売り込み③
疑問符は無視して、「はい」と言ったと言い張る。ね、聞いたよね? 付き添いのユリリア、護衛のブロンゾはもちろん、立ち働いてるメイドも、ワルサさんの護衛も、私の勢いに押されたようにうなずく。
唖然としているワルサさん。無意識にティーカップを持ち上げて、冷めない紅茶を口に含み、直後、吹き出した。
「あちっ」
貴族にあるまじき不調法。でも、誰も責めないよ。私は、すかさずハンカチを差し出す。できる女は違うね。
たぶん、ショックで頭が働いてないんだろう。ワルサさんは、真っ白いレースのハンカチに平気で紅茶の染みを作る。はっと気付いて、困ったように耳が寝ちゃうのが可愛い。なんだろう、この人。ちょっと、今日にでも嫁に行きたいんですけど。
「第二王女様、おち、落ち着いてください」
あなたこそね。向こうの護衛さんが、体をくの字に曲げて苦しんでる。いや、毒なんか盛ってないよ。あれは笑いの発作で、腹筋を鍛えているんだよ。
「キララと呼んでくださる約束ですよ?」
「は、はい。キララ様」
しかし、それでも、伊達に辺境守ってないよね。あっという間に立ち直って、厳しい横顔を見せる。でもね、耳がぴくぴく動いてるの。
わざとらしい咳払い。
「お気持ちは大変にうれしゅうございますが。キララ様のご一存、まして、私が勝手に決めるわけにはまいりません」
「はい」
そこは素直に応じて、好印象を与えなきゃ。
「まず、両親と宰相に話してみますが、よろしいでしょうか? ワルサ様も、どうか、子供の戯言と切って捨てずに、大使様とご相談いただきますよう、伏してお願い申し上げます」
私は席を立ち、深々と礼をする。カーテシーのつもりが、しっかり膝が付いちゃったよ。
「どうぞお直りください、キララ様。このことについて大使と話をすると、しかとここにお約束いたします」
やさしく言ってくれるけど、それってわがままな子供をあやす態度だよね。
やっぱりダメなのかなぁ。
いくら待ったって第一王女が折れるわけないし、正妃に押さえつけられた貴族たちも攻勢にではじめてる。私がとってかわるのは、次点の案としてはわるくないはずで、外堀から埋めていけば、なる確率は高い。
でも、なによりもまず、ワルサさんの気持ちが私を受け入れてくれないと。
あれ? 政治とか、自分の未来とか関係なく、なんかこう泣きたい気分。さっきまであんなにうきうきしてたのに、いきなり急降下だよ。
いやいや、落ち込んでる場合じゃない。せめて笑おう。
少しでも可愛い、いい子だって思ってほしいなんて、いったいどこの健気な乙女だろう?




