうに存在している畑はぼそぼそ。街道も似たようなもので、馬車の後方につく護衛が気の毒だった。後塵を拝するって、こういうことなのね。
それなりにアップダウンはあっても、そびえ立つような地形は見当たらないなぁ。
王都方面側の領境には、それなりの山が連なってるらしいけど。あれ? これって、隣国(私の実家)とうまくいかなくなったら切り捨てられる、トカゲのおっぽの位置じゃない?
いやいや、私が来たからには、二、三十年は大丈夫なはず。おとんにせっせと手紙を送っておこう。留書は、愛するキララより。ハートマークは鉄板だよね。え? ハート通じない?
西には広大な森。でも、その緑は遠目にも疎らで、元気がないように見える。だから、館をとりまく林は、植樹したんじゃないかと思う。
「すてきなお屋敷ですね、ワルサ様」
「キララ様にとってはずいぶんと手狭でしょうが、くつろいでいただけるとうれしいです」
そりゃあね。王城と比べてしまえば、そうなるよね。でも、早川雲母の感覚からすれば、十分大きいよ! 自然と調和した歴史あるホテルみたい。前庭に植わってる白樺が、軽井沢を連想させる。
「本当にすてきです。私、こんなおうちに住んでみたかったんです!」
困ったような表情は、私が屋敷をおうちとか言っちゃったからかな? まあ、くさっても王女だからね。
玄関前に、使用人が勢ぞろい。映画のワンシーンみたいだなぁ、なんて。いやだ、私ったら、けっこうのん気。
相乗りしていたワルサさんが先に馬からおりて、私を抱いておろしてくれる。エスコートって言っても、身長差がはげしいから、親子みたいにお手々をつないでる。いいもんね。節くれだった指とか、ちょっとだけかさついてる感じとか好きさ。
横並びの列から一歩前に出て、直立している青年をワルサさんが示す。
「長男のギーブです」
「ようこそおいでくださいました、王女様。ワルサ・ノテム・ギュベニューが長男、ギーブ・ノテム・ギュベニューと申します」
十代後半かな? 思ったより若くて、内心首を傾げる。髪と耳の色はワルサさん似だけど、顔つきはもっと柔和。お母さんが、やさしい顔つきをしてたんだろう。
胸に手を当てて深く頭を下げられた。あ、ワルサさんにつないでた手、はなされちゃった。
私は軽くカーテシー。
「キケイラ・セム・ヤラレタです。どうぞよしなに」
互いに隠しきれない気まずさがあるけど、これはすぐにどうこうできるものでもないだろう。私が彼の立場だったら、変にべたべた構われたくないかな? もう、大人だもんね。
笑いかけると、ぎこちない笑みが返ってくる。
とりあえず、きちんとごあいさつはしたから、手つないで、手ぇ! 目が合うと、ワルサさんは小さく笑って、手を取ってくれる。これは、ちょっと癖になるよ。
あとは、家令とメイド長を紹介されて、ほかの使用人はおいおい覚えてね、って感じかな。ずっと頭下げてくれてるのに、ごめんね。




